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不正融資「かぼちゃの馬車事件」の全貌とは? 被害者である著者が克明に描く【尾藤克之のオススメ】

   2018年、スルガ銀行による巨額の不正融資事件が発覚しました。時の金融庁長官に「地方銀行の雄」とまで評価されたスルガ銀行ですが、シェアハウス不正融資事件を引き起こし、被害者たちは長く苦しい闘いの日々が待っていました。

   被害者の一人である著者の冨谷さんは、離婚、自殺まで考えるほど追い詰められながらも、徐々に同志を増やし、被害者同盟を結成します。社会派弁護士らとの出会いにより、一人では到底勝ち目のない闘いをチーム戦で挑み、ついに累積1570億円の債権放棄を勝ち取ったのです。

「かぼちゃの馬車事件~スルガ銀行シェアハウス詐欺の舞台裏」(冨谷皐介 著)みらいパブリッシング
  • 被害者だからこそ知り得た詐欺事件の裏側とは
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かぼちゃの馬車事件とは

   いま、将来への不安があり、老後の年金や子どもの教育費など、これから準備をしておかなければいけないと考えている人は多いと思います。この気持ちにつけ込むかたちで発生したのが、スルガ銀行と不動産販売会社スマートデイズが結託した不正融資「かぼちゃの馬車事件」でした。

   冨谷さんは、その作欺事件に巻き込まれ、どん底まで突き落とされた被害者。読者の皆さまは、不正に引っかかることを、自業自得だと思われるでしょうか。じつは、冨谷さん自身が「かぼちゃの馬車事件」の被害者になるまでは、他の詐欺事件の被害者のことを「脇が甘い」と考えていたそうです。

   この事件の被害者たちは大手メーカーの管理職、SE、生保の営業マン、銀行員、医者、パイロットなど、ある程度の社会的評価を得て、一定以上の見識のある人たちです。しかし、誰もが考える「将来不安」につけ込まれました。事件当時、金融庁長官だった森信親氏が「地銀の優等生」と称賛。スルガ銀行を信用する人がたくさんいたため、被害が拡大していったのです。

   なお、スルガ銀行によるシェアハウスを除く、アパート・マンション等の不正融資事件については、まだ解決しておらず、被害者救済のための活動は続いています。

おいしい話にはやっぱり要注意

   じつは、筆者である私のところにも、不動産投資に関する話をもちかけられることがあります。ウサン臭い誘いには、いくつかの特徴があります。経験上、ポイントは3つにわけることができます。

1.節税対策(相続税)などに有利であること。
現金を残してもそれに課税されてしまうが、アパート経営などは有効であるというもの。

2.安定的収入が見込めること。
アパート経営は毎月安定した家賃収入が見込めること。景気変動にも強いというもの。

3.空いている時間にできる不労収入である。
時間に拘束されないため始めやすい。家賃収入からローンを返済するのでリスクがない。

   さらに、将来的に建物を売却したり、新たに建て直したりする等、さまざまな選択肢があるなどのメリットを提示します。提案書だけを見れば、全くノーリスクに見えてしまうのが特徴といえるでしょうか。

   ところが、部屋に空きが出たら即赤字になるシミュレーション、退去後のメンテナンス費用を考えていないなど、いい加減なものが少なくないのです。考えてみてください。永続的に入居率が100%ということは、ちょっと考えられない話です。

詐欺的な投資勧誘にのらないで

   健全な商売をしている人には迷惑な話ですが、「不動産投資家募集」による詐欺的な投資勧誘の可能性もないわけではありません。登録時点でかなりの費用がかかるのが特徴です。

   「新築のアパートを建てたい人を応援します。私が土地を見つけてくるので、その土地を購入して、紹介した業者を使いアパートを建設します。あとは、うまく利回りができるように運営するだけです。超簡単ですよね?」。こんな具合です。最後は、高利の負債だけが残ります。

   でも、確実に儲かる物件があった場合、それが一般に出回ることは考えられません。第三者が美味しい情報に有りつけるほど甘くはないからです。本当にオイシイ物件があるなら、私なら他人には紹介せずに自分で購入するでしょう。だから、目利きにならなければいけません。

   ひるがえって本書では、被害者だからこそ知り得た詐欺事件の裏側を、実体験をもとに克明に描き出しています。誰の身にも迫りうる詐欺被害への注意を喚起する、必読の一冊であるといえるでしょう。

(尾藤克之)