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岸田首相、看板政策「資産所得倍増」の目玉として...にわかに浮上したNISA「恒久化」&投資上限引き上げ、実現可能性は?

   金融庁は2022年8月31日に締め切られた2023年度税制改正要望で、少額投資非課税制度(NISA)を恒久化したうえで、投資上限を引き上げるよう求めた。岸田文雄首相が掲げる「資産所得倍増プラン」の目玉にしたい考えだ。実現可能性はあるのか?

  • NISAの恒久化や投資上限引き上げを求めた金融庁
    NISAの恒久化や投資上限引き上げを求めた金融庁
  • NISAの恒久化や投資上限引き上げを求めた金融庁

24年から新NISA...わかりにくさ解消&魅力増すものへ

   NISAは、株式や投資信託などで上げた利益を一定の枠内で非課税にできる、個人投資家向けの制度だ。現在は、年間120万円まで5年間、非課税にできる「一般NISA」に加え、年間40万円を20年間、非課税にできる「積み立てNISA」、未成年向けの「ジュニアNISA」の3種類がある。

   いずれも時限措置となっており、金融庁は2023年末に期限を迎える一般NISA、ジュニアNISAに代わる新しいNISAを24年から始めたい考えだ。

   NISA利用者は年々拡大しているものの、数年ごとに制度が入れ替わる現状には個人投資家から「内容が複雑で、わかりにくい」との批判があがっていた。

   これを解消する秘策として金融庁が打ち出したのが、非課税期間を撤廃して恒久化したうえで、年間投資枠を引き上げる案だ。同庁関係者は「制度がわかりやすくなるうえ、投資家にとって魅力も増す」と強調する。

   金融庁には強力な後ろ盾がいる。ほかならぬ、岸田首相だ。

   首相は5月にロンドンの金融街シティーで行った講演で「NISAの抜本的拡充により『資産所得倍増プラン』を進める」と明言した。先の関係者は「NISAの恒久化、拡充案はいまや完全に『首相案件』になった」と胸を張る。

   「NISA恒久化」のニュースが8月下旬に一斉にメディアに流れると、SNSを中心に期待と歓迎の声が相次いだ。

ふだん投資しない層の不満解消&税収穴埋めに課題

   こうみると、すでに実現は時間の問題のようにも見えるが、乗り越えなければならない大きなハードルが存在する。

   最大の壁は、ふだん投資をしない層の不満をいかに解消するかだ。

   金融所得の一部を非課税にするNISAは制度開始直後から「金持ち優遇だ」との批判にさらされてきた。さらに制度を拡充すれば、資産を持つ者と持たざる者、投資家と非投資家の格差は一層、広がることになる。

   NISAの大幅拡充によって、減少することになる税収をどう穴埋めするかも大問題だ。

   ある自民党関係者は「金融所得課税を強化して新たな財源を生み出せば、NISAによる減収分をカバーできる」と提案する。与党内でも一定の支持を集めているアイデアだ。

   ただ、NISA拡充という投資促進策と、金融所得課税強化という投資を冷やす政策の同時展開は、アクセルとブレーキを同時に踏むようなものだとして、互いの政策効果を相殺しあう恐れを指摘する声もある。

   とくに、金融所得課税の強化をめぐっては岸田首相が就任当初、実施に意欲を見せていたが、これを警戒する株式市場が下落して「岸田ショック」とも呼ばれ、事実上、方針撤回に追い込まれた経緯がある。これを再浮上させるのは容易ではない。

   金融庁を含め各省庁から上がった税制改正要望は今後、与党税制調査会に検討が委ねられ、年末の与党税制改正大綱に反映される。

   NISA恒久化は果たして具体化するのか。現時点では予断を許さない。(ジャーナリスト 白井俊郎)