J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

「中身に乏しく、期待外れ」...「日本に投資を」岸田首相「トップセールス」に失敗した裏事情

「きょうは世界経済のど真ん中にあるウォールストリートに『日本経済は力強く成長を続ける。確信を持って日本に投資してほしい』というメッセージを届けにきた」

   岸田文雄首相は2022年9月22日、米ニューヨーク証券取引所(NYSE)内で講演し、自身が掲げる「新しい資本主義」の成果をアピールした。

   会場には米金融業界の大物も多数顔をそろえたが、肝心の講演内容には「中身に乏しく、期待外れだ」との声が強かった。

  • 岸田首相のNYSE講演、どう受け取られたか?
    岸田首相のNYSE講演、どう受け取られたか?
  • 岸田首相のNYSE講演、どう受け取られたか?

安倍元首相の「バイ・マイ・アベノミクス」再来ねらったが...

   岸田首相は国連総会出席のためにニューヨーク入りした機会をとらえ、NYSEを訪ねたもので、安倍晋三元首相の国葬や自民党と旧統一教会との関係をめぐり、急落する内閣支持率の反転のきっかけと期待しての講演だった。

   だが、時あたかも、米連邦準備制度理事会(FRB)など主要中銀による大幅利上げの影響で世界経済の減速懸念が高まる中での訪問になった。米国株は急落している真っ最中で、東京証券取引所も売りが先行しており、トップセールスは完全に不発に終わったかたちだ。

   NYSEは世界最大の取引所。ここで米国内外の投資家の注目を集め、日本に資金を呼び込むことが岸田氏の目的だった。ちょうど9年前の2013年9月、安倍首相(当時)がNYSEで講演。「バイ・マイ・アベノミクス」(アベノミクスは買いだ)と訴えて話題を集めた。岸田首相がその再来をねらったのは明らかだ。

   その意欲の表れか、22日の講演内容は安全運転を繰り返すふだんの岸田氏のイメージとはかけ離れたウイットに富んだものだった。

   「今から60年近く前、父の仕事の関係で(ニューヨーク市内)クイーンズ近くに住んでいた。私の英語からニューヨーク・アクセントが感じられるのではないか」と米国通をアピール。ほかに、

「私は日本で戦後唯一の金融業界出身の総理大臣だ」
「私の自由な経済活動に対する思いは(『トム・ソーヤの冒険』などで知られる米国の著名小説家)マーク・トウェインのウイスキーに対する思いと同じだ。『いくらあっても困らない』」

などと、金融市場に理解がある指導者だと自己PRを繰り返した。

24年ぶり為替介入など、「タイミング」の悪さ重なる

   しかし、政府関係者は「あまりにタイミングが悪かった」と悔やむ。

   訪米中の最大の目玉だった新型コロナウイルス対策の水際措置の大幅緩和は、NYSEの講演前に表明済み。NYSEで触れた具体的な投資促進策は、少額投資非課税制度(NISA)を恒久化する意向を示したことくらいで、仕込み不足は否めない。

   さらに間が悪かったのが、政府・日銀は講演の直前、急激な円安を食い止めるため24年3か月ぶりとなる円買い・ドル売りの為替介入に踏み切ったことだ。

   市場に驚きが広がる一方で、「日本の単独介入ではほとんど効果がない」「主要経済国が安易に為替市場に介入すべきでない」など、介入そのものに対する米国内の評価は散々だ。岸田氏がいくら「経済通」をアピールしても実態が伴っていないと判断されたかたちだ。

   そもそも岸田氏は、首相就任直後から金融所得課税の強化に意欲を見せるなど、市場関係者に警戒を持って受け止められてきた経緯がある。

   そのイメージを払拭しようと、講演では「『新しい資本主義』とは日本経済を再び成長させるための包括的なパッケージだ」などと説明したものの、その抽象的な概念が海外の市場関係者に伝わるとはとても思えなかった。

   市場重視のアベノミクスの方向転換を図りながら、いかに新たな投資資金を呼び込むか。岸田氏に課されたハードルはあまりに重いことを印象付けた講演になった。(ジャーナリスト 白井俊郎)