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「3%賃上げ」は何だったのか? 実質賃金前年比1.8%減のトホホ! エコノミストお手上げ「よほどのことがない限り...」

   「3%を超える賃上げを期待します!」。経済団体に呼びかけた岸田文雄首相の勇ましい掛け声を聞いたのは昨年(2021年)11月、新しい資本主義実現会議の席上だった。

   それから7か月余の2022年7月5日、トホホホな現実を突きつけられた。厚生労働省が発表した毎月勤労統計調査(速報)で、5月の実質賃金が前年同月比より1.8%減少したことがわかったのだ。

   2020年の平均よりも14.8%ポイントもの落ち込みである。いったい、どうなっているのか。エコノミストらの分析を見ると――。

  • 実質賃金が下がってはなあ…(写真はイメージ)
    実質賃金が下がってはなあ…(写真はイメージ)
  • 実質賃金が下がってはなあ…(写真はイメージ)

実質賃金指数、2020年平均を100とすると85.2に

   厚生労働省の発表資料や報道をまとめると、毎月勤労統計調査のポイントは次の通りだ。

(1)名目賃金に相当する5月の現金給与(就業形態別合計)の平均は27万7016円と、前月に比べ1.0%増で5か月連続の増加となった。そのうち基本給部分にあたる所定内給与は24万7975円と1.2%増の伸びだが、残業代などを含む所定外給与の伸びが大きく、5.5%増の1万8339円で14か月連続のプラスだった。

(2)一方、ボーナスや諸手当など「特別に支払われた給与」は7.0%減の1万702円だった。

(3)就業形態別合計の現金給与を、一般労働者とパートタイム労働者に分けると、一般労働者の現金給与は35万7047円(1.2%増)、パートタイム労働者の現金給与は9万7600円(1.9%増)だった。

(4)そして、実質賃金を見ると、消費者物価指数(持ち家帰属家賃のぞく総合)が前年同月比に比べ2.9%上昇したため、前年同月比で1.8%の減少となった。これは、新型コロナ禍のピークだった2020年7月(1.8%減)以来の落ち込みだ。また、実質賃金指数でみると、2020年平均を100とすると85.2となる。つまり、2020年の平均賃金より、実質で14.8%ポイント減ったことになるわけだ=図表参照

(図表)実質賃金の下落が著しい賃金の動きグラフ(厚生労働省の毎月勤労統計発表資料より)
(図表)実質賃金の下落が著しい賃金の動きグラフ(厚生労働省の毎月勤労統計発表資料より)

今年は年間を通じて実質賃金がマイナスになるのか?

   こうした実質賃金の減少は、物価の急激な上昇に賃金の伸びが追いついていない現実を映し出している。

   今後も円安の加速やロシアのウクライナ侵攻の影響で、エネルギーや食料品価格の上昇が収まらないが、実質賃金の目減りはこれからも続くのだろうか。今回の発表について、専門家たちはどうみているのだろうか。

財布の中をさびしくのぞく...(写真はイメージ)
財布の中をさびしくのぞく...(写真はイメージ)

   日本経済新聞(7月5日付)「実質賃金5月1.8%減、2カ月連続マイナス 物価高響く」という記事につくThink欄の「ひと口解説コーナー」で、日本経済新聞社特任編集委員の滝田洋一記者は、

「賃金の伸びが物価の上昇に追いつかないといいますが、その賃金に見逃せない変化が起きています。所定内給与の前年同月日の伸び率が、3月1.0%、4月1.0%、5月1.2%と3か月連続で1%を上回り、しかも5月は伸び率をやや高めたのです。(中略)名目賃金が上向きだしたことは確かでしょう。ひとつ見逃せないのは人手不足の影響。飲食サービス業では5月の所定内給与が8.4%伸び、所定外給与に至っては71.6%増えました」

と指摘、今後の景気回復に期待を示す。

   一方、同欄で日本経済新聞社編集委員の石塚由紀夫記者は、「オイルショックなどをきっかけに物価が高騰した1970年代半ばは、賃上げも同時進行していました。値上げ率2桁は当たり前、狂乱物価と呼ばれた1974年の春季賃上げ率は30%を超えました」と、過去の例を引き合いに、「今の日本は賃上げが物価高に追いつかず、実質賃金は下がり、暮らしは苦しくなる一方です。物価高に伴い、どこまで賃上げが進むのか。あるいは賃上げに堪えうる体力が企業にあるのか。先行きはかなり不安です」と、今後の見通しは不透明だとした。

賃上げ可能にする環境づくりが岸田文雄内閣の仕事
賃上げ可能にする環境づくりが岸田文雄内閣の仕事

   ヤフーニュースのヤフコメ欄では、第一生命経済研究所首席エコノミストの永濱利廣氏は、「実質賃金の内訳を見ると、名目賃金が前年比プラス1.0%増えているものの、帰属家賃除く消費者物価が同プラス2.8%上昇しているため、結果として実質賃金がプラス1.0-2.8%=マイナス1.8%減っている」と指摘した。

   そのうえで、「マクロでは賃上げがあったものの、物価上昇に追い付いていないことがわかります。名目賃金の上昇率は春闘を経ないと大きく変わりませんので、エネルギー価格の急落とかよほどのことがない限り、今年度は年間を通じて実質賃金がマイナスになる可能性が高いでしょう」と見ており、先行きは暗そうだ。

   また、同欄でソニーフィナンシャルグループのシニアエコノミスト渡辺浩志氏は、「日本人の賃金は1997年頃をピークに低下基調」と指摘した。

「日銀の生活意識アンケート調査では、物価上昇は『どちらかといえば困ったことだ』と答えた人の割合が過去20年近くの間、80%程度でほぼ一定。(中略)その原因は賃金の低迷にあり、家計が困っているのはインフレそのものよりも実質賃金(購買力)の低下のほうであるといえます。インフレ率を上回る賃金上昇を実現しない限り、家計のインフレ耐性は高まりません。賃上げは企業の仕事ですが、それを可能にする環境づくりは政府の仕事といえます」

と、岸田文雄政権の経済政策に期待を示した。

(福田和郎)