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穏やかではいられない! ウクライナ危機でJT社員の給与は上がる?下がる??

   上場企業の財務諸表から社員の給与情報などをさぐる「のぞき見! となりの会社」。今回取り上げるのは、日本たばこ産業(JT)です。

   JTは日本専売公社として1949年に設立され、1985年に民営化。1994年に東京、大阪、名古屋の各市場一部に上場。現在は東証プライム市場に所属しています。積極的なM&Aでグローバルに事業を拡大し、たばこ事業の販売数量で世界3位(中国国家煙草総公司を除く)、70以上の国と地域で事業を展開しています。

  • JT社員はウクライナ情勢が気になって仕方がない…
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伸び悩み?「調整後営業利益」は目標をクリア

   それではまず、JTの近年の業績の推移を見てみましょう。

   JT(IFRS=国際会計基準)のこの5年の売上収益は2兆円を超えていますが、期によって大きく増減しています。営業利益は2018年12月期に前期比で増加したものの、その後は5000億円前後で伸び悩んでいます。

   営業利益率は、この5期間で右肩下がりに悪化。2021年12月期は4期前と比べると4.7ポイントも減少しており、事業の利益性が下降傾向にあるように見えます。

   しかし、会社が重視する独自指標の「為替一定ベースの調整後営業利益」で見ると、2021年12月期の営業利益は5984億34百万円。目標の5120億円を大きくクリアし、前期比で22.9%も増加しています。為替変動を除くと、経営は順調に成長しているようです。

   2022年12月期の業績予想は、売上収益が前期比0.4%減の2兆3150億円、営業利益は同7.0%増の5340億円(為替一定ベースの調整後の営業利益6350億円。前期比4.0%増)の見込みです。

海外たばこ事業が国内事業を大きく上回る

   JTの事業セグメントは、以下の4つです。

・国内たばこ事業:国内たばこ製品の製造・販売、および輸入たばこ製品の卸売販売等
・海外たばこ事業:海外におけるたばこ製品の製造・販売等
・医療事業:JTが研究開発を行い、鳥居薬品が製造・販売・プロモーション
・加工食品事業:冷凍・常温食品、調味料、パン等の製造、販売をテーブルマーク等が行う

   上記報告セグメントのほかに、不動産賃貸等に係る事業等を営んでいます。2021年12月期の報告セグメント別業績は、以下のとおりです。

・国内たばこ事業:自社たばこ製品売上収益が5198億円(前期比0.8%増)、調整後営業利益が1824億円(同8.6%増)
・海外たばこ事業:自社たばこ製品売上収益が1兆4821億円(前期比18.5%増)、調整後営業利益が4544億円(同33.3%増)※過去最高業績
・医療事業:売上収益が804億円(前期比1.8%増)、調整後営業利益が111億円(同35.4%減)
・加工食品事業:売上収益が1472億円(前期比1.4%減)、調整後営業利益が40億円(前期は減損損失で赤字)

   海外たばこ事業は国内たばこ事業の2.9倍の売上収益、2.5倍の調整後営業利益を生んでいます。売上収益の約6割、調整後営業利益の7割以上を海外たばこ事業であげているグローバルな会社ということになります。

   海外たばこ事業の内訳は、South and West Europe(南および西ヨーロッパ)が16.5%の2451億円、North and Central Europe(北および中央ヨーロッパ)が21.1%の3127億円、CIS+(ロシアなど独立国家共同体および周辺国)が23.1%の3424億円、Rest-of-the-World(その他)が39.3%の5819億円でした。

JTはロシア最大のたばこメーカー

   JTは、2017年にインドネシアのたばこ会社(1万3296人)を、2018年にバングラデシュのたばこ会社(6005人)をそれぞれ買収したことで、2018年12月期には連結で6万3968人、単体で7457人まで増えました。

   しかし、その後はM&Aなどもなく、2021年12月期末の従業員数は連結5万5381人、単体7154人に落ち着いています。

   JTの従業員の平均年齢は微増傾向にあり、2021年12月期の平均年齢は43.4歳、平均勤続年数は18.3年に。平均年間給与(単体)は前期比68.3万円増の897万8793円と900万円台を目前としています。

   JTの新卒採用サイトを見ると、総合職の場合、学部卒の基本給が21万7500円、これに地域手当が加算されて月給となります。賞与は年2回。2021年12月期は「為替一定ベースの調整後営業利益」で目標を大きくクリアしており、賞与も増えた可能性があります。

   JTの収益の柱は、前述のように外国たばこ事業ですが、それだけにロシアのウクライナ侵攻が事業に影響を与える恐れがあります。なぜなら、ウクライナ中部に日本向け「キャメル」などを製造する工場があり、2月25日に操業を停止しているからです。

   また、JTはロシアでも4か所の工場を稼働させており、ロシア最大のたばこメーカーとなっています。報道によると、ロシアとウクライナを含めた近隣諸国での利益は、JT全体の約2割。工場の稼働ストップやルーブル安が業績に与える影響は決して小さくないでしょう。その後、4月末には、ロシア事業売却検討、とも伝えられました。

   JTの株価は2022年1月17日に2380円の年初来高値をつけましたが、2月14日の「株主優待制度の廃止」発表を受けて急落。さらにウクライナ侵攻で3月9日には2000円の年初来安値に。しかし、その後は値を戻し、直近では2300円前後で推移しています。(こたつ経営研究所)