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日産とルノー、資本関係見直し...日産が求める「不平等解消」へ、協議進んだ「2つの要因」と「今後の交渉ポイント」

   日産自動車とフランス自動車大手ルノーが、日産に対するルノーの出資比率引き下げに向けた協議を進めている。

   経営危機に陥った際にルノーの出資を受け、現在の出資比率は43%だが、経営危機から復活した日産が、近年は売上高、販売台数でルノーを上回っており、日産は「不平等解消」を強く求めてきた。

   ルノーへの日産の出資比率15%と同レベルまでルノーの出資比率を下げる方向で協議は進んでいるが、果たしてまとまるのか。

  • 日産とルノー、資本関係見直しへ
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日産のルノー株の持ち分は15%、議決権がなく「不満」強く

   日産は経営危機に陥った1999年、ルノーに資本支援を求め、ルノーは約6000億円を投じて日産株の約37%を取得し、カルロス・ゴーン元会長を最高執行責任者として日産に送り込み、再建を進めた。

   その後、両社の株の持ち分は、ルノーが日産の43%、日産がルノーの15%を、それぞれ持ち合う形になっている。ただ、日産の持ち分は15%と少ないうえ、フランスの会社法の規定で議決権がなく、日産には「不平等条約」との不満が強かった。

   ゴーン氏は2005年から日産とルノーのトップを兼ね、絶大な権力を誇ったが、2018年に東京地検特捜部に金融商品取引法違反疑いで逮捕され、日産、ルノーでの地位を失った(日本からレバノンに逃亡し、刑事訴追は停止中)。

   こうした事態を受け、19年にはルノー株を15%保有する仏政府の意向を受けたルノーが日産に経営統合を提案、日産の強い反発で白紙に戻るなど、混乱状態が続いていた。

15%ずつの「対等出資」が有力...ただし、ルノーは新設EV会社への出資求める

   今回、両社の協議の背中を、2つの大きな要因が押したといわれる。

   一つは世界的な電動化、つまり電気自動車(EV)へのシフトの加速だ。

   欧州連合(EU)は2035年までにガソリン車の新車販売を禁止する方針で、独フォルクスワーゲン(VW)など欧州主要メーカーはEV開発にしのぎを削っている。ルノーも22年2月、EVを分社化する構想を明らかにしているが、ライバルに対抗するには資金力が不足していると指摘されている。

   ロシアのウクライナ侵攻の影響も大きい。

   ルノーはロシア市場からの撤退を決め、1~6月の純損益が赤字になるなど、経営が厳しくなっている。日産も同様にロシアからの撤退で特別損失1000億円の計上を発表しているが、ルノーよりは、まだ資金的には余裕がある。

   こうしたことから、日産への出資の回収で得られる数千億円規模の資金は、ルノーにとって大きな意味を持つ。

   両社の交渉は、互いに15%ずつ出資する「対等」の形にするとともに、三菱自動車を含むアライアンス(連合)を維持することで、大筋一致しているとされる。

   ただし、交渉は出資比率だけにとどまらない。

   ルノーは新設するEV会社に、日産と三菱の出資も求めており、事実上、ルノーの出資比率引き下げの見返りという位置づけになる。ルノーは日産に5億~7億5000万ドル(750億~1100億円)の出資を求めている、との報道もある。

日産の課題は、必要資金の確保をどうするか

   両社の交渉の大きなポイントとみられたのが、フランス政府の対応だ。

   ただ、かつて、積極的に介入を試み、日産の反発をうけた反省からか、マクロン大統領は「連合の強化や未来戦略の発展に資する全ての動きを国は後押しする。ルノーの経営陣に全幅の信頼を置いている」(10月17日付フランス紙インタビュー)と述べるなど、静観の構えとも見える。

   ただし、フランス政府は国内の雇用を特に重視しているだけに、両社の協議の内容によっては、介入する可能性も否定できないところだ。

   もう一つの焦点は、日産が必要資金をいかに確保するかだ。

   ルノーよりは余裕があるとされるが、自動車事業のネットキャッシュは2022年6月末時点で8264億円と、新型コロナウイルス禍前の2019年3月期末の1兆5982億円からほぼ半減している。

   足もとの日産の時価総額は2兆円弱で、43%から15%に引き下げる「28%分」を買い戻すとすると、単純計算で約5600億円が必要になり、ルノーのEV新会社に出資すると、負担はさらに膨らむ。

   一方、ルノーとしては、日産の株価が低迷していることから、一度に手放すのは避けることも考えられる。その場合、信託などの手法で段階的に売却するとの見方が出ている。いずれにせよ、日産は何らかの資金調達を検討することになる。

EV関連の技術の扱いも、交渉の焦点

   さらに、ここにきて注目されているのが、EV関連の技術問題だ。

   EVの性能を左右する車載用電池をめぐっては、現在主流のリチウムイオン電池よりも高密度で安全性が高い次世代の全固体電池の開発に、世界のメーカーがしのぎを削っている。

   日産は世界でも技術的に一定の優位性を持っているとされ、後れを取るルノーはEV新会社への日産の技術提供を強く求めているといい、日産がどの程度の知的財産や技術者を新会社に提供するかは、両社の交渉の焦点の一つだ。

   両社は11月半ばまでの合意を目指していると報じられているが、スンナリまとまるか、なお予断を許さない。(ジャーナリスト 済田経夫)