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「PTAの『仕事』引き受けます」旅行大手、「代行サービス」開始! 役員決めに悩む共働きに朗報か?「PTA改革」が先か?...賛否激論!

   「座っているだけでいいですから、ぜひPTA会長を」と言われて引き受けたら、トンデモなく雑務のラッシュが......。

   嬉しいはずのわが子の入学式。でも、その後にクラスで開かれるPTA役員選びを考えると、式の途中から気が重くなり......。

   PTA活動にこんな「不満」を持つ人は多いだろう。そんななか、旅行大手「KNT-CTホールディングス」のグループ会社、近畿日本ツーリスト(東京都新宿区)が2022年8月25日、PTA業務の代行サービスを始めると発表した。

   いったい、どんなサービスなのか。これをきっかけに、ネット上ではPTA活動のあり方も含めて、賛否の激論が巻き起こっている。

  • 休日返上でPTA会報づくり…ホント疲れる(写真はイメージ)
    休日返上でPTA会報づくり…ホント疲れる(写真はイメージ)
  • 休日返上でPTA会報づくり…ホント疲れる(写真はイメージ)

PTAの活動は必要? 「エントリー制」にするところも

   PTAの役員になることがいかに大変で、かつ多くの問題を抱えているか。ここ半年間のニュースの見出しだけを拾ってみると――。

(2022年8月16日)「身の丈に合わぬパワー持ったPTA 必要なのは『指輪物語』」(朝日新聞)
(8月14日)「学校PTA、同調圧力の果て 『効率より平等』いつまで」(日本経済新聞)
(7月29日)「PTAの活動は必要か? SNS特報班」(宮崎日日新聞)
(6月23日)「【特集】『エントリー制』で変わるPTA」(NHK)
(6月16日)「PTAを解散 魅力ある学校で保護者ら話し合い 長野」(NHK)
(6月12日)「『PTA非加入5年で9倍』に向き合う 負担減へ三つのダイエット法」(朝日新聞)
(6月3日)「『できたら避けたい...』PTAって実は任意参加 『ブラック化』してませんか? 強制文化排除へ」(BS大分放送)
(5月29日)「PTAの強制性に潜む不法行為の可能性 京都・立命大教授が説くルール作り」(京都新聞)
(4月10日)「PTAへ個人情報提供は当然か? トラブルの例も 北九州市は『原則禁止』に」(西日本新聞)
(3月27日)「『回収できる古紙が減ったためにわざわざ新聞を購読』PTAが古紙回収をやめられない本当の理由」(プレジデントオンライン)
(3月27日)「次はあなたの番です! PTA役員決め 任意?強制?どっち?」(NHK)

......といった案配だ。

   さて、近畿日本ツーリストが始めるPTA代行サービスとはどんな内容か。プレスリリースや、開設された特設サイトによると、修学旅行など教育現場と向き合ってきた経験を活かし、全国に展開するグループ会社を通じてさまざまなPTA業務全般を引き受ける、ということだ。

学校行事の企画・運営などが柱に

近畿日本ツーリストの「PTA代行サービス」(プレスリリースより)
近畿日本ツーリストの「PTA代行サービス」(プレスリリースより)

   サービスを始める理由をこう説明する。

「共働き世帯の増加、家族形態の多様化、教職員の働き方改革など、PTA活動を取り巻く環境の変化は顕著です。学校行事やバザーなど地域イベントのサポート、登下校の見守りなどさまざまな活動を行うPTAは、担い手である保護者の負担増を指摘する声や活動のあり方を見直すべきという声も少なくありません」
「持続可能なPTA活動を考える必要が生じています。(中略)そのためご依頼から代行まで、よりスピーディーに、よりスマートにワンストップでご提供できることが最大の特徴です」

   具体的には以下の6つのサービスが柱だ。

(1)広報誌などの印刷・デザイン、封入発送などをする。
(2)PTA専用WEBサイトを開設、作成する。
(3)学校行事の受付、事務作業など人出不足の時に人材派遣する。
(4)学校行事やPTA主催イベントを企画・運営してライブ配信のプロデュースなども行う。
(5)普段の授業や家庭学習では得られない学びとして、PTA主催の講演会を開いたり、特別授業の形で出張授業・学習支援をしたりする。
(6)子どもの記念品用に名入れグッズや、行事や学校生活の思い出を残すオリジナルプリント商品などを作る。

PTA代行サービスの登場、PTA改革の刺激となるか?

