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外資の戦略系コンサルティングファームの内定得るには? 論理思考が決め手

   最近、東大生の就職先として人気が高いのは、マッキンゼー・アンド・カンパニーなどの外資の戦略系コンサルティングファームだという。そうした学生への就職支援活動を行っている東大ケーススタディ研究会のノウハウを詰め込んだ本書「東大ケーススタディ研究会 伝説の『論理思考』講座」(東洋経済新報社)が、今売れている。具体的な例題を解きながら、「論理思考」を身につける内容だ。

「東大ケーススタディ研究会 伝説の『論理思考』講座」東大ケーススタディ研究会編、白木湊著(東洋経済新報社)

   同研究会は、2008年から戦略系コンサルティングファーム志望者を中心に活動を開始。著者の白木湊さんは同会メンバーで、東京大学理学系研究科修了。2013年から外資系コンサルティングファームに勤務。2021年から日系コンサルティングファームのマネージャーを務める。大学生や新社会人を対象に「論理思考」に関する指導を行っており、直近4年間では学生の受講者の73%が外資系コンサルティングファームに内定するという実績を持つ。

具体的、多様なファクトを示すのが論理思考

   「論理思考」とは、どのような思考を指すのだろうか。最初に論理思考が満たすべき条件を挙げている。それは、「具体的な事実(ファクト)によって、自分の意見の妥当性を補強できている」ということだ。

   「フィットネスクラブの会費」を例に説明している。たとえば、「日本のフィットネスクラブの会費は高すぎる」という文章だけでは、単なる「個人的な感想」にとどまる。この文章が論理的であると認められるには、この文章を正しいとする「根拠」が必要だ。

   日本とアメリカの平均的な会費を比較すると、論理的な意見に近づくが、それだけでは論理力は低いと指摘する。単純な平均だけでなく、「店舗サイズ別の平均」「店舗別の会費一覧」などの、より具体的なファクトを示すほうが、より論理的になる。

   「論理的ではない思考」の典型的な特徴は、「ファクトとして示しているものが、ファクトではない」「ファクトの具体性が乏しい」「ファクトを示す範囲が狭い(ファクトが少ない)」という特徴がある、と説明する。

   論理思考では、多様な視点から検討を行い、多くのファクトを提示する必要がある。一部のファクトだけを強調した意見は、「考えた本人には論理的に見えてしまう」が、「他人(客観的)から見た場合、論理的ではない」のだ。

   つまり、示したファクトが「具体的(深い)」「多様(広い)」という2つの条件を満たすほど、より論理的と言える。

正解を1つに特定できない「ケース問題」

   論理思考の習得方法として、「ケース問題」を出題している。以下のようなビジネス系の問いで、コンサルティング業界を中心とした外資系企業の採用面接で出題されるという。

・「1000円カットのチェーンA社の売上を上げるには?」
・「野菜ジュースの市場シェア2位企業が、市場シェアを上げるには?」
・「とあるアフリカの航空会社が、自然公園を運営することの是非」

   30~45分程度の短い時間で、「ある程度妥当な解答」を導くことが求められる。また「情報収集(Webや書籍による調査)」は認められない場合が大半だ。すでに知っている情報だけを活用して解くことになる。

   上記の出題例から感じ取れるかもしれないが、ケース問題は「正解を1つに特定できない問い」が大半だという。「1000円カット」の例では、有効な結論(打ち手)として、「反則の最適化」「出店場所の見直し」「提供サービスの追加」などが想定される。

   つまり、「最終的な結論」ではなく、「途中の検討プロセス」が重要なのだ。論理思考力があるかどうかを企業は判定する。コンサルティング業界の採用面接の場合、「論外」「ほぼ0点」の解答が約半数というから厳しい。

論理思考は「論理力×想像力×知識」で決まる

   白木さんは、思考力として「論理力」と「想像力」の2つが重要だ、と説明する。さらに、ケース問題の例からわかるように、さまざまな社会事象について、ある程度の知識があると解答しやすい。知識の量を増やすことも大切だ。そして、以下の結論を導いている。

論理思考は「論理力×想像力×知識」で決まる

   この後、「日本にある携帯電話の台数は?」「アフリカの航空会社による自然公園事業の可否は?」などの例題に基づき、論理思考の実際を学ぶ。「仮説思考」「構造化」などがキーワードとなる。

   最後に、日常の出来事から知識を抽出するための工夫について紹介している。たとえば、近所のフィットネスクラブで、入会を検討するために見学した際、「平日昼間利用限定:月8000円」という価格表を見たら、「なぜ、平日昼だけ利用可能なプランは、安い価格設定なのか?」と疑問を持つようにする。つまり、何気なく目に入った情報にも関心を向ける習慣を持てば、知識を得る機会が増えるのだ。

   また、知識を得るには、考えるだけでなく、行動に移すことは大切だという。たとえば、週末のオフィス街で、ガラガラの飲食店で食事をする機会があったら、「週末で人通りも少ないのに、なぜお店を開けているのか(休みにしないのか)、店長さんに質問」する。

   そうして蓄積した知識があれば、小売業では「すいている時間帯の集客」が課題になりやすいことが分かるという。「知識を関連づけしておくと、筋の良い仮説を立てやすくなる」と解説している。

   本書のサブタイトルは「ケース問題で『広い視野』『深い思考』をいっきに鍛える」。こんな問題も出ている。「とある大手乳製品メーカーA社が、乳幼児用の粉ミルク事業の売上を向上させるには?」という問いに対して、「高付加価値・高価格のプレミアム商品を開発」という解答はNGだ。理由は本書で確認していただきたい。

   こうした問題で論理思考を鍛えれば、コンサルティングファームに採用されやすいのもうなずける。クイズでどうでもいい知識を溜め込むばかりが、東大生ではないのだ。

(渡辺淳悦)

「東大ケーススタディ研究会 伝説の『論理思考』講座」
東大ケーススタディ研究会編、白木湊著
東洋経済新報社
1980円(税込)