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離農も進むけれど...ダイヤモンド「儲かる農業」、東洋経済「エネルギー戦争」、エコノミスト「超円安」を特集

   「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。

  • エネルギー戦争の行方とは(「週刊東洋経済」の特集から)
    エネルギー戦争の行方とは(「週刊東洋経済」の特集から)
  • エネルギー戦争の行方とは(「週刊東洋経済」の特集から)

豪農化する農業法人と赤字転落危機の農協

「週刊ダイヤモンド」(2022年5月28日号)
「週刊ダイヤモンド」(2022年5月28日号)

   「週刊ダイヤモンド」(2022年5月28日号)は、「儲かる農業2022」と題した特集を組んでいる。肥料などの価格高騰により、離農が進む一方で、規模を拡大した農業法人は売上高100億円以上を視野に豪農化を進めている。

   農家アンケートなどをもとにランキング化した「レジェンド農家」の1位に輝いた林牧場(群馬県前橋市)と2位のファロスファーム(大阪府四条畷市)は、農家から規模を拡大した大規模養豚場として業界で双璧をなす存在だ。ともに、22%という高い利益率をたたき出している。

   ファロスファームは、4万頭の豚を飼育する農場をたった15人の社員で運営する合理的な生産を実現した。疾病を持ち込まない飼育を徹底し、1頭当たりの薬品代は、業界平均の1700円弱に対して約300円に抑えられているという。

   3位の舞台ファーム(宮城県仙台市)は、東北を代表する豪農だ。東日本大震災で被災し、地元のアイリスオーヤマの支援を受け、事業計画を練り直した。

   作業の9割が自動化された日本最大級のレタス工場を建設。太陽光とLEDで野菜を育て、リーフレタス国内需要の5~6%を供給できる規模だ。グループ全体で売上高41億円の規模に成長した。

   8位の田中ファーム(新潟県上越市)は、土木業や運送業を営む田中産業の農業部門だ。異業種のノウハウと人材を農業に活用している。水田は4枚の田んぼを自社で合体させた広いもの。ドローンから農薬や肥料を散布するなど、作業の機械化、自動化でコメの生産コストを15%削減できたという。

◆農協の実態に迫る

   農家が豪農化するのをチャンスととらえ、アグリビジネス企業も投資を加速させている。

   農業の生産から販売までを支援するプラットフォーマーとして農家が期待する1位は、JA全農、2位は農機メーカー最大手のクボタだ。3位の三菱商事、4位のソフトバンクグループ、5位の住友商事はJA全農を追撃する体制を整えつつある。

   三菱商事は、畜産分野で飼料の販売から食肉の販売までのバリューチェーンを完成させた。ソフトバンクは、農場環境監視システム「e-kakashi」を普及。住友商事が始めた配車サービス「CLOW」は、農家の囲い込みの力となっている。畜産のDXには、パナソニック、トヨタ自動車、NTTも参戦。農業に技術革新の波が押し寄せている。

   特集では、農協の実態にも迫っている。

   その元凶と言われるのが共済事業だ。貯金を集めて農林中金に運用を委託し、運用益を還元してもらうビジネスモデルは限界となり、共済事業に力を入れている。JA共済の保有契約高は103兆円と、日本生命に次ぐ規模だ。ところが、ノルマを強制し、職員が「自爆」するなど、不適切な販売が明るみに出てきた。

   これまで日本の農業を支えてきた農協が地盤沈下する一方、農業法人が力をつけてきた。小規模農家の離農が進み、農地はますます農業法人に集約されていく。日本の農業の姿が大きく変わろうとしている。

燃料高で「電力難民」が急増

「週刊東洋経済」(2022年5月28日号)
「週刊東洋経済」(2022年5月28日号)

   「週刊東洋経済」(2022年5月28日号)の特集は、「エネルギー戦争」。ロシアによるウクライナ侵攻は世界のエネルギー秩序も破壊した。その余波は、日本にも襲いかかっている。

   燃料高で「電力難民」が急増しそうだという。東京電力グループの新電力会社テプコカスタマーサービス(TCS)は、卸電力価格高騰を理由に、4月上旬、従来の2倍を超える大幅値上げを顧客に通告した。値上げに承諾しなければ契約解除も辞さないとしている。

   こうした一方的な大幅値上げの提示が、独占禁止法違反(優越的地位の濫用)に当たるとして、関西地区の400社を超える顧客企業が公正取引委員会に排除措置命令を出すように求めた。

   卸電力価格はロシアによるウクライナ侵攻後、さらに高騰。3月の平均価格は1キロワット時当たり26円と昨年同月の4倍に跳ね上がった。

   契約打ち切りになった場合に備えて、「セーフティーネット」とされる、最終保障供給契約を他の送配電会社と結ぶ必要があるが、割高になる。しかし、送配電会社側も受け入れに消極的だ。トンネルの出口は見つかりそうにないようだ。

◆ウクライナ危機で「脱炭素」はどうなる?

