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ご先祖様や自分のお墓はどうなるの? お盆に読みたい一冊【尾藤克之のオススメ】

   元号が「令和」にかわってすぐに、2024年発行の新一万円札の顔に「渋沢栄一」が決りました。第一国立銀行など約500もの企業の創設に関与し「資本主義の父」とも言われています。渋沢栄一は、儒教の経典「論語」を指針としました。

   本書は、儒教研究の第一人者、加地伸行氏(大阪大学名誉教授)と、礼の求道者・一条真也氏(作家、経営者)による画期的な対談をまとめたものです。本書によると、葬儀も結婚式も、そして冠婚葬祭の儀式の本質はすべて、儒教に帰結しているそうです。

「論語と冠婚葬祭 儒教と日本人」(加地伸行 著、一条真也 著)現代書林

お墓と仏壇のあり方を考える

   ご先祖様や自分のお墓はどうなっていくのか。これは現代を生きる私たちにとって、大きな悩みの一つです。先祖のお墓を引っ越しする「墓じまい」、新たにお墓をつくる「墓じたく」など、お墓の形式も多様化しています。

(加地氏)「お墓の問題は簡単に解決できます。もし、土地付きの家をもっていたら、その敷地内に、自分の亡き親族のお墓を建ててしまえばいいのです。しかし法律が禁じている、と思われるかもしれません。地目が墓地でなければ埋葬してはいけないことになっているからです。では、敷地の一角を墓地に地目変更しようと思っても、時間がかかります」
(同)「石碑にたとえば、『加地家之墓』と書いた瞬間に、墓地関係の法律に全部引っかかります。ところが、『加地家記念(あるいは祈念碑)』としたら、全然関係ありません。誰も文句は言えません。黙っておれば、そこに遺骨を納めてもまったくかまいません。お骨が家の敷地の中にあるか、いわゆる墓地の中にあるかの違いだけです」

   加地氏は、自宅がマンションだったら、マンション入居者で話し合って、一角に共同墓地の意味の記念碑を建てればすむことだと指摘します。対して、一条氏は、次のように答えます。

(一条氏)「最近は仏壇を置く家がすっかり少なくなりましたが、わたしは『仏壇ほどすごいものはない』と思っています。仏壇は家の中の寺院であり、抽象的で難解だった仏教の『見える化』を成功させた画期的なツールです。仏壇の中には仏像が安置されています」
(同)「仏像の横には、儒教をルーツとする先祖の位牌があり、その仏壇そのものが最も活躍するのは神道の先祖祭りもルーツとするお盆です。つまり、この不思議な場所は、神道にも儒教にも仏教にもアクセスしているマルチ宗教メディアなのです」

   加地氏は、もし家に仏壇がなければ、購入しなくても、自分でつくればいいと解説します。内部は三段にし、上段に仏様(お釈迦様でも観音様でも)を安置し、中段にはあなたの家の祖先の位牌を建て、下段には、向かって左から花瓶(花を活ける)、香炉(線香を点てる)、ろうそく立ての三つを置けば、りっぱな仏壇だと言います。

大切なのは「こころ」を育むこと

   さらに、加地氏は「大切なことは、仏壇という『物』ではありません。祖先と出会う『こころ』」なのだと諭します。一条氏も次のように答えます。

(一条氏)「わたしも、仏壇の素晴らしさとは、亡くなった祖先と出会う『こころ』を育てるところだと思います。また、仏壇はマルチメディテーション・ボックス。何でも取り込んでしまう函(はこ)―仏像や位牌はもちろん、経典、蝋燭、線香、花、茶など、それぞれ単独でも大いなる『癒し』のパワーを発揮するアイテムが所狭しと並びます」
(同)「仏壇の前に座って手を合わせ、目を閉じれば、これ以上にリラックスできる時間はありません。さらに、仏壇はタイムマシンの役割も果たします。はるか昔のご先祖さまに想いを馳せ、最近亡くなった祖父母や両親を思い出し、未来の子孫のことを考える。つまり、過去にも未来にも行き放題のタイムマシンなのです」

   筆者である私の実家にも仏壇があります。仏壇は人間が成長するうえでの教材です。仏壇の前で正座をして手を合わせることで、「感謝のこころ」を育むことでしょう。本書を読むことで、儒教と礼の本質を理解できるようになります。お盆休み、「幸せな生き方」について考えてみてはいかがでしょうか。

(尾藤克之)