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「丸亀製麺」トリドールHDが、「DX」でなんとしても実現したいことは?...本能が歓ぶ「食の感動体験」目指して/代表取締役社長兼CEO粟田貴也さんに聞く【DX先進企業】

提供:株式会社トリドールホールディングス

   デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉をご存じですか?

   DXとは、企業がデジタル技術を活用し、業務の改善のみならず、ビジネスのあり方を根本的に変革していく取り組みのことだ。変化の激しいビジネス環境のなか、自社の競争優位性を保つためにも、DXは現代の最重要テーマとなっている。

   もっとも、全社的な仕組みの変更を迫られること、あるいは、IT人材の不足などの課題から、多くの企業でDX推進がなかなか進まないのも実情だ。

   ところが、讃岐うどん専門店「丸亀製麺」などを手掛ける、トリドールホールディングス(トリドールHD)では、2019年秋から本格的なDX推進に乗り出すと、たった3年で、店舗業務やバックオフィス業務の改革を実現させ、かなりの成果を上げてきた。

   トリドールHDがDX推進にこれほど積極的なのは、なぜか? 代表取締役社長 兼 CEO(最高経営責任者)の粟田貴也さんに、DX推進のねらい、込められた思いについて話を聞いた。

トリドールHD 代表取締役社長 兼 CEO・粟田貴也さん
トリドールHD 代表取締役社長 兼 CEO・粟田貴也さん

こだわり続けたいのは「手づくり」「できたて」...「食の感動体験」

――トリドールHDは、主力の「丸亀製麺」をはじめ、切りたて牛肉でつくる焼肉丼の「肉のヤマキ商店」、釜飯と焼き鳥の「とりどーる」、ハワイアンパンケーキカフェの「コナズ珈琲」を展開するなど、外食産業のリーディングカンパニーとして存在感を発揮しています。なかでも、飛躍のきっかけとなった「丸亀製麺」は、どのような思いで立ち上げた事業だったのでしょうか?

粟田貴也さん「トリドールHDの出発点は1985年、私が兵庫県加古川市に開業した、焼鳥居酒屋『トリドール三番館』を礎としています。私は飲食経営を始めてからというもの、どうしたらお客様に来ていただけるか――この一点を考え続けて、商売をしてきたように思います。あれこれと考え続けるなかで、ヒントは父親の出身地、香川県にありました」

――印象的な出来事があったのでしょうか。

粟田さん「ええ。讃岐うどんブームだった1990年代半ばのことです。現地の製麺所には長蛇の列ができ、香川県外からも来るお客様でにぎわっていました。どうしてだろう? 自分が経営する焼き鳥屋との違いは何か? 私はその理由を知りたくて店内に入ると、お客様の目の前でうどんを打ち、大きな羽釜で湯がき、できたてを提供していたのです」
粟田さん「そんな光景を見て、『人は調理シーンそのものにも興味があるのか』と驚きましたね。この原体験がきっかけとなり、また、全国においしい讃岐うどんを広めたいと、2000年にオープンしたのが『丸亀製麺』なのです。『丸亀製麺』では、お客様の目の前で実演調理するスタイルを貫き、手間暇かけて『手づくり』『できたて』を提供しています。このこだわりこそが、トリドールHDのミッションにも掲げている『食の感動体験』を生む、と私は信じています」

――「丸亀製麺」のうどんがおいしいのは、そうした思いが込められているからなのですね。ただし一方では、店舗スタッフの力に負うところも大きいのではないでしょうか。

粟田さん「たしかに、『手づくり』『できたて』を提供するには、それだけ人手が必要です。しかも、この先は就業人口の減少などから、人手不足の課題もあります。それでも、私たちは『食の感動体験』をひとりでも多くのお客様に届けるために、これからも人手をかけて調理し、提供していきたいと考えています。
ということは、私たちがやりたいことは、世の中の環境と相反してしまうのでしょうか――。実は、この矛盾を解消する方法が、DX(デジタルトランスフォーメーション)なのです。トリドールHDでは、2019年秋から本格的に取り組んできました」

経営層も強い危機感...DXは「真のグローバルフードカンパニー」への手段

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――トリドールHDでは、DX推進......つまり、デジタル技術を活用して、業務プロセスの改善を、ビジネスのあり方を、根本的に変革していこうとしているのですね。

粟田さん「はい。そこで具体的には、店舗スタッフが利用する業務システムでは『SaaS』(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)を、バックオフィスの定型業務では『BPO』(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を、それぞれ活用しています(※)」

(※)SaaS=ベンダーが提供するクラウド上で動作するソフトウェアを利用すること。トリドールHDでは、自前のシステム運用をできるだけやめて、それぞれの業務に適したSaaSへと順次切り替えている。/BPO=通常の外部委託とは異なり、一連の業務プロセス、一つの部署を丸ごと外部委託すること。トリドールHDでは、コールセンター、経理、給与計算などのバックオフィス業務でBPOを活用している。

――SaaSとBPOを活用することで、どのような変革が望めるのでしょうか。

粟田さん「まず、現場が変わるでしょう。すでにSaaS利用は進んでいますが、これからさらに整備したいのは、店長の役割である店舗マネジメントの省力化です。これまで店長は、発注業務やスタッフの勤務計画(シフト作成や管理)をはじめとする店舗マネジメントに多くの時間を割かれ、本来優先すべき、お客様と向き合う時間が限られていました。この点を徐々に改善し、省力化で生まれた時間を使って、これまで以上に『人のぬくもり』を感じられる接客に充ててほしい。そうすると、お客様の『顧客体験』を高めるとともに、会社として大きく成長していけると思います」

