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円安に、物価高...高まる地域金融機関の信用リスクに日銀が警鐘

   円安や物価高による企業の倒産が増えているなか、銀行の信用リスクが高まっている。

   企業の信用調査の帝国データバンクによると、なかでもトラック運送など運輸業では、今年10月までに50件を突破するなど、苦境が鮮明になっているという。「物価高」が最後の追い討ちとなる倒産が増加の一途。「物価高倒産」は4か月連続で過去最多を更新する状況だ。

   日本銀行の金融システムレポート10月号は、経営規模の小さい取引先企業を多く抱えている地域金融機関ほど、信用リスクが高いと指摘している。

  • 地域金融機関の信用リスクが高まっている(写真はイメージ)
    地域金融機関の信用リスクが高まっている(写真はイメージ)
  • 地域金融機関の信用リスクが高まっている(写真はイメージ)

「物価高倒産」4か月連続で最多更新

   帝国データバンクによると、法的整理(倒産)の企業のうち、原油や燃料、原材料などの仕入れ価格上昇や、取引先からの値下げ圧力などで価格転嫁できなかったことなどを理由に、収益が維持できずに倒産した「物価高倒産」は、2022年10月に41件が判明した(11月9日発表)。月間最多だった9月(35件)をさらに上回り、4か月連続で月間最多を更新した。

   10月は今年最多となる6700品目の飲食料品が一斉に値上げされたほか、大手電力・ガス会社が利用料金を引き上げるなど、エネルギーコストも上昇した。円安による急激な輸入コスト負担の増加も加わり、多方面に物価高の影響が広がっている。

   同社は「物価高倒産は前例のない水準で推移している。今後もさらなる増加傾向で推移していきそうだ」とみている。

   この10月に発生した41件を業種別にみると、「製造業」が12件でトップだった。なかでも「飲食料品製造」(7件)がもっとも多かった。次いで、「小売業」の9件、トラック運送などの「運輸・通信業」が8件、「建設業」「卸売業」がそれぞれ5件で続いた。燃料高や食品の価格高騰の影響を受けた業種が多かった。

   また、規模別にみると「1億~5億円未満」が20件でトップ。次いで、「1億~5000万円未満」(10件)、「1000万円~5000万円未満」(8件)と、負債額が中規模の倒産が目立つ。

   一方、帝国データバンクが9月に実施した「企業の価格転嫁の動向アンケート」では、コストの上昇分を販売価格やサービス料金に「多少なりとも転嫁できている」と答えた企業は70.6%であったのに対し、「まったく価格転嫁できていない」企業は18.1%となった。

   物価高が続く状況下で、企業は取引先からの理解が得られないことや顧客離れを懸念して、価格転嫁に結びつけられていない現状が垣間見られる。

物価上昇圧力は続く?

   また、法的整理(倒産)の企業のうち、円安の影響を受けて倒産した10月の「円安倒産」は7件で、今年最多の8月に並んだ(帝国データバンク調べ)。

   2022年は10月までに21件が判明。19年の22件を上回り、過去5年で最多となることが確実視されている。急速に進んだ最近の円安を受けて、8~10月の3か月だけで19件を数えるなど、夏場以降、円安倒産が急増している。

   今年の21件を業種別に見ると、食品関連(製造・卸・小売)が6件でトップ。次いで、繊維関連が5件、機械器具と家具・建具関連がそれぞれ2件で続いた。負債規模別では、全体の6割強が負債5億円未満の倒産が占めた。

   ドル円相場は10月20日、約32年ぶりの円安水準となる1ドル=150円の大台を突破したものの、足もとでは急激な円高となり、11月15日には137円台にまで回復してきた。

   ただ、しばらくは日米の金利差拡大を背景にした円安ドル高基調が続く見通しには変わりない。円安にともなう物価上昇圧力は続くとみられ、企業を取り巻く収益環境は厳しさを増していきそうだ。

   10月の全国企業倒産件数は594件で、低水準ながらも6か月連続で増加した。中小・零細企業の多くは、コロナ禍で経営体力を消耗した末に倒産に至ったケースが多く、なかでも足元の円安と物価高は「最後のひと押し」となる要因になり得る。

   帝国データバンクは、「資金需要が高まり、かつ企業倒産が相次ぐ年末にかけて、円安、物価高による倒産はさらに増加していく可能性がある」と指摘している。

債務者区分、厳しく判定「慎重にせざるを得ない」

   こうしたなか、日本銀行が10月に公表した金融システムレポートによると、金融機関の国内貸出は、企業の多くが厚めの流動性バッファーを確保しており、このことがストレス局面が長引くなかでも、「デフォルトを歴史的な低水準に抑制する一因となっている」としている。

   これは、地域金融機関の未保全・未引当率に全額保証の実質無利子融資が活用されているほか、前年度までに予防的な引当てを計上していたことで、地域銀行で3%台、信用金庫で4%台の、低くい未保全・未引当率に抑えられていることがある。

   その一方で、日銀は「原材料調達コストの増分を販売価格へ転嫁することが難しい企業の中には、今後、デフォルト確率が相応に上昇し得る先がある」と指摘する。たとえば、地域銀行や信用金庫の対面型サービス業(飲食・宿泊、個人向けサービス業)の中には、資金繰りや財務が悪化している企業もみられる。

   上場する地域銀行の2022年度中間決算をみても、収益状況は地域や経営規模によって差はあるものの、全体的には順調に推移した。ただ、地域銀行の一部では与信関係費用を増やしたり、取引先企業に対する債務者区分を厳しめに判定したりする銀行も、少なからずあった。ある地銀関係者は、コロナ禍の第8派が迫っていることもあり、「慎重にせざるを得ない」と話す。

   現状では、(1)コロナ禍の長期化(2)ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギーや穀物、原材料価格の上昇(3)欧米の中央銀行の利上げ継続とそれに伴う海外経済の減速懸念――と、貸出先企業はまだまだストレスにさらされている。

   日銀は、ストレス局面が長引くもとでの潜在的な信用リスクが高まっているとみている。