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織田信長、豊臣秀吉、明智光秀、徳川家康が上司だった場合...部下はどう「説明」するといいか?【尾藤克之のオススメ】

   経営不振に陥った名門・歴史ゲーム企業の命運を握る極秘プロジェクトーーそれは、触覚や嗅覚までもが再現されたメタバース空間で行う、関ヶ原の戦いだった。

   今回紹介する一冊は、歴史もゲームも詳しくない主人公・みやびが、その開発中の超絶リアルなゲームのテストプレイを任命され、史実ではあっさり敗れてしまった「西軍」を勝たせるというミッションを担うことになる。...というストーリーの、読めば、歴史もビジネススキルも身に着く、そんな「ビジネス小説」だ。

「ビジネス小説 もしも彼女が関ヶ原を戦ったら」(眞邊明人著)サンマーク出版

上司に理解してもらうために...

「PREPだよ」「プレップ?」「Point Reason Example Point、有名な交渉法の一つだ」「なんですか。それ?」「結論から話し、その理由を述べ、具体的な事例を挙げ、もう一度結論に戻る。今回の場合は、毛利(輝元=西軍総大将)、三奉行で全文書を出す〈結論〉。その理由は毛利の権威の正当性を知らせるため、具体的にはそれを豊臣家筆頭だった家康に語る<事例>ことで確実にする。これで毛利の権威は正当な人事として明文化〈結論〉される」(P120)
「さらには足腰の定まらない毛利一派と三奉行を正式にこちらに引きずり込む。というか、この文書が家康に渡った時点で対立構造は毛利対徳川になる。一石二鳥だ」「おそらく小早川・吉川は伏見城を包囲してダラダラと時間を稼ぐでしょう。そのあいだに徳川方には別途、言い訳の密書を毛利殿の許可なく送るはずです。伏見城が落ちないように手心を加えれば実質、徳川に味方したのも同然ですから」(P121)

   本書が興味深いのは、難解なビジネステクニックを小説内に盛り込んでいる点にある。この箇所では、PREPを解説しているが、本来の目的はそこではない。真の目的は、上司にいかに理解させるかにあり、それは過去に一世風靡したソーシャルスタイルに他ならない。

   ご存じない方のために簡単に解説をしよう。ソーシャルスタイルというコミュニケーションテクニックがある。ソーシャルスタイルは人間行動学をベースにした理論で、1968年に産業心理学者のデイビット・メリル(David W. Merrill)とロジャー・リード(Roger H Reid)によってあきらかにされた概念として知られている。

※PREP:Point=結論、Reason=理由、Example=具体例 Point=結論

主導型(イニシアティブ型)、表出型(エクスプレッション型)、分析型(アナリティカル型)、友好型(フレンドリー型)...4タイプへの対処法

   この概念は、人間の行動スタイルを「思考のオープン度」「感情のオープン度」によって分類することに特徴がある。

   「思考のオープン度」とは、考えたことを、他者に明確に伝える度合いのことをあらわす。オープン度が高い人は、意思表示が明確で断言するタイプ。低い人は、意思決定に慎重で聞き役に徹するタイプと類型できる。

   「感情のオープン度」とは感情を表出させる度合いのことをあらわす。開放度が高い人は表情豊かで、喜怒哀楽が大きく、他者に感情がわかりやすいタイプ。低い人は、分析肌で、冷静沈着で、他者に感情が伝わりにくいタイプと類型できる。

   次に、思考・感情のオープン度合いを基軸にして、主導型(イニシアティブ型)、表出型(エクスプレッション型)、分析型(アナリティカル型)、友好型(フレンドリー型)の4タイプに分類する。戦国武将に置き換えるなら、主導型は織田信長、表出型は豊臣秀吉、分析型は明智光秀、友好型は徳川家康と分類することができる。

   もし、織田信長が上司だったと仮定しよう。「本日はお日柄もよく」などの前置きは不要だろう。結論だけを端的に述べる方が好まれるはずである。効率よく最短距離で到達することをつねに考えているため、即断即決可能な情報の提供が必須といえる。

   これが、豊臣秀吉が上司ならどうか。目立ちたがり屋の一面のある秀吉なら「これは誰も使っていない代物です!」「これを使えば目立ちますよ!」というトークが有効になる。一方、明智光秀なら緻密なマイルストーンが喜ばれるだろうし、徳川家康なら家臣を含めた配下から賛同を得られるかが大きな要素になるはずである。

   おそらく、戦国の時代を生きた武将たちも、上司の特性や傾向などを把握したうえで、コミュニケーションをとったはずである。そのようなことを夢想できるところが本書の面白さでもある。メタバース空間の関ヶ原の戦いはどうなってしまうのか。西軍が勝利して、日本はメタバースで世界を牽引する存在となり、「失われた30年」を取り戻せるのか。結末はぜひ本書で。(尾藤克之)