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「特にありません」。促しても、改善提案をしてこない部下...どう育てる?【上司力を鍛えるケーススタディ CASE15(後編)】(前川孝雄)

   「前川孝雄の『上司力(R)』トレーニング~ケーススタディで考える現場マネジメントのコツ」では、現場で起こるさまざまなケースを取り上げながら、「上司力を鍛える」テクニック、スキルについて解説していきます。

   今回の「CASE 15」では、「特にありません」と言って、促しても、改善提案をしてこない部下のケースを取り上げます。

  • 部下が話しやすい、提案しやすい環境をつくるには?(写真はイメージ)
    部下が話しやすい、提案しやすい環境をつくるには?(写真はイメージ)
  • 部下が話しやすい、提案しやすい環境をつくるには?(写真はイメージ)

いかにして、部下の意見や提案を引き出すか?...「ユメ会議」の事例

   <「特にありません」。促しても、改善提案をしてこない部下...どう育てる?【上司力を鍛えるケーススタディ CASE15(前編)】(前川孝雄)>の続きです。

   群馬県のバネ工場である中里スプリング製作所では、毎月1回、社員同士が夢を語り合う「ユメ会議」を実践しています。この会議では、全員が最低1分間、自分の夢を語ります。

   そして、各自が自分の夢の実現に向けて何が必要かを考え、「ユメ年表」という行動計画表に落とし込みます。「夢を実現するには何をすればいいか」を全員で楽しく語り合い、夢から逆算した具体的な行動目標を明確にしていきます。夢の内容は、趣味や特技や将来のキャリア自律など、個人的なことでかまいません。

   こうした社員一人ひとりの思いを大切にし合う風土づくりの一方で、同社では社員からの仕事の提案も積極的に促します。中里社長は「社員の提案はすべて実行する」と決めています。

   みなさんは、それは無茶だと思われるでしょう。しかし社員は、経営者や上司のこの言葉によって、自分たちが信頼されていることを実感します。一人ひとりが責任感を持ち、職場全体のことを考えて提案するようになるので、結果、提案の質も高まるのです。

   この事例のように、「すべて」とはいかなくても、できるだけ多くの提案を採用し、実行することで、社員の「提案しよう」というモチベーションは確実に高まります。大切なのは「言ってもムダだ」と思わせないことです。とにかくやってみて、うまくいかなかったら改めればいいのです。

   真剣に考えたことの失敗は、社員にとっても組織にとっても大きな学びになります。

誰もが発言しやすい職場づくり...同じ人ばかりが発言しない工夫とは

   また、ベテラン男性がそろう会議では、彼らの発言力が強くなり、女性や若手は意見を言いにくい雰囲気ができあがっていることが少なくありません。この点で、埼玉県の菓子メーカー・三州製菓の取り組みがユニークです。

   同社では主要顧客である女性のニーズに対応するには、商品開発にも女性の意見が不可欠と考えます。そのため、商品企画部には全員女性を配置しました。

   また、会議ではベテラン男性社員の声が大きくなり、女性は萎縮して意見が言いづらくなります。そこで、企画会議中に「男性の発言禁止タイム」を設け、女性が発言しやすい工夫を凝らしています。

   女性が発言しやすくなるのはもちろんですが、経営者や上司が女性に期待していることを伝えるメッセージにもなります。「いつも同じ人ばかりが会議で発言している」と頭を悩ませている職場には参考になる施策でしょう。

部下の不満から、提案に導こう!

   また、すこし高度な手法ですが、私が前職で実行していた「不満吐き出し大会」を紹介しましょう。さまざまな人が集まっている以上、社員が組織の方針や仕事の進め方、人間関係などに少なからず不満を抱くのは当然です。

   この「大会」は、その名の通り、メンバー一人ひとりが感じている不満を吐き出してもらい、全員で共有する会。不満を「可視化」しきったあと、最後に改善策を一緒に考え、みんなで気持ちよく働ける職場環境を作ることが目的です。

   この会は、上司と部下の間で信頼関係ができていないとうまくいきません。事前に上司が個別面談などでメンバーの希望や不満をある程度把握し、どのような場になるかイメージしたうえで開催します。

   開始前には、「他人の意見を批判しない」「言いたいことはこの場で、立場の上下は関係なく吐き出す」というルールを明示します。メンバーから出た不満は「会社や上司に対するもの」「組織に対するもの」「仕事内容・サービスに関するもの」に分け、それらの不満が解消可能か、そのための具体策を検討します。

   困難な課題でも、できる限り改善の方法を探り、上司の責任で実現できることには責任を持って改善するとメンバーに約束し、実行するのです。そうすると、部下は上司や組織が自分たちの提案や意見に耳を傾ける本気度を実感できるのです。

※「上司力」マネジメントの考え方と実践手法についてより詳しく知りたい方は、拙著『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版、2020年10月発行)をご参照ください。
※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。


【プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお)
株式会社FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授

人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業FeelWorksを創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人 企業研究会 研究協力委員、一般社団法人 ウーマンエンパワー協会 理事なども兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版、2020年10月)等30冊以上。近刊は『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks、2021年9月)および『50歳からの人生が変わる 痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所、2021年11月)。