J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

再三延期してた「アップル」もいよいよ?! 相次ぐ「オフィス戻れ」発令...「リモート慣れ」海外ビジネスエリートたちはどう出る?(井津川倫子)

   コロナ禍で企業がいっせいに導入したリモートワークに変化の兆しです。

   先日、米アップル社がいよいよ、従業員に対して「週3回オフィス勤務に戻す」と発表して話題になっています。リモートワークをいち早く導入して世界中の「働き方」に影響を与えた同社ですが、今度は「オフィス回帰」の流れを作るのでしょうか?

   テスラCEOのイーロン・マスク氏は、「オフィスに戻らないなら会社を去れ」と、刺激的な発言で「リモートワーク」打ち切りを宣言していましたが、果たして、リモートワークに慣れきったビジネスパーソンたちはどうするのか......。

   どちらかといえば、リモートワークが定着していた欧米ですが、なかには「オフィスに戻りたい」といった意外な(!)反応もあるようです。

  • リモートワークか出社するか問題、今後はどうなる?(写真はイメージ)
    リモートワークか出社するか問題、今後はどうなる?(写真はイメージ)
  • リモートワークか出社するか問題、今後はどうなる?(写真はイメージ)

「オフィス勤務は週1日で十分!」...この流れは変わるのか?

   新型コロナウイルスの感染拡大で、積極的にリモートワークを推進してきたアップル社ですが、じつは、2021年6月以降、複数回にわたって「オフィス復帰」を試みてきました。

   コロナの再拡大でたびたび期限を延長していましたが、今回、シリコンバレーに勤務するコーポレート部門の社員を対象に、2022年9月5日から「少なくとも週3日」のオフィス勤務に戻すと発表した、と報じられています。

Apple tells employees to return to office 3 days a week from September
(アップル社が「9月から週3日オフィスに戻るように」と従業員に伝えた:フィナンシャル・タイムズ紙)
return to office1:オフィスに戻る

   フィナンシャル・タイムズ紙によると、アップル社CEOのティム・クック氏は、「in-person」(対面)で協力して働くことが同社にとって「essential」(きわめて重要)だと伝えつつも、あくまでも「pilot」(パイロットモデル)だと強調。まずは、シリコンバレーでの様子をみながら、「adapting」(調整していく)としています。

   具体的には、毎週火曜日と木曜日が強制的な「in-person days」(対面の日、出社日)で、残りの1日は部署ごとに出社日を定めるルールのようです。

   リモートワークについては、同じくカリスマCEOのイーロン・マスク氏がテスラ社の従業員に対して、「週に最低40時間オフィスで働くか、いやなら社を去れ」と通告して話題になっていました。

   マスク氏の「最後通牒」のような宣言と比べて、「まずは週3日から実験的に行い、みんなの意見を聞きながら調整していく」とするアップル社の態度は「紳士的」に映りますね。

   世界一の時価総額を誇るアップル社の「方針転換」に追随して「オフィス復帰」を打ち出す企業が増えている一方、気になるのがリモートワークに慣れたエリート社員たちの動向だと、複数のメディアが伝えています。

   米通信社ブルームバーグは、最近の傾向として「週に1日出社、4日はリモートワーク」のパターンが増えているというデータを紹介。「経営者は週3日出社しろと言うが、従業員は週に1日で十分だと感じている」と、指摘しています。

   とりわけ、引く手あまたのIT技術系エリート社員は「リモートワーク」を重視する傾向が強いため、「crucial」(重要)な人手を失うリスクにさらされている企業は慎重にならざるを得ない、とのこと。

   じっさい、アップル社が前回「週3回オフィス出社」の方針を打ち出した時は、有能な幹部社員が「リモートワークできないなら会社を辞める」と宣言して、あっさりライバル社に転職してしまった、といった「事件」が話題になりました。

   とはいえ、リモートワークかオフィス回帰か...。自ら働き方を選べるのは、ほんのひと握りのエリート社員だけでしょう。コロナ感染にビクビクしながら通勤電車に乗る日本のビジネスパーソンには、別世界の話に聞こえます。

光熱費が月2万円値上げ!...「オフィスに戻りたい」

   2年半ぶりに「オフィス復帰」を宣言したアップル社の社員が、どう反応するのか。今回も会社を去るスター社員が現れるのか...。ティム・クック氏の決断が吉と出るかどうかの評価には時間を要しそうですが、いくつかのメディアが、今回の宣言は「非常に好タイミング」だと分析しています。

   一つ目の理由は、経済状況の悪化です。とくに、リセッション(不況)入りが懸念される米国ではすでにリストラの動きが始まっていて、「staying home might be hazardous to their career」(自宅勤務はキャリアにとって危険だ)と、不安を感じるビジネスパーソンが増加。安心を求めて「オフィスワークに戻りたい」という声が広がっているそうです。

   さらに、数十年ぶりのインフレに見舞われている欧米諸国では、光熱費の急騰が問題となっています。

   英国では、このまま在宅勤務を続けると、暖房費が増える冬には「昨年と比べて月に2万円以上光熱費が増えるだろう」という、ありがたくもない予測が発表されたこともあり、負担増にあえぐビジネスパーソンを中心に「オフィス復帰」の流れが始まっている、と報じられています。

   新型コロナが収束する兆しが見えないなか、光熱費もリストラも心配せずに自由に働き方を選べる「特権」を享受できるエリート層。不況やインフレの波に勝てるのか、彼らの動向に要注目です。

   それでは、「今週のニュースな英語」「in-person」(対面で)を使った表現を紹介します。

I saw a famous musician in person
(有名なミュージシャンにじかに会った!)

I will meet you in person
(私が直接あなたに会います)

Please discuss in-person meeting
(対面の会議で議論してください)

   アップル社の「オフィス復帰」宣言をめぐる報道で不思議に思ったのは、オフィスでの感染拡大リスクに触れるメディアが皆無だったことです。

   そもそもは、感染を避ける目的のリモートワーク導入だったはず。もう、世界のビジネス界は「アフターコロナ」が常識なのでしょうか。衰える気配が見えない新型コロナに、インフレや不況。多難の日々はまだまだ続くようです。

(井津川倫子)