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南海トラフ、首都直下地震に備えて...課題は「つながりあう」仕組みづくり! 損保協会、「顔の見える関係」の重要性を発信 「地震保険」の備えも大切

   近い将来の発生が懸念される南海トラフ地震や、首都直下地震などの大規模な災害に対して、十分な備えはできているだろうか?

   そんななか、国民の防災意識を高めようと、内閣府等主催の総合防災イベント「ぼうさいこくたい2022(防災推進国民大会)」が、2022年10月22日・23日に開催された。

   日本損害保険協会(損保協会)主催のシンポジウムでは、同協会の常務理事・伊豆原孝(いずはら・たかし)さんが登壇。地震災害に対する「地震保険」の備えのほか、「大きな災害が起こった時、いつでもリンクできる関係をふだんから築いておくことが大事」として、日頃からの「地域における顔の見える関係」づくりの大切さを呼びかけた。

  • パネルディスカッションに臨んだコーディネーターの室﨑益輝さん(右)と、損保協会 常務理事の伊豆原孝さん、毎日放送の大牟田智佐子さん、宮城教育大学/3.11メモリアルネットワーク 代表の武田真一さん(左から)
    パネルディスカッションに臨んだコーディネーターの室﨑益輝さん(右)と、損保協会 常務理事の伊豆原孝さん、毎日放送の大牟田智佐子さん、宮城教育大学/3.11メモリアルネットワーク 代表の武田真一さん(左から)
  • パネルディスカッションに臨んだコーディネーターの室﨑益輝さん(右)と、損保協会 常務理事の伊豆原孝さん、毎日放送の大牟田智佐子さん、宮城教育大学/3.11メモリアルネットワーク 代表の武田真一さん(左から)

人と人とのつながりが薄れていないか?

   シンポジウムのテーマは、「次の大災害に備える! ハードウエア・ソフトウエアそしてヒューマンウエアが日本を救う」。

   冒頭、コーディネーターをつとめた室﨑益輝さん(むろさき・よしてる=減災環境デザイン室 顧問/兵庫県立大学 特任教授)は、大規模な災害に対して、「正しく備えるためには、正しく恐れること、正しく学ぶことが大事」だと呼びかけた。

   そのうえで、備えるために必要な、「3つの『つ』」を指摘。それは、(1)「つ」ちかう...己を知る、社会の弱さに目を向ける。(2)「つ」ながる...力を合わせる、社会の強さを育む。(3)「つ」たえる...正しく伝えることは、学ぶことと裏表の関係だと説明した。

   なかでも、室﨑さんが重要視したのは「つながる」こと。現在、防災体制の強化や技術は進歩したものの、(1)人と人とのつながりが薄れていること、(2)ヒューマンウエアの欠落は、課題として挙げた。ヒューマンウエアとは、仕組みなどを運用する「ヒト」の意識や能力、資質のことを指す。

「最も大切なことは、『みんなで力を合わせる』『いろんなつながりをつくっていく』。つながりをいかにしてつくりあげていくかが、今、問われています」(室﨑さん)

日頃から顔の見える関係をつくり、有事の際は「つながれる」備えを

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損保協会 常務理事・伊豆原孝さん

   室﨑さんの挙げた課題を軸として、パネルディスカッションが進行。パネリストの武田真一さん(たけだ・しんいち=宮城教育大学 特任教授/公益社団法人3.11メモリアルネットワーク代表)は、東日本大震災における被災地の現地視察、語り部の活動サポートなど、自身が力を入れている「震災伝承」の取り組みを紹介した。

「津波防災を日常的に意識する環境になり、次なる災害への備えとして、防災教育や伝承活動への関心が高まりました。ただし、これで本当に備えの意識と体制はできたか。この問いかけは残っています」(武田さん)

   また、大牟田智佐子さん(おおむた・さちこ=毎日放送 報道情報局/兵庫県立大学 客員研究員)は、テレビやラジオの報道記者経験、そして、大学院での災害報道についての研究内容を取り上げた。

「日常生活の中に防災の話を入れるなど、日常とつながっていることが大事です。とくにラジオの場合、こうしたことが自然と伝えられる(のはメリット)」
「(災害に関する報道のうち)生活情報の発信は、被災者が生きるためのライフライン情報として重要。私は『共感放送』と呼んでいますが、こうした寄り添う報道の姿勢が今後も大切だと考えています」(大牟田さん)

   損保協会・常務理事の伊豆原孝さんは、同協会のさまざまな取り組みを紹介した。なかでも注力してきたのは、防災取り組みにおける、産官学民連携だ。

「2022年7月、政府が発表した『国土形成計画』の中間とりまとめでは、巨大災害リスクを含めた、国土課題に立ち向かっていくために、官民共創や分野の垣根を超えることがキーワードとして提示されています。災害時に連携を図るには、国のみならず、地域単位の連携が重要。(そのためには)縦割り(の関係)を超えた、顔の見える関係を日頃からつくっておくことが必要です」(伊豆原さん)

   具体的な事例としては、2020年、「中部防災推進ネットワーク」を立ち上げた。現在、中部圏の業界団体、行政組織、内閣府など約40の組織が参画。隔月での勉強会や毎月のメルマガ発行などを通じて、日頃から情報や課題を共有するなど、顔の見える関係をつくり、有事の際は「つながれる」よう備えているという。

   このほか同協会では、震災後の生活再建などに役立てられる、地震保険の普及活動なども展開。コーディネーターの室﨑さんも、お金の仕組みによる人と人をつなぐ大切さに触れた。

「お金をつなぐ仕組みには、行政や公的機関からの支援金です。その対極にあるのが貯蓄金。そして、いざという時の保険金。それから、義援金があります。 これらの4つがあわさってこそ、震災後の復興、復旧への大きな役割を果たす大事なものだと思います」(室﨑さん)

   シンポジウムの最後、室﨑さんは「それぞれの持てる力を発揮してつながる」とも表現したが、まずはあらためて防災意識を持つことから始めてはどうだろうか。

   なお、地震保険は、住宅の損害保険である火災保険にセットして契約する保険。火災保険だけでは、地震を原因とした建物の倒壊、火災、津波、噴火の被害は補償されない。地震保険は、政府と損保業界で共同運営している。保険料には、保険会社の利潤は含まれていない。