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「かっぱ寿司」前社長、古巣の「はま寿司」仕入れ価格データなど「不正取得」問題 問われるコンプライアンス、業界としても意識向上を

   大手回転ずしチェーン「かっぱ寿司」の運営会社「カッパ・クリエイト」(横浜市西区)社長の田辺公己容疑者(46)=2022年10月3日に社長を辞任=らが、競合する「はま寿司」の営業秘密を不正に持ち出したとして、不正競争防止法違反などの容疑で警視庁に逮捕された。

   回転ずしはコロナ禍のなかで「非接触」「省人化」などを進め、「勝ち組」の業界とされる一方、安値競争は激化している。同業他社でも不祥事が頻発しており、業界全体のコンプライアンス(法令順守)のあり方が問われているといえる。

  • コンプライアンス意識の向上を(写真はイメージ)
    コンプライアンス意識の向上を(写真はイメージ)
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データ活用の疑い、カッパ社も書類送検...後任社長「具体的に活用した事実は確認されなかった」

   他に逮捕されたのは、カッパ社の商品企画部長、大友英昭容疑者(42)=不正競争防止法違反=と、田辺容疑者の元部下でゼンショーの子会社の元社員、湯浅宜孝容疑者(43)=不正競争防止法違反のほう助。逮捕はいずれも2022年9月30日。

   田辺容疑者は、はま寿司の親会社ゼンショーホールディングスから2020年11月、カッパ社に顧問として移籍し、21年2月に社長に就任した。ゼンショー時代の14年から3年間、はま寿司の取締役を務めた。

   逮捕容疑は、ゼンショーに在籍していた20年9月末、はま寿司で管理されていた仕入れ価格や取引先情報などの営業秘密を不正に持ち出し、移籍後の20年11月9日~12月18日ごろ、ゼンショーからUSBメモリーで持ち出したこのデータを大友容疑者にメールで送って共有し、かっぱ寿司の運営に使用したなどというもの。湯浅容疑者は当時、はま寿司の経営企画部長で、営業秘密を閲覧するためのパスワードを田辺容疑者に教え、持ち出しに協力したとされる。

   不正競争防止法は、(1)秘密管理性(閲覧にパスワードを必要とするなど)、(2)有用性(事業活動の役に立つ)、(3)非公知性(一般的に入手できない)――の要件に全て該当した情報を「営業秘密」と定め、持ち出しなどを禁じている。

   警視庁は、今回のデータが、閲覧に一部の社員しか知らないパスワードが必要なことなどから(1)、(3)に該当し、またライバル社のデータを知ることができれば営業戦略の参考になり、仕入れ先との交渉も有利に進められることから、(2)の要件もクリアすると判断したとみられる。

   警視庁は、持ち出された情報を使い、大友容疑者が自社の仕入れ価格と比較する表を作成、カッパ社の複数の幹部間で共有し、商品開発などに活用していた疑いがあるとして、10月2日、同法の両罰規定を適用し、法人としてのカッパ社を書類送検している。

   田辺容疑者の辞任を受けて10月3日に後任社長に就任した山角豪氏は、同日の会見で、「営業秘密を持ち込ませないための誓約書を得るなどの対応が不足していた」と反省を示しつつ、「(会社としてデータ持ち込みを)依頼・指示したという事実はない。(データを商品開発などに)具体的に活用した事実は確認されなかった」などと述べており、会社としての対応の適法性が、今後の捜査の焦点の一つになりそうだ。

「勝ち組」回転すし業界は競争激しく...直近では円安&コスト高のあおり

   回転すし業界は、かっぱ寿司を含む大手5社で市場全体の約8割を占める寡占市場。帝国データバンクによると、2021年度の国内市場規模は7400億円と前年度から8%増え、過去最高だったコロナ禍が広がる前の19年度の水準を回復したと見られる。

   回ってくる寿司などを自分で取り、お茶も自分で湯呑に入れるなどセルフサービスに加え、最近はタブレットを使った注文や自動案内機、セルフレジなどの導入で店舗運営の効率化が進んでいる。とくに、コロナ禍のなかでは「非接触」が強みとなり、お持ち帰りで「巣ごもり需要」も取り込んだ。

   堅調な業績を背景に出店も活発で、大手5社の店舗数は2022年2月末時点で約2200店と、コロナ前の2019年度から150店増加する(帝国データ調べ)など、業界としては「勝ち組」と評価されている。

   ただ、「1皿100円」など安さが最大のセールスポイントだけに、業界内の競争は激しく、とりわけ、急激な円安の進行などで食材のコストアップが経営を圧迫している。業界1位の「スシロー」が10月から郊外型店舗で1皿の最低価格を110円から120円に引き上げ、2位の「くら寿司」も同じく1皿110円を115円に上げるなどした。

スシロー、くら寿司、元気寿司...消費者の信頼裏切る事案

   そんな中、消費者の信頼を裏切る事案も頻発している。

   たとえば、スシローでは6月、21年販売した期間限定商品を巡って、品切れなどで販売できない店舗があったのに宣伝を続ける「おとり広告」をしたとして、親会社が消費者庁から措置命令を受けた。

   22年7月には生ビール半額イベントで品切れが続出。さらに10月1日からのキャンペーンで提供予定だった仕入れ値が安いキハダマグロを、一部の店舗で誤って9月下旬に通常のメバチマグロのにぎりの「まぐろ」「漬けまぐろ」で使用したことが発覚している。

   あるいは、くら寿司では2019年、アルバイトの少年がゴミ箱に捨てた魚をまな板に戻す動画を公開し、従業員の管理に問題があるとして、会社側も批判を浴びた。

   ほかに、元気寿司では22年9月29日、新店舗建設に絡み、担当部長が架空発注などでキックバックを受けたとして、この部長を懲戒解雇し、社長を取締役に降格させた。

   そして、今回のカッパ社の事件だ。

   もちろん、それぞれの事案は原因や動機などは異なり、一概に論じられない面はあるが、急成長する勢いのある業界で、ライバル社への転籍など人材の流動性も高いこともあって、「個々の社はもちろん、業界全体としてコンプライアンスに取り組む時期に来ている」(大手紙経済部デスク)との指摘が出ている。(ジャーナリスト 済田経夫)