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仕事ができる人になりたければ、「数字」でとらえよ! できる人に共通する「型」伝授

   いま、ビジネス書のベストセラーになっているのが、本書「数値化の鬼」(ダイヤモンド社)である。日販オープンネットワークウィンの調べでは、ビジネス書の3位にランクイン(3月21~27日)。「鬼」という言葉が気になり読んでみたら、たいへん合理的な思考法を説いた本だった。いかなるときも、「感情」を脇に置き、「数字」で考えられることによって、「仕事ができる人」になれるというのだ。

「数値化の鬼」(安藤広大著)ダイヤモンド社

   著者の安藤広大さんは、株式会社識学代表取締役社長。早稲田大学卒業後、NTTドコモを経て、ジェイコムで取締役営業副本部長を歴任。2013年、「識学」という考え方に出会い、独立。2019年、創業から4年あまりでマザーズに上場。約2700社以上に導入された実績を持つ。

   「識学」とは、安藤さんによれば、組織内の誤解や錯覚がどのように発生し、どうすれば解決できるか、その方法を明らかにする学問だという。「いったん数字で考える」ことが基本だ。

  • おなじみ「PDCA」のうち、「D」の回数がポイントだ
    おなじみ「PDCA」のうち、「D」の回数がポイントだ
  • おなじみ「PDCA」のうち、「D」の回数がポイントだ

手始めに「自分の1日の行動を数字で考える」

   まずやってみてほしいのが、「自分の1日の行動を数字で考えること」だという。多くの人は半年や1年間で目標を設定しているだろうが、中だるみしやすい。大きな目標を「1日ごと」に分解することが大事だ、と説いている。

   働いていると、毎日、日報を書いたり、「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」をしたりする人もいるだろう。だが、数字と向き合わず、「結果は出ていませんが、こんなに頑張っています」とか「数字以外の部分で貢献したので評価してください」などと、「言い訳」する中堅社員も少なくない。

   そもそも、仕事ができる人とは、結果を出して評価されることであるはずだ。そのため、安藤さんが提唱する「識学」では、上司は部下の「プロセスを評価しない」という考え方がある。これは、ゴールである「目標(数値化されたもの)」を設定したら、あとはどのように部下が達成するか、その選択の権限を与えることを意味する。

   やり方はいろいろあるが、仕事ができる人にはある共通する「型」があるという。それが一般に「PDCA」と呼ばれるフレームワークだ。「P(プラン):計画」、「D(ドゥ):行動」、「C(チェック):評価」、「A(アクション):改善」の一連の流れで回すものだが、「識学」流では以下のような特徴がある。

「計画」は時間をかけないで、「行動量」を増やす

   「P(計画)」に時間をかけないことだ。新入社員や若手に多いのが、「P(計画)」から「D(行動)」へ移るときのロスタイムだ。「D」の回数が「行動量」というキーワードだ。安藤さんは「何回やったのか」「1日に何時間できたのか」という量こそが大事だ、と強調している。

   そこで、数をこなすためのすぐやる仕組みを導入する。それが、目標のための目標「KPI」という概念だ。直訳すると、「目標を達成するための数値化された指標」である。

   上司は、基本的に部下のプロセスに口出ししないのが「識学」流だが、新人やどうしても結果が出ない人に対しては、最初にプロセスを管理する必要がある。そのため、「KPI」を設定して、すばやく「D」に移れるように環境づくりをする。

   たとえば、「1年以内に商品化を1つ実現させる」という目標がある場合、「企画書を月4つ提出する」「毎週末に、新しい企画書を1つ仕上げる」という「KPI」を設定する。だが、「KPI」のほうが大きな目標であるかのように誤解されることもあるから注意が必要だ。そのため、「企画書を1カ月以内に1つ通す」「試作段階まで話を進める」など、次のステップにつなげるよう促す。

   ここまでが「仕事ができる人」になるための5つのステップの、ステップ1「行動量」を増やすだ。

   次がステップ2「確率」のワナに気をつける。何年かするうちに伸び悩むのは、達成率、契約率、成功率など、確率にこだわるからだという。量をこなすと、次は質にこだわるのは当然だが、量よりも質が上回り、「質を上げること」が目的になってしまうと、「働かないおじさん」への第一歩になってしまう。

考えてもムダなことを見極めよう...「変数」への意識が仕事の成果に直結

   ステップ3では、「変数」を見つけるようにする。ビジネスには、「考えるべきこと」と「考えてもムダなこと」があり、それを見分けるのが「変数」という概念だ。

   「変数が何か」をつかむことが仕事の成果に直結する。

   これについて、自社で開発したシステムを、法人営業で契約を取る業務を例に説明している。変数を見つけるためには、やることを時系列で整理するのがポイントだ。

   たとえば、「最初のアポイントを入れる」「お試し期間としてシステムを試してもらう」「契約の申し込みを獲得する」という3つの工程に分ける。こうすると、アポを増やしながら、どこを頑張ればいいのか、「なぜ?」を繰り返すうちに、連絡やフォローの「回数」が「変数」であったことに気づける。そして、気づいた人から成長する。変数ではないものには固執しない、他人の成功論はすべて変数ではなく「仮説」だ、と安藤さんは考えている。

   このテーマを推し進め、ステップ4では、「真の変数」に絞ることを強調している。変数は放っておくと増えていくからだ。そこで必要になるのが「変数を捨てる」という考え方だ。間違った努力をしている部下がいたら、上司は「それは変数ではない」とフィードバックする。

   また、上司や会社が変数になってもいけない。どんな人が上司であろうと、部下にとっては平等でフェアな職場づくり、チームづくりが必要だ。組織の中の「カリスマ」への依存は危険であり、「環境のせい」にする経営者は失格だ、と厳しく指摘している。

   最後の5つ目のステップが、「長い期間」から逆算すること。つまり、短期的と長期的、2つの軸で物事を見ることだ。

   通して読んでみて、「変数」の考え方が独創的だと思った。また、「売上を上げろ」と、精神論で発破をかけるのではなく、「何が変数なのか」を理詰めで考える科学的な姿勢も好ましい。コロナ禍で経営環境が厳しいいまこそ、それを言い訳にするのではない発想が求められている。そこに答えたのが、ベストセラーになった要因ではないだろうか。

(渡辺淳悦)

「数値化の鬼」
安藤広大著
ダイヤモンド社
1650円(税込)