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米国大統