可愛いわが子のためにPTA役員を(写真はイメージ)
可愛いわが子のためにPTA役員を(写真はイメージ)

   この「PTA代行サービス」開始をきっかけに、ヤフーニュースのヤフコメ欄ではPTA活動に関して、さまざまな意見が寄せられている。

   たとえば、3児のシングルファーザーとしてNPO法人「グリーンパパプロジェクト」代表理事を務める労働・子育てジャーナリストの吉田大樹(ひろき)氏は、小学から高校のPTA会長を何度か経験したことを踏まえて、

「PTAがこれまで時を重ね、積み重ねてきた事業をどのタイミングで整理すればいいのかは、非常に難しい問題。自分が小学校のPTA会長の際に、会則を大幅に改正し、入退会が任意であることを明記し、部会も削減するなどして、PTA会員の負担を軽減した。そうした改革が実現できたのは、当時の執行部のメンバー内でしっかりと議論したからにほかならない」

と説明したうえで、

「議論を重ねる中で、(中略)1つ1つの事業を見直していくことが重要だ。そうした改革なしに、外注することはただのサービスになってしまう。しかし、PTAはサービス業ではない。PTA会員である保護者や先生が事業を実施することで様々な経験を通して、相互理解を深め、繋がりを作る重要な場所だ。その本質をまずはPTA会員に理解してもらう努力が必要だろう」

と、外注より先にPTAの取り組みを見直すことが大事だとした。

入学式のあとは気が重いPTA役員選びが待っている(写真はイメージ)
入学式のあとは気が重いPTA役員選びが待っている(写真はイメージ)

   一方、ソニーフィナンシャルグループのシニアエコノミスト渡辺浩志氏は、「外注サービス」の登場がPTA改革の刺激になる見方を示した。

「PTA活動は、組織の存続をかけた『仕事のための仕事』が多いというのが実感。個人の事情は言い訳にならず、時間休をとって出勤前に黄色い旗を振ることも。外注(市場経済化)という選択肢が出来たことで、経費をかけてでも続けるべき活動と、手弁当だからこそ続いてきた活動の取捨選択が進むことが望まれます」

深夜の作業で「心が折れそうになる」

運動会の裏方も大事な仕事(写真はイメージ)
運動会の裏方も大事な仕事(写真はイメージ)

   多くの人から、自分が経験したPTA活動に対する批判の声が相次いだ。

「効率化や外注議論の前に、そもそもPTAが必要かどうかから考える必要がある。PTAの加入いかんで、(子どもが)卒業式に胸の花をつけなかったり、卒業記念品を渡さなかったりということが実際行われている。(役員選びの際)仕事は言い訳にならない、病気なら診断書を提出しろ、介護なら状況を書けなど、人権侵害とも言える言動が実際に行われている。兄弟児がいれば、小中学どちらも人数分PTA役員にならなければならない。少子化問題の解決に寄与する3人以上の子を育てるには、小中学合わせて6年以上は仕事よりPTA優先ということだ。PTAは残念ながら、少子化の一端を担ってしまっている側面があるのではないか」
「私も今年役員です。慣例として続くことを、初見の1年の期間で変えたり止めたりってホントに大変だと痛感しています。だから、ほぼ全員が不要と思っていても、今までと同じ事をやってしまったほうが、やめるより楽なのですよね。だって来年は自分じゃないから」
「花植えのための美化委員ってホント要らない。子どもたちで花を植えれば愛着も湧く。なんで親がするの? 仕事休んでまで花を植えさせられましたよ。その前になんの花を買うかの会議。バカバカしい。季節の安い花を植えればいいじゃん! 2回、仕事を休まされましたよ」
「日中は仕事と家事でクタクタになり、深夜にベルマークのカウント作業とか......ホント心が折れそうになります」

外注できる仕事なら「そもそも学校に必要な業務なの?」

通学路の黄旗振りのため時間休をとらなくてはならない(写真はイメージ)
通学路の黄旗振りのため時間休をとらなくてはならない(写真はイメージ)

   こんなふうにPTA活動でツラい目に遭っている人が多いせいか、PTA代行サービスには期待と疑問が交錯している。

「PTAという、専業主婦時代だからこそ出来たボランティア活動ももう転換期ですね。(中略)予算を確保出来ないからこそ保護者の無償の労働力でどうにかしてきたわけですから、外注なんか出来るのか?と言うのが正直なところですね。裕福な家庭の多い私立学校では流行るのかもしれませんが、公立は難しそうですね」
「(PTA活動のなかでも)なくせないところは広報と登校班と通学路の安全確保関係、行事関係かな? 6年生だとアルバムのこともあるのかな。広報とアルバムとか運動会は外注できると思う。登校班や通学路の安全関係は、外注できる部分とそうでない部分があると思う。その辺をどうやっていくかですよね」
「学校の中のことをわからない人でもできる業務内容なら、そもそもそれは本当に学校にとって必要な業務なのか?と思ったりもする。運動会の運営とか具体的な業務ならまあ外注してもいいとは思うけど、何かあった時の責任の所在がどうなるのだろう...とか考えたら、そもそも無駄なことが山のようにありそう」
卒業式の準備にもPTA役員は気をつかう(写真はイメージ)
卒業式の準備にもPTA役員は気をつかう(写真はイメージ)

   他の視点として、セキュリティーや、サービスの質の面で心配する人もいる。

「校内でのPTA活動が外注だと、学校敷地内に実質的に部外者が入ることになるからセキュリティー面もしっかりして欲しいです」
「こういうサービスが現れるのは良いと思うけど、ベストは予算がつけられて地元でお金が回ること。大手企業が受けたら、本当に現地で必要な作業以外はコールセンターのようなところで処理されてしまって、あんまり幸せな形にならないと思う」

   教員から、こんな生の声も聞かれた。

「教員です。今のPTAはPTAのためのPTAです。PTA対応で我々の仕事も倍に増えます。自分たち(学校)だけで出来る仕事も、PTAがあるから仕事を割り振らなきゃならない。これが一手間も二手間もかかる。本当にないほうがイイ」

「やりたい人が活動するPTAに」 PTA改革の成功例も

どうなる?PTA活動(写真はイメージ)
どうなる?PTA活動(写真はイメージ)

   一方では、PTA改革に成功した人々も少なくない。こんな意見に代表される。

「現役役員です。メール配信システムでPTAの通知はほとんど配信。今年度は総会資料も配信にしてペーパーレス。インク代も印刷の手間もなくしました。卒業記念品は各親から。会費は現金集金にして振り込み手数料削減。会議も集まる必要がなければリモート」
「毎月小学校に出入りしてちょっとしたイベントをやっていました。好きでやったので経費は私個人の持ち出しでした。(中略)私が学校と相談して好きな事をした事がきっかけとなり、その後、やりたい事があってやりたい人がいたら活動するようなPTAに変化しました。
(たとえば、)毎年恒例だったバザーはなくなり、2分の1成人式みたいなイベントや紙飛行機大会をやるようになりました。見守り隊的なものもなくなりましたが、登下校時にお年寄りが一緒に歩いたりするようにもなりました。卒業アルバム制作は、6年生の親による委員会に移行しました。これだけは実質的にはPTAですが、枠を取り払うと活動の自由度はむしろ増える実例となりました」

(福田和郎)