――トリドールHDが、DXによって、ビジネスのあり方を変える点では、どのように考えていますか。

粟田さん「私たちが目指す『食の感動体験』を世界中に広めるには、店舗の出店を含めて、スピーディーで効率的な事業展開が必要です。こうした変化の激しいビジネス環境への対応を考えると、DX推進は避けて通れないことでした。私を含め経営層は、強い危機感を持っていました。
トリドールHDは現在、ひとつの業態ではなく多業態での展開を推し進めています。また、国内のみならず、海外にも積極的に打って出て、『真のグローバルフードカンパニー』となることを目標としています。これを成し遂げていく過程で、会社の規模は大きくなっていくでしょうから、会社の仕組みそのものも成長に合わせていくことが必要です」
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粟田さん「この点に関しては、BPOが欠かせませんでした。社外の専門企業の知見を借りることで、トリドールHDの業容が一気に増えようとも、それにともなう労務的な管理などの対応がしやすくなるからです。現在、SaaSとBPOがうまく重なり合いながら、全社的なDXをかなり推し進めることができました。会社がこの先大きく成長しても、しっかりと適応していける手ごたえを感じています」

――DXのその先の展望としては、どのようなことを考えていらっしゃいますか。

粟田さん「企業の果たすべきミッションとして、これまで以上に力を入れなくてはならないのは『持続可能な社会』の実現に向けた取り組みです。現在、企業や事業が目的とする利益の追求は、どちらかといえば、企業のエゴではなかったかという考え方から、企業の社会的責任、とりわけ『社会との共生』が求められている、と私はとらえています」

――具体的に取り組みたいことは?

粟田さん「たとえば、私たち外食産業では『食材ロス』に大きな課題意識があります。ほかに、気候変動の課題解決に向けた『温室効果ガス』排出量の削減などは、言うまでもなく、業界を問わず社会全体で取り組むべきことです。こうした社会課題の解決に向けては、DXが力強くサポートしてくれるのではないかと思います。『社会との共生』を目指す視点においてもDXを取り入れ、今後ますます真摯に取り組んでいきたいと考えています」
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――トリドールHDが「真のグローバルフードカンパニー」を目指して、DXに取り組まれていることがよくわかりました。最後は、インタビューの締めくくりに、ちょっと角度を変えた質問として、粟田さんが大切にされている言葉を教えてください。

粟田さん「『念ずれば花開く』という言葉は好きですね。いまはできそうにないことでも、自分が思い続けることで、そこにたどり着くことができるのではないか、と、これまでの経営者人生で身をもって実感しています。ですので、みなさんもこの瞬間に、自分の能力を決めつけない、というのは大事だと思います。
もうひとつ付け加えると、仲間も大事でね、たくさんの仲間とともに未来は拓いていくものです。一人ではどこまでいっても非力ですが、でも、仲間が集うことで、どれだけ大きな力を発揮できることか! 仲間がいるから、一歩一歩前に進んでいけるものだと信じています。成し遂げたい夢を持ち、人に語る――その源泉ともいえる『念ずれば花開く』姿勢はこれからも大切にしたいと思っています」

――ありがとうございました。

   トリドールHDのコーポレートサイト内では2022年11月11日、同社の「DX推進」の取り組み事例やニュースなどを発信していく、新たなページが立ち上がった。

   今回、J-CASTニュース 会社ウォッチで掲載した、代表取締役社長 兼 CEO・粟田貴也さんインタビューのフルバージョン(テキスト・動画)、これまでのDX推進をまとめた「グラフィックレコーディング」、トリドールDXの核心に迫る早稲田大学入山章栄教授とトリドールHDの磯村康典執行役員CIO/CTOの対談が見どころだ。

   さらに、DXがビジネスの在り方をアップデート、DXビジョン2028、パートナー企業インタビュー、店舗インタビュー、社員インタビューなども随時公開。DX先進企業として注目されている、トリドールHDがどのようにDX推進を進めたか、その裏側に迫る。DX関係者必見の内容をお見逃しなく。

※トリドールHDは、公益社団法人企業情報化協会主催の「2022年度IT賞」において、最高評価である「IT最優秀賞(トランスフォーメーション領域)」を受賞しました。2022年12月6日の発表。トリドールHDが推進してきたSaaS、DaaS、BPO、ゼロトラストで構築するビジネスプラットフォーム、価値の実現への明確な構想に基づいた、人、組織、技術を融合した高度な組織ケイパビリティの形成など、トランスフォーメーションへの企業姿勢が高く評価されています。

【プロフィール】
粟田 貴也(あわた・たかや)

株式会社トリドールホールディングス
代表取締役社長 兼 CEO
https://www.toridoll.com/

1961年、兵庫県生まれ。1985年、焼鳥居酒屋「トリドール三番館」を創業。店名の由来は「将来、3店舗を経営したい」という思いから。2000年、「丸亀製麺」第一号店を開店。2006年に東京証券取引所マザーズ市場(現・グロース市場)に上場、2008年に東京証券取引所第一部(現・プライム市場)へ昇格。2016年には、持株会社体制へ移行し、株式会社トリドールホールディングスが誕生。現在、世界の国・地域で1700店以上を展開する。