   ウクライナ危機はエネルギー市場、脱炭素の潮流にどう影響するのか。

   日本エネルギー経済研究所専務理事・首席研究員の小山堅氏は「危機は2~3年続く。安全保障と経済効率性のバランスを重視したエネルギー政策が求められる」と話している。

   ただ、再生可能エネルギー導入や省エネを推進しようとしても、効果が出るには時間がかかるため、短期的には天然ガスや石炭、原子力の利用が重要になる、と見ている。

   欧州復興開発銀行の初代総裁を務めた経済学者・思想家のジャック・アタリ氏のインタビューも興味深い。アタリ氏は「脱ロシアにより、EU諸国は持続可能なエネルギーへの移行を加速させ、脱炭素社会の模範生になるだろう」と語っている。

   また、「今回の危機にかかわらず、化石エネルギーからの脱却は既定路線だった。この移行が実現すれば、欧州諸国は先行者利益を得ることができる」と楽観的な見方を示している。

   日本については、発想の転換を求めている。エネルギー消費を減らし、化石エネルギー、さらには他国への依存を減らす社会をつくりだすことを期待している。

   医療、教育、健全な食などの分野を軸に、情報テクノロジーを活用する社会を構築するしかない、としている。

   一方、ユーザー側の対策も取り上げている。

   東京電力エナジーパートナーは、ダイキン工業などと共同開発した「おひさまエコキュート」を活用した新たな電力サービスを1月に発表した。原発など夜間電力の活用を前提としてきた従来のエコキュートの使い方を見直し、昼間の太陽光発電の電力を有効活用するものだ。

   断熱や太陽光発電、電気自動車、電化などユーザー側の取り組みは、CO2の削減を進めるうえで最も費用対効果が高いという。かつてオイルショックが企業の省エネを進めたように、今回のウクライナ危機が家庭の省エネを進めるのか。淡い希望をそこに見出したい。

株取引で損をした人を「岸り人(きしりびと)」と呼ぶ

「週刊エコノミスト」(2022年5月31日号)
「週刊エコノミスト」(2022年5月31日号)

   「週刊エコノミスト」(2022年5月31日号)の特集は、「超円安サバイバル」。歴史的な円安をどう乗り切るのか。影響を検証している。

   「ビッグマック指数」という経済指標による円安レポートが面白い。「米国のビッグマック価格」と「そのほかの国のビッグマック価格」を比較することで、その国の「通貨の購買力格差」を把握するというものだ。

   1月の日本のビッグマック指数は、マイナス41.7%と大きく下振れしていた。価格は390円(3.39ドル)と、米国よりかなり安かった。円はドルよりも約4割過小評価されていたことになる。ブラジル、タイ、中国といった新興国よりも低水準で、先進国中では最下位クラスだという。

   5月時点では、米国のビッグマック価格は5.34ドル。日本円に換算すれば689円だ。日本はさらに3.02ドルまで安くなっている。この20年、米国のビッグマック価格は上昇する一方、日本は横ばいになっている。

   参院選を前に「悪い円安を止めたい」政府と「円安を辞さない」日銀の間でズレが生じている、という第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏の寄稿にも注目した。

   日銀は円安を止めるつもりはなく、物価は上がり続ける。政府は日銀を通じてあえて円安を止めることはしないでいる。物価上昇への不満の声が高まり、政府がいつ動くのか。

   岸田首相の言動が株式市場に影響を与え、株取引で損をした人を「岸り人(きしりびと)」と呼ぶそうだ。その1人が取材に応じ、入国規制の即時撤廃と観光誘致、さらに株式資本主義からの脱却などの政策の撤回を求めている。

   岸田首相の支持率は上がっているが、株式資産を持っている人には評判が悪い。多様な国民の声をどう救い上げるのか。政府の円安への対応が注目される。

(渡辺淳悦)