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市場参加者が反応する「経済指標」に変化あった1年...2022年株式市場を振り返る【後編】(児山将)

   学生のみなさんとともに、およそ半年にわたって挑戦してきた「シューカツに使える企業分析バトル カブ大学対抗戦 Season4」。

   締めくくりとして、当企画のコーディネーターを務めたメディアディレクター、フリーランス投資家として活躍する児山将さんから、2022年の株式市場を中心に、相場を振り返ってもらった。今回の寄稿記事【後編】では、2022年の夏~秋の振り返りをお届けする。

インフレピーク! 金融引き締めが鈍化し、株に追い風

   <インフレと金融引き締めに左右された1年...2022年株式市場を振り返る【前編】(児山将)>の続きです。

   2022年後半は、一部商品価格の頭打ちと、利上げを急いだ各国の中央銀行の効果があってか、物価上昇圧力が落ち着きました。

   昨年(2021年)は、金融緩和や政府の財政出動などの恩恵を受けていた株式市場。それだけに2022年の前半は厳しい半年でしたが、後半になってようやく追い風が吹いてきたのです。

   秋になると、利上げを打ち止めする中央銀行や、金利の上げ幅を縮小する中央銀行が増加。米国の中央銀行にあたる米連邦準備制度理事会(FRB)でも、3会合連続で0.75%引き上げていた消費者物価も落ち着いてきたことで、12月には0.5%の上げ幅となり、市場に安心感をもたらしました。

   2022年、印象的だった出来事としては、市場参加者が反応する「経済指標」が変化したことです。

   従来であれば、米国雇用統計が最も注目される指標でした。しかし、今年のテーマはインフレであったことから、米国消費者物価に焦点が集まりました。その結果によって、NYダウが1000ドル急騰したり、ドル円相場が5円以上急落したりするようなドラスティックな値動きが起こりました。

   また、経済指標一覧に表示されないこともある米国のPMI(購買担当者景気指数)ですら、相場を大きく動かす指標となりました。1980年代のオイルショック以来となるインフレ経済となったことで、相場を左右するコンパスも変化を迎えたようです。

NISAの拡大で沸いた日本市場に、水を差した日銀の政策変更

   年後半の相場は「Sell in May(セル・イン・メイ=株は5月に売れ)」の相場格言通りに、9月末から10月に入ると、株式市場は強含みました。インフレ率も目立って落ち着き始めたことは、投資家と中銀政策決定者がほっとしたことでしょう。

   日本では、NISA枠の大幅拡大のニュースで相場に弾みがつきました。結局、毎年の株式相場アノマリー通りに10月から12月は強い動きが起こるかに見えた矢先、サプライズが起きました。

   12月、日銀による「イールドカーブコントロールのバンド幅を、従来のプラスマイナス0.25%から、プラスマイナス0.5%へと拡大する」という金融政策の変更が行われたのです。金利が上昇するという実質的な金融引き締めとなるため、日本株には打撃となり、日経平均株価は2日間で1000円ほど叩き落される結果となりました。

   これまでの黒田日銀総裁は、「今後2、3年は金融政策を変えるつもりはない」と発言していただけに、市場にとってはネガティブインパクトとなりました。さらに、来年4月に退任予定の黒田総裁が、これまで行ってきた緩和戦略の出口への道筋を付けたとして、今後も上値が重くなる要因となりそうです。

2022年の個人投資家人気銘柄は?...目立ったのは「半導体」、「海運」

   ある証券会社の年間売買代金ランキングを見てみると、1位は半導体関連装置大手のレーザーテックでした。半導体市況が伸び悩む中で、安値から2倍となる上昇を見せました。また、東京エレクトロンもランクインしています。

   目立った業種は海運で、日本郵船、川崎汽船、商船三井がランクイン。1年を通してレンジ相場でしたが、昨年に続いて人気が継続していることが分かりました。

   これらを踏まえて、対抗戦参加者の個別銘柄を振り返っていきます。

   注目のテーマとしては、引き続き「円安」に加えて、一時的に「W杯」もありました。

   また、金湯引き締めの鈍化による米国株式の上昇で地合いが回復してきたことから、日経225インデックスファンドの組入銘柄に追い風がありました。

   コロナ禍の為替変動や輸送コストに耐え、営業利益の伸びが2倍近くになったというウルトラファブリックスHD(4235)を、愛知工業大学株式研究会が選択。その結果、第3四半期決算の経常利益は前年同月比3倍以上となりました。残念ながら、株価は為替が急激に円安に振れたことや地合いの悪さで低迷してしまいましたが、お見事でした。

   北海道大学 FiNaancierは、ソフトバンクが『守り』の姿勢に入ったとして9月月初に購入。米消費者物価指数の低下に伴い、同社が積極投資を行っているハイテク株が多いナスダックの上昇が追い風となりました。

   その後にワールドカップの勢いで選んだコカ・コーラボトラーズジャパン(2579)は、四半期決算が大幅に黒字転換したことでジャンプアップを勝ち取りました。

   堅調な銘柄を予想したのは、同志社大学 SYさん。一時売り切れになったほど販売が好調なヤクルト1000に加え、円安により海外での売り上げが増加したヤクルト(2267)を選択。派手な値動きは無いものの、堅調に上昇し高値圏で推移しています。

   テーマにうまく乗ったのは、FFRIセキュリティ(3692)を選んだ愛知工業大学。年々増加するサイバーセキュリティの需要に加え、業界では日本トップであり、人材面の強化を評価し購入。決算は赤字拡大だったものの、政府の法整備の動きからテーマとして盛り上がり、20%以上も上昇しました。

   北海道大学のチームヒゲペンギンズは、銘柄選定をテーマ>財務から、財務>テーマへと変更。より財務体質が良いとして選んだ銘柄がロート製薬(4527)でした。

   上場来高値を更新し、決算では経常利益を上方修正。さらに、株式二分割の発表もありました。ただし、市場の期待はもっと高かったのか、一時的に売り込まれる結果となってしまいました。

   あらためて振り返ると、後半戦も、引き続き為替の影響を加味した予想を行う必要がありました。また、決算よりもテーマや国策に乗った大学が利益を伸ばす結果となりました。

   ちなみに、特にこれからの季節は、メディアが取り上げる2023年のテーマに関連する銘柄が一花咲かせることが多くなりそうです。(児山将)



【プロフィール】
児山 将(こやま・しょう)


2009年の大学4年時にFXをはじめ、一度は飲食店の店長として働くも相場に関りたく金融メディア大手に就職。記事執筆とサイトのディレクションを行う。FX以外にも、株、指数、オプション、商品、仮想通貨など多岐に渡る商品を取引。現在はフリーランスとしてサイト制作やコンテンツ制作を行いながら個人投資家として活動する。
・Twitter:児山 将 @goahead5055
・初心者でもできる、ビットコイン・イーサリアム投資情報サイト:https://btc-eth.jp/