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なぜ30代のUターン転職は多いのか? 成功の秘訣&失敗の要因に迫る

   ゴールデンウィークに久しぶりに郷里へ帰ったのをきっかけに、Uターンを考えた人もいるのではないだろうか。本書「30代から地元で暮らす 幸せのUターン就職」(幻冬舎)は、地方特化型の人材紹介会社を経営する著者が、Uターン就職を成功させる方法を具体的に書いたものだ。

「30代から地元で暮らす 幸せのUターン就職」(江口勝彦著)幻冬舎

   著者の江口勝彦さんの経歴がユニークだ。1978年生まれ。千葉大学卒業後、東京日産自動車販売に入社(関東実業団バスケットボール所属)。2003年、新潟アルビレックスBBに入団。翌年にABA(米マイナーリーグ)挑戦のため渡米。

   2005年の現役引退後は、妻の地元である新潟に定住し、リクルート新潟支社でセカンドキャリアをスタートさせた。10年に人材紹介会社エントリージョンを設立し、経営者でありながらキャリアコンサルタントとして人材紹介、転職支援を行っている。

   これまでに1400人超の転職を支援し、96%の定着率(入社後3か月時点)という実績を持つ。そのうち30代が43%と最も多いという。なぜ、30代のUターン転職が多いのだろうか。

  • Uターン転職とただの転職の違いとは?(写真はイメージ)
    Uターン転職とただの転職の違いとは?(写真はイメージ)
  • Uターン転職とただの転職の違いとは?(写真はイメージ)

子どもの小学校入学がターニングポイントに

   地方移住をしたい人への情報提供や相談を行うNPO法人「ふるさと回帰支援センター」の利用件数は、2008年~2017年の10年間で約2500件から約3万3000件へと13倍に急増。また、2008年には50代以上が7割を占めていたが、2017年には40代以下が7割を占め、なかでも30代の利用者が伸びているという。

   江口さんがクライアントに転職動機をヒアリングすると、子どもの小学校入学が都会暮らしを続けるか、Uターンするかの一つのターニングポイントになっているそうだ。

   クライアントの多くは地方の公立高校から都会の大学へ進学し、大手企業へ就職した成功体験を持っている。だから、自分の子どもたちも、わざわざ都会で受験競争に参加させるよりも、地方でのびのび育てたい傾向が強いという。

   また、将来の親の介護にも対応できる、ワークライフバランスが実現するのではという期待もあるようだ。

   しかし、Uターン転職がうまく進まず断念する人や、転職はしたものの失敗して後悔する人も少なくない。その原因を6つ挙げている。

・地元の企業情報がない
・今の収入、職種、ポジションへのこだわり
・漠然とした転職理由
・今の仕事からの逃避
・配偶者など家族からの強い反対
・理想と現実のギャップ

   Uターン転職はただの転職とは違い、自分にとっても家族にとっても大きなストレスになるので、しっかりしたビジョンや人生設計を持つように説いている。

地方の中小企業はUターン人材を求めている!

   「どうせ地元にキャリアを活かせる仕事なんてない」とUターン転職をあきらめている人も多いだろう。地方企業の求人票は、大手転職サイトには集まりにくいからだ。

   しかし、実際には、地方の中小企業でもUターン人材を採用したいモチベーションは高くなっているという。

   リクルート社のレポートによると、地方の中小企業では「2社に1社は欲しい人材を集められていない」という現実がある。また、「中途採用の3割が3年以内に離職する」ので、人材不足が常態化している。

   だから、Uターン人材を採用した経営者の多くは「Uターン人材は優秀な人が多い」と歓迎しているのだ。

   Uターン転職の希望者は、情報を収集し、企業を決め、いざ面接という段階で重要になるのが自己PRだ。企業側の関心は「なぜ転職するのか」と「自社のメリット」の2つだ。

   「ワークライフバランスを改善したい」とか「地方を活性化したい」という理由はNGだ。自分の言葉で語るには、「この先の人生をどう生きていきたいか」「自分の強み、キャリアとは何か」を自分に問い、考えを深めていくことが大切だ、と強調している。

   そして、当該企業の理念や業務内容、市場での優位性などを企業研究したうえで、自分の力を発揮するのに最適の場所であることを語ればいい、とアドバイスしている。

   転職後に早く新しい職場に慣れるためにすべき5つのことを挙げている。

・積極的にコミュニケーションを取る
・わからないことは素直に聞く
・文化が違うことを受け入れる
・職場の人間関係を把握する
・転職後3か月は様子を見る

誰かのためではなく、自分のために!

   実際にUターン転職して成功した人の例を紹介しており、参考になりそうだ。

   東京のゲーム開発会社でプログラマーとして働いていた男性は、妻の実家がある長野市の製本・印刷会社に転職し、システムエンジニアに。

   東京のIT企業で立ち上げから働いていた男性は、新潟のアウトドア用品の製造販売を手掛ける会社に自らアプローチ、eコマースのマネージャーとして入社。この人は、ネット通販の改善を行い、翌年には営業本部長に昇格した。

   東京で企業広報やマーケティング担当として働いていた女性は、40歳を越え、Uターン転職を決意。郷里の富山にある老舗の製薬会社で働いている。

   入社と同時にデジタルマーケティング部に配属され、マネージャーとして化粧品のネット通販事業に取り組んだ。現在はヘルスケアマーケティング事業部のグループマネージャーとして働いている。

「富山で女性が活躍できる会社と出会えたのは嬉しい誤算。東京で得た経験やスキルを還元できる場所が地方には意外とたくさんありますし、新しいことにもチャレンジできます」

   そう彼女は語っていた。

   江口さんは

「Uターン転職は必ずしなければならないものではありません。ずっと都会で生きていく道もあります。そこをあえてUターン転職するのは、それが自分にとって不可欠であり、また家族を幸せにするのに必要だからです」

と書いている。

   誰かのためではなく、自分のために帰るという主体的な思いがあるとき、Uターン転職は成功に向かって動き出す、と。

(渡辺淳悦)

「30代から地元で暮らす 幸せのUターン就職」
江口勝彦著
幻冬舎
990円(税込)