J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

なぜときとして大事故は起こるのか? 知床観光船事故で再認識...顧客起点の「安全性確保」徹底不可欠(大関暁夫)

   ゴールデンウィークを前にした2022年4月23日、知床半島観光船が沈没し、乗客14人が死亡、12人がいまだに行方不明という、実に痛ましい事故が起きてしまいました。

   事故の不明者の捜索とともに事故原因の究明が進められていますが、観光船運航会社の運営に多くの疑問符が投げかけられ、経営者に対して厳しい批判の声が集まっています。

  • いま一度「安全性」を見直してほしい
    いま一度「安全性」を見直してほしい
  • いま一度「安全性」を見直してほしい

企業経営の最重要課題は「安全性確保」

   まず何より今回の事故の検証において問題視されているのは、日常的な安全管理に瑕疵があったとされる点です。

   企業経営は相手が個人であれ法人であれ、顧客の存在が必要不可欠です。製品や商品の提供、あるいはサービスの供与であっても、顧客の安全性確保は企業経営においては最重要課題です。

   対顧客安全性確保の観点から少しでも問題点、不安点がある場合は、何をおいてもその懸念が拭い去ることができるまで製品、商品、あるいはサービスの提供を休止するべきなのです。

   今回の事故に限らず、過去の多くの事故や不祥事において、安全性確保における手抜きや軽視が大惨事につながっているというのは、誰もが認識のあるところではないでしょうか。

   たとえば、関越自動車道で起きた夜行バスの大惨事(2012年)は、バス会社の運転手の健康管理を軽視した勤務体系によるものでした。記憶に新しい千葉県で起きたトラックが複数の児童を死傷させた事故(2021年)は、運送会社の運転手に対するお座なりな生活管理がもたらしたものでした。

経験的過信や過度なコスト意識が慢心を生む!

   このような大事故が繰り返されてもなお、今回のような人為的な事故が起きてしまうのは、ひとつには「自社は今まで大丈夫だったから、今回も大丈夫だろう」という経験的過信から「安全性」を軽視してしまう油断によるケースがあります。

   もうひとつには、「安全性」の瑕疵には気が付きつつ、このままではよくないと感じていながらも、収入増強や管理コスト削減を優先して「安全性」を後回しにした結果、大事故につながったというケースです。

   前者は怠慢経営による「安全性」軽視、後者はいわゆる金儲け主義による「安全性」軽視です。どちらも経営者失格ではありますが、とくに後者は、企業経営にとって最も恥ずべき犯罪的行動であるとの認識が必要でしょう。

   報道によれば、今回の事故は、他社が運航を開始する時期よりも早く単独でツアーをはじめたこと、日常的に多少の天候の不安があっても船長に出航を指示していたとの関係者談話などから、より後者の色合いが濃いと考えられます。

   世の多くの経営者が今回の観光船運営会社のような、金儲け優先で「安全性」を軽視しているということがないと祈るばかりですが、この事故を聞いて、ひるがえって自らの経営に少しでも疑念を感じるような経営者がいるなら、すぐにその姿勢を改めてほしいと思うところです。

   「安全性」とは、必ずしも人命を危うくするか否かが基準ではない、ということも申し添えておきます。自社製造の機械や部品取り扱いにおける事故防止や、今ならばサービス業におけるコロナ感染予防なども、収益に先んじて対応をはかるべきものとの認識が必要です。

   以上の関連で、経営において顧客満足度を引き上げる「対顧客対応のあるべき三原則」の話をしておきます。

企業経営ではこの「三原則」を肝に銘じて

   三原則その1は、最優先はやはり「安全性」です。

   繰り返しになりますが、これは何をおいても外せないものであり、どんなに素晴らしい製品やサービスを開発し、取り扱っていようとも「安全性」に問題ありと感じさせてしまうのなら、その段階で顧客は確実に自社から離れていくことになるということです。

   その2は「快適性」です。

   「安全性」の確保をはかったのちに経営が持つべき対顧客視点は、自社の製品、サービスをこれまで以上に快適にご利用いただくためにどのような改善をはかるべきか、ということです。

   「快適性」改善に終わりはなく、そのために常に利用者目線で製品、サービスを見て、正直な顧客の声が集まるしくみをつくることも大切です。「快適性」の向上は、経営者一人が考えるのでは限界があり、社員全員が同じような考えをもって、自己の仕事と向き合える社内風土を作る必要があります。

   社内風土づくりは一朝一夕にはいきません。トップの率先垂範と、コツコツと根気よく言い続ける愚直な努力がポイントとなります。

   その3は「経済性」です。

   「安全性」「快適性」を向上させることで、自社の製品、サービスは「選ばれうる」ものになります。しかし、「選ばれうる」が、確実に「選ばれる」になるためには、「経済性」の向上が必要になります。

   「経済性」とはすなわち価格のこと。製品、サービスの「快適性」からみて、納得性の高い価格であるかということです。価格は安ければいいのかといえば決してそうではなく、「快適性」に比べて安すぎると感じられてしまう価格設定は、むしろ「安全性」に不安を感じさせることになりかねません。

   適正かつ一定の経営努力を感じさせお得感のある価格設定が、望ましい「経済性」ということになります。

   この「対顧客対応のあるべき三原則」の中で、「安全性」だけが若干性格が異なります。「快適性」「経済性」が欠けることだけならば、大きな顧客離れにはならないでしょう。

   しかし、「安全性」の欠如が明らかになった場合、著しい顧客離れを招くことになり企業経営に致命的なダメージを与えるであろう点です。「安全性」がいかに重要なことであるのか、この点からも分かると思います。

   知床観光船の事故は、顧客起点の経営の観点から、運営会社は致命的なミスを犯していたと言えるわけで、同社の別事業である旅館業も含め廃業に追い込まれることは確実でしょう。一日も早い行方不明者の発見と事故原因の全貌解明を願っています。

(大関暁夫)