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CO2排出量取引、東証で実証実験始まる...「炭素に価格付け」、脱炭素化の加速&ビジネスチャンスとなるか?

   温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)の排出量を企業間で取引する新たな市場が東京証券取引所に誕生する。

   経済産業省の委託を受け、2022年9月22日、電力や金融、製造など幅広い業界から145社・団体が参加した実証事業が始まった。問題点を洗い出し、23年度に本格スタートさせる方針だ。

   2050年カーボンニュートラル(炭素排出量実質ゼロ)という政府目標に向け、成果を上げるために必要なものは?

  • 東証で「カーボン・クレジット市場」の実証実験始まる(写真はイメージ)
    東証で「カーボン・クレジット市場」の実証実験始まる(写真はイメージ)
  • 東証で「カーボン・クレジット市場」の実証実験始まる(写真はイメージ)

企業間で排出量を調整する仕組み...欧州では先行

   カーボン・クレジットとは、植林や森林保全、省エネルギー機器や再生可能エネルギー導入による温暖化ガスの削減効果を「クレジット」として取引可能なかたちにしたもの。排出量の多い企業がクレジットを購入することで、CO2削減量を積み増せる――すなわち、排出量を「減らす」ことができるわけだ。

   排出量取引はCO2の排出に価格をつけ、排出削減を促す「カーボンプライシング」と呼ばれる仕組みの一つ。鉄鋼や化学などの業種は排出をゼロにするのは難しく、「カーボンニュートラル(炭素排出実質ゼロ)」の実現には、企業間で排出量を調整する仕組みが不可欠だ。

   CO2に価格が付けば、CO2を回収して地中に閉じ込めるなどの脱炭素ビジネスも広がりやすくなるほか、社会全体としてみれば、低コストの排出削減策が選好されるため、効率的に脱炭素が進む効果があると期待される。

   世界に目を向けると、欧州が先行して導入しており、欧州連合(EU)は排出量取引制度(ETS)がある。

   これは、排出が多い産業を指定し、企業ごとに排出量の上限を定めて削減を義務づけたうえで、規制上の排出上限を超えた企業が、上限を下回っている企業の余裕分を買う仕組み。「排出枠」を取引する。

   一方、日本の制度は次のように考える。

   設備を更新した場合、新設備で生産するのに必要なエネルギーを、古い設備で生産を続けた時に必要なエネルギーと比較し、新設備にして削減した排出量を計算。その削減した排出量をクレジットとして売買する。

取引初日は4銘柄で計627トン分の売買成立

   実証実験で売買されるのは、再生エネや森林整備などでCO2を削減したことを国が認証した「J-クレジット」。

   これまでは基本的に相対で取引されていたが、価格が外から見えにくかった。市場を通すことで価格の透明性を高め、取引を活発化させるねらいがある。

   実際の取引はインターネット上の専用サイトで行う。

   注文の受付時間は午前と午後の2回に分かれ、それぞれ午前11時30分と午後3時に価格がつく。実証実験の取引がスタートした9月22日は4銘柄で合計627トン分の排出量の売買が成立した。

   さて、これまでの経緯を振り返ると、経産省は2020年12月に「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定した。これを踏まえ、21年2月から「カーボンニュートラル実現のための経済的手法等のあり方に関する研究会」を設置し、カーボンプライシングの具体的な方向性を議論した。

   その結果、企業が意欲的なCO2削減目標を設定し、目標達成のためのクレジット取引等を行い、国が実績を確認する自主的な枠組みを設けるとして、国際的に通用するクレジットを国内で調達できる市場の創設を打ち出していた。

参加は自主性に委ねられ、罰則もない現状...さらなる制度の改善を

   今回の市場開設は、この方針に沿ったものだ。ただ、上限を設けて排出削減を義務づけるEUとは異なり、参加は企業の自主的な取り組みに委ね、罰則もない。

   しかし、EUは環境規制が甘い国からの輸入に課税する「炭素国境調整措置」も検討している。日本企業の対応が遅れれば、国際競争力を失うおそれがある。

   市場がきちんと機能するには、公正な価格決定が欠かせない。

   仮に、クレジットの価格が排出削減費用を下回れば、企業は排出削減努力をせずにクレジットを買えばいいことになり、排出削減は進まず、技術革新も進まない。そうならないようにするためには、市場参加者を増やし、適正な価格形成がされなければならない。

   企業の自主性を重視すれば、取り組みが甘い企業が多くなって、排出削減が進まないだろう。厳しく削減目標を設定した企業が不利益になるようでは、長続きしないのは当然だ。

   このため、経産省も、将来的にEUのような制度は避けられないとみており、今回の取り組みは本格導入に向けたワンスッテプという位置づけだ。

   企業に参加を義務付けるなどしていくためには、企業に課す削減目標の設定が妥当か、業種ごとに定期的に技術開発レベルなども踏まえて、評価・検証する仕組みが求められる。

   また、海外ではたとえば森林吸収分の算定で森林管理が不十分な「幽霊事業」の排出量も取引されるといった問題も指摘されており、排出権の「認証」の妥当性も問われそうだ。(ジャーナリスト 白井俊郎)