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物価、秋以降もっと上昇? エコノミストが指摘「低所得層ほど打撃」「食品から家電も値上げラッシュ」「企業が日本を見捨てたツケが...」

   物価上昇に歯止めがかからない。2022年7月22日に総務省が発表した6月の消費者物価指数は昨年同月比プラス2.2%と、3か月連続で2.0%を上回った。

   2.2%とはいえ、実質的には3%近い上昇幅だといい、所得の低い層ほど打撃が大きいという指摘もある。

   エコノミストの分析を読み解くと、お先真っ暗のようだが......。

  • 物価上昇を何とかしてほしい(写真はイメージ)
    物価上昇を何とかしてほしい(写真はイメージ)
  • 物価上昇を何とかしてほしい(写真はイメージ)

「物価上昇の裾野が広がってきた」

   総務省の発表資料によると、家庭で消費するモノやサービスの値動きをみる6月の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数)は、昨年同月より2.2%上昇した。消費増税の影響を除くと、2008年9月以来、13年9か月ぶりの上昇幅になる。

   物価上昇の主な要因はエネルギー価格の高騰だが、「エネルギー」全体では昨年同月より16.5%の大幅な上昇となった。個別にみると、電気代18.0%、都市ガス代21.9%、ガソリン代12.2%、灯油23.4%といった案配だ。

   「生鮮食品を除く食料」も3.2%の上昇だ。このうち、輸入原材料を多く使う食用油が36.0%、食パンが9.0%、調理カレー16.4%などの上昇となっている。

高すぎてスーパーの買い物でも迷う(写真はイメージ)
高すぎてスーパーの買い物でも迷う(写真はイメージ)

   いったい物価上昇はいつまで続くのか、エコノミストはどう見ているのだろうか。

   ヤフーニュースのヤフコメ欄では、三菱UFJリサーチ&コンサルティング主席研究員の小林真一郎氏は、

「物価上昇の裾野が広がっており、足元でのエネルギー価格の伸び鈍化という効果を打ち消しています。中でも値上がりが目立つのが生鮮食品以外の食品で、5月の前年比2.7%から同3.2%に伸びが高まりました」

と指摘。つづいて、

「家庭用耐久財や雑貨など輸入に頼っている製品も、円安の影響が浸透しつつあり上昇ペースが加速しています」「原油など資源価格の上昇が一服している点は物価上昇圧力緩和につながりますが、その一方で、電力料金等が時間差をおいて値上げされること、円安による輸入品価格の上昇が今後本格化すると予想されることから、秋にかけて総合の伸び率は3%近辺まで高まる可能性があり、個人消費への悪影響が懸念されます」

と、物価上昇の長期化に懸念を示した。

   同じ欄で第一生命経済研究所首席エコノミストの永濱利廣氏は、

「消費者物価には帰属家賃(=もともと実際に家賃の受払いを伴わない自分の持ち家についても、通常の借家・借間と同じサービスを生んでいる、と評価する計算上の家賃)という架空の価格が計上されておりますので、実感はこれを除く必要があるでしょう。そこで、帰属家賃を除く総合を見ると前年比で2.8%上昇していますから、消費者の実感はこちらのほうが近いことになります」

と説明。そのうえで、「6月は名目賃金が2.8%以上増えないと実質賃金がプラスにならないことになります」と、実質的には物価高の打撃がもっと大きいことを指摘した。

低所得者には怖い今後の家賃上昇

電気代もガス代も上がっている(写真はイメージ)
電気代もガス代も上がっている(写真はイメージ)

   とくに低所得者層にとっては、物価高が厳しい影響を与えていることを具体的な数字で示したのが、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。

   木内氏のリポート「低所得者に厳しい物価高が続く:6月消費者物価統計」(7月22日付)では、物価高が勤労者世帯に与える打撃の度合いを、次の5つの所得階級に分けて分析した。

   (1)年間所得が490万円未満、(2)490万円以上624万円未満、(3)624万円以上775万円未満、(4)775万円以上978万円未満、(5)978万円、である。すると、各階級の消費者物価指数はこうなる。

「所得が低い順から第1階級では前年比2.5%、第2階級では2.3%、第3階級では2.2%、第4階級では2.2%、第5階級では2.1%となる。
所得が低い世帯のほうが、物価上昇率が高い傾向がみられる。これは、所得が低い層ほど消費に占める構成比率が高くなる品目で、特に物価上昇が目立っているためだ」
家計が苦しい...(写真はイメージ)
家計が苦しい...(写真はイメージ)

   全体の消費者物価指数の上昇は2.2%なのに、一番所得が低い層では2.5%にもなるわけだ。いったいなぜか。木内氏はこう説明する。

「食料、エネルギー関連の消費については、低所得層での消費全体に占める構成比が特に相対的に大きいことが分かる。海外での市況の上昇、あるいは円安の影響を受ける傾向が強い、こうした食料、エネルギー関連の物価上昇は、低所得層により大きな打撃を与えているのである。
他方、低所得層の家計により大きな負担となる家賃の価格は、前年比0.0%とまったく上昇していないことが、低所得層の家計に助けとなっている。さらに、低所得層の家計により大きな負担となっている携帯の通信費など情報通信費も、現時点では前年比マイナス10.6%と大幅に下落しており、低所得層の家計には助けとなっている」

   いまのところ。家賃の横ばいや携帯電話料金の値上げで助かっているが、今後は予断を許さないという。

「消費全体の19.6%と高い構成比を占める住宅関連の価格が上昇率を高めていけば、食料、エネルギー価格の上昇に苦しむ低所得層の家計に追い打ちをかけるように大きな打撃となる」

生産拠点を海外に移したところに円安襲来

洗濯機などの家電製品も高くなった(写真はイメージ)
洗濯機などの家電製品も高くなった(写真はイメージ)

   ちょっと前は食品の値上げが打撃になっていたが、これからは家電製品の値上げという新たな問題が登場する、と指摘するのは、第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏だ。

   熊野氏のリポート「家電製品が高い:物価の異変~冷蔵庫14.9%、エアコン11.3%上昇~」(7月25日付)では、「最近の消費者物価は、今までに起きたことのない変化がある。家電製品が価格上昇している点は、その代表例だろう」として、6月の耐久消費財の価格上昇グラフ(対前年同月比)を示した=図表参照

(図表)耐久消費財の価格上昇(第一生命経済研究所の作成)
(図表)耐久消費財の価格上昇(第一生命経済研究所の作成)

   これをみると、家電、家事用品、教養娯楽用品などの値上がりが顕著だ。

   電気冷蔵庫が前年同月比14.9%、ルームエアコン11.3%、電気炊飯器8.1%、洗濯乾燥機4.2%、テレビ3.9%、プリンター14.2%、カメラ12.2%、自転車7.9%などが目立つ。

   熊野氏は、「家電製品と言えば、2000年代は値下げが当たり前であったが、値上がりの背景には生産体制が変化してきたこともある」としてこう説明する。

「家電製品の値上がりの背景には、生産体制が変化してきたこともある。家電製品の生産が国内から海外に移って、日本の販売の供給元が変わったからである。そこに円安が起こったため、輸入価格の上昇が製品価格を上げるという予想外の展開になった」
円安をチャンスと受け止められないものか?(写真はイメージ)
円安をチャンスと受け止められないものか?(写真はイメージ)

   海外から輸入するコストが高くなったならば、円安をチャンスと受け止め、海外生産を国内生産に切り替えることはできないのだろうか。そうしたら、国内の経済の活性化も期待できるが――。しかし、熊野氏は否定的だ。

「いくつかの理由がある。ひとつは、経済学の知見で、一度海外シフトした工場は、投下資本の回収ができるまで簡単に撤退しないという効果(履歴効果)がある。(中略)つまり、家電製品の輸入価格上昇は、しばらくは続くということになる」
「もうひとつ、日本の製造業が生産拠点を海外に移す理由がある。国内マーケットが成長しにくくなって、生産拠点を需要地の近くの海外に移すほうが有利だと考えるからだ。自動車産業などは、すでに需要地の北米や中国などに生産シフトしている。電気機械・情報通信機器などでも、そうした動きは進んでいる。製造業が成長しない国内市場から離れていくという状況だ」

   図らずも今回、日本経済が世界的なインフレの波に飲まれて、予想もしなかった物価上昇を経験している。だが、国内市場が成長しなくなっているため、日本企業が国内向けに製品を供給していくことに優先順位を置かなくなっていることが浮き彫りになった。

   だから熊野氏は、こう訴えるのだった。

「企業は成長するために、海外市場重視に変わったせいかもしれない。こうした流れが今以上に強まらないように、日本政府は賃金上昇を後押しして、国内マーケットがもっと成長するように変貌させなくてはいけない」

(福田和郎)