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稲盛和夫さん最後の著書、大いに話題...「経営12カ条」噛みしめよう!

   2022年8月に亡くなられた京セラ名誉会長の稲盛和夫さんの最後の著書が、本書「経営12カ条」(日本経済新聞出版)である。「これさえ守れば、会社や事業は必ずうまくいく」と本の帯にある。

   わかりやすい語り口で、経営の要諦を伝える本書は、各書店の「経済・ビジネス」カテゴリーのランキングではいずれも上位に、Amazonのカテゴリーランキングではベストセラーとなっている。

「経営12カ条」(稲盛和夫著)日本経済新聞出版

   稲盛さんの略歴をあらためて振り返ると、尋常ならざる経営者だったことがわかる。1932年、鹿児島県生まれ。59年に京都セラミック株式会社を設立。

   社長、会長を経て、97年より名誉会長。84年に第二電電(現KDDI)を設立し、会長に就任。2001年より最高顧問。2010年には日本航空会長に就任し、同社の再建に尽力した。

   著書も多いが、本書は中小・中堅企業の経営者向けに稲盛さんが主宰した「盛和塾」での講話をまとめたもので、自身の経験をもとに語っているので、わかりやすく、かつ面白いエピソードに満ちている。

   最初に12カ条を掲げよう。

1 事業の目的、意義を明確にする 公明正大で大義名分のある高い目的を立てる
2 具体的な目標を立てる 立てた目標は常に社員と共有する
3 強烈な願望を心に抱く 潜在意識に透徹するほどの強く持続した願望を持つこと
4 誰にも負けない努力をする 地味な仕事を一歩一歩堅実に、弛まぬ努力を続ける
5 売上を最大限に伸ばし、経費を最小限に抑える
6 値決めは経営 値決めはトップの仕事。お客様も喜び、自分も儲かるポイントは一点
7 経営は強い意志で決まる 経営には岩をもうがつ強い意志が必要
8 燃える闘魂 経営にはいかなる格闘技にもまさる激しい闘争心が必要
9 勇気をもって事に当たる 卑怯な振る舞いがあってはならない
10 常に創造的な仕事をする
11 思いやりの心で誠実に
12 常に明るく前向きに、夢と希望を抱いて素直な心で

会社、事業には大義名分が必要だ

   それぞれ、「なるほど」と思わせるエピソードを交え、解説している。

   (1)の事業の目的では、創業3年目に若い従業員たちの「反乱」に遭ったことに触れている。

   それまでは、技術者として「自分の技術を世に問いたい」ということを会社設立の目的にしていた。だから、従業員の将来までは考えていなかったという。しかし、3日3晩かけた説得の末、彼らは会社に残ってくれることになった。そこで得た教訓は、次のようなものだ。

「経営とは、経営者が持てる全能力を傾け、従業員が物心両面で幸福になれるよう最善を尽くすことであり、企業は、経営者の私心を離れた大義名分を持たなくてはならない」

   第二電電の設立に当たっても、「国民のために電気通信料金を安価にしたい」という大義名分があったからこそ、ライバル2社に勝ち、成功したと振り返っている。

   ちなみに、第二電電の創業にあたり、稲盛さんは1株も株式を持たなかったという。「動機善なりや、私心なかりしか」と自らに問い、株式を持つべきではない、と考えたからだ。

   株式を持っていれば、上場時にはたいへんな資産を持つことになったが、そうしなかった。上場後に、マーケットからいくらかの株式を購入しただけだ。

   「正しく純粋なものであれば、成功の確率が一段と高くなり、その成功を長く維持することができる」と信念を語っている。

中長期計画が「いらない」理由とは?

   (2)の目標について、独特の見解を示している。「中長期計画はいらない」というのだ。

   なぜなら、計画を立てても、予測を超えた市場の変動や不測の事態が起こり、計画が意味をなさないものになるからだ。京セラではずっと1年間ごとの経営計画を立て、尺取り虫のような歩みで成長してきたという。

   長期計画を立てないもう一つの理由は、計画どおりに進むのは経費だけだからだ、と説明している。収入は、それに伴わないケースが出てくる。大手電機メーカーの失敗を例に挙げている。

   いまや連結売上高が1兆8000億円を超える京セラだが、創業時には1個9円というファインセラミック部品を大手電機メーカーに納入するところから始まったという。最初から大きなビジネスはあるはずはない。地味な仕事を一歩一歩堅実に、誰にも負けない努力を続けることだ、と(4)で説いている。

   (5)の「売上最大、経費最少」を実践するため、京セラでつくり上げたのが、「アメーバ経営」だ。

   数名から十数名で構成される「アメーバ」と呼ばれる小集団が1000以上も存在し、それぞれがあたかも中小企業のように経営を行っている。それぞれのアメーバが1時間当たりいくらの付加価値を生んだのか、という指標で収支を表現している。

日本航空の再建でも手腕を発揮

   日本航空の再建でも、部門別、路線別、路便別にリアルタイムで採算がわかる仕組みを導入した。その数字をベースに「業績報告会」を開き、全社員が採算意識を高め、収益性向上に貢献しているという。

   高収益によって「事業展開の選択肢」が広がる。京セラの場合も、ファインセラミックスだけでは会社の将来に限界があると考え、切削工具や再結晶宝石、人工歯根、太陽電池といった異分野や異業種へ参入した。それも、高収益による潤沢な資金と豊かな財務体質があったから実現した、と説明する。

   第二電電の創業時、京セラには内部留保が1500億円あり、「1000億円までは使わせてほしい」と役員会で語ったという。高収益を通じた備えがあったからこそ、電気通信事業に参入できたのだ。

   日本航空のエピソードは(7)にも登場する。この時、稲盛さんは80歳を超えていたが、1週間のほとんどを東京のホテル住まいで過ごし、昼はサバの塩焼き弁当、夜はコンビニのおにぎりで済ませながら、朝から晩まで続く会議で、細かな経営数字に集中したそうだ。そんな姿を見て、日本航空の社員たちは、事業再生計画に向けた強い意志を感じたはずだ、と書いている。

   「経営12カ条」の根底には、「人間の思いは必ず実現する」という思想があるという。また、リーダーの心得として、謙虚にして驕らず、生きていることに感謝する、善行、利他行を積むなどを挙げている。

   実際の経営から生み出されたシンプルな教えは、道徳的な規範を含みながら、どれも前向きで実践的である。

   稲盛さんはこの他にも多くの著書を出し、貴重な言葉を残している。今後、ますます読み継がれることだろう。

(渡辺淳悦)

「経営12カ条」
稲盛和夫著
日本経済新聞出版
1870円(税込)