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仕事に必要なスキル学び直す「リスキリング」...熱心な企業とダメな企業に広がるギャップ、その差は「社内デジタル革命」にあり!

   働く人が業務に役立つスキルや知識を学び直す「リスキリング」が盛んになっている。従業員も企業も、リスキングなしでは生き残れない時代がやってきたようだ。

   そんななか、リスキングに取り組む企業と取り組まない企業の間で、ギャップがあることが、帝国データバンクが2022年11月28日に発表した「特別企画 :リスキリングに関する企業の意識調査」でわかった。

   面白いのは、リスキングの前に、社内で「デジタル革命」を推進するかどうかで、学び直しの取り組みに温度差があるというのだ。

  • リスクキングは社員も企業も成長させる(写真はイメージ)
    リスクキングは社員も企業も成長させる(写真はイメージ)
  • リスクキングは社員も企業も成長させる(写真はイメージ)

従業員より先に経営陣の「学び直し」を優先させる企業も

   リスキリング(Reskilling)とは、もう一度「スキル」(Skill)を身に着けること。つまり、「新しい仕事に就くために、あるいは、今の仕事で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを学び直す」ことだ。

   昨今は、DX(デジタルトランスフォーメーション、デジタル革命)がどんどん進み、新しい職業が生まれ、仕事の進め方も劇的に変わりつつある。リスキリングは単なる個人学習ではなく、企業が生き残りために主導して取り組んでいくことが求められている。

   そのため、今年10月に閣議決定された政府の総合経済対策では、「構造的賃上げと成長力の強化を図るため、官民が連携してリスキリングと人への投資の支援パッケージを行ない、5年間で1兆円を投資する」という方針が掲げられた。

デジタル革命に熱心な企業ほどリスクキングに取り組む(写真はイメージ)
デジタル革命に熱心な企業ほどリスクキングに取り組む(写真はイメージ)

   帝国データバンクの調査によると、DXに取り組んでいる企業のほうが、リスキリングにも取り組んでいる、そんな相関関係があることがわかった。企業にリスキリング取り組み状況を聞くと、何らかの取り組みを1つ以上実施している企業は全体の48.1%、特に取り組んでいない企業は41.5%だった【図表1】。

(図表1)リスキングの取り組み(帝国データバンクの調査)
(図表1)リスキングの取り組み(帝国データバンクの調査)

   DXの取り組み状況ごとにみると、DXに取り組んでいる企業のリスキリング取り組み割合は81.8%に上った。一方、DXに取り組んでいない企業では、リスキリングに取り組んでいる割合は32.2%にとどまった【図表2】。

(図表2)DXに取り組んでいるか、いないかでリスキング取り組みに差が(帝国データバンクの調査)
(図表2)DXに取り組んでいるか、いないかでリスキング取り組みに差が(帝国データバンクの調査)

   具体的にどんなリスキリングを行なっているのか。DX取り組み企業・DX未取り組み企業双方にリスキリングの内容を聞き、グラフで比較したのが【図表3】だ。

(図表3)DXに取り組んでいるか、いないかでリスキング内容に差が(帝国データバンクの調査)
(図表3)DXに取り組んでいるか、いないかでリスキング内容に差が(帝国データバンクの調査)

   上位にはそれぞれ「新しいデジタルツールの学習」「eラーニング、オンライン学習サービスの活用」などが並ぶ。ここで、興味深いのは、DX取り組み企業では、従業員に新しいスキルを学習させて日々の業務に直結させる内容が多いのに対し、DX未取り組み企業では、従業員よりも経営層に新しいスキルを学習させる内容が多いことだ【再び図表3】。

   まず、従業員全体を底上げする前に、DX推進意欲に欠ける経営層の学び直しから始めなければならない、ということだろう。

中小企業の声「お金をかけて育てても、スキルを身につけた後に転職されたら...」

リスクキングをしない中堅社員の将来は暗い?!(写真はイメージ)
リスクキングをしない中堅社員の将来は暗い?!(写真はイメージ)

   規模別にみると、大企業のリスキリング取り組みが60.4%に達したのに対し、中小企業は45.8%にとどまった。

   新しいデジタルツールやeラーニングの導入には、資金や人的コストが必要だから、中小企業からは「DX対応のシステム構築やソフト購入費用が高すぎる。コストに見合う成果が発揮できるか疑問」(電力制御装置製造、東京都)といった費用面の悩みや、「大企業のように経営に余裕がなく、10年後20年後を見据えた人材育成は難しい。せっかくお金と時間をかけて育成しても、スキルを身につけた後に転職されたら、と考えると二の足を踏んでしまう」(一般貨物自動車運送業、福島県)という人材面の課題も聞かれた。

   業種別にみると、取り組み割合のトップ3は「広告関連」(69.2%)、「情報サービス」(67.5%)、「金融」(62.1%)だった。企業からは、「DX事業を主軸にした事業部を作り、投資を行っている」(ソフト受託開発、大阪府)、「画面共有による指導が、一番効果があると考え、システム化・クラウド化によるレベル向上を毎年進めている」(ソフト受託開発、福岡県)などの声があがった【図表4】。

(図表4)リスキング取り組み企業の上位と下位の業種(帝国データバンクの調査)
(図表4)リスキング取り組み企業の上位と下位の業種(帝国データバンクの調査)

   一方、ワースト3の業種は、「娯楽サービス」(34.2%)、「建材・家具、窯業・土石製品卸売」(38.6%)、「メンテナンス・警備・検査」(39.2%)だった。企業からは、「リスキリングは必要に迫られた段階で検討。DX推進は現在考えられる以上の費用対効果が見込まれた場合に検討」(ガラス繊維、福島県)、「自社のビジネス形態に適応するDX推進方法を相談できるところが解らない」(一般機械修理業、神奈川県)など、リスキング以前にDX推進の課題がある会社もあった【再び図表4】。

   帝国データバンクではこうコメントしている。

「リスキリングは目的が重要であり、業務と結びつき、改善や新たな価値創出につながる取り組みが理想といわれる。DX推進に積極的な大企業や情報サービス業などでは、新しいデジタルツールの学習、eラーニングの活用、DX関連資格の取得支援などの具体的な取り組みが進んでいる。
政府が掲げる、人への投資、労働移動の円滑化、所得の増加が進展するには、大企業だけでなく中小企業や幅広い業種でのリスキリング推進が欠かせない。人手不足の環境下では特にDXなどの専門人材が逼迫しており、外部からの人材登用は容易ではない。企業においては、在職従業員の世代や役割などを限定せず、業務変革とそれに関わるリスキリングを同時に進めていくことが重要となろう」

   調査は2022年9月15日~9月30日、全国2万6494社にアンケートを行ない、1万1621社(43.9%)から有効回答を得た。そのうち、大企業は1835社(15.8%)、中小企業は9786社(84.2%)だった。(福田和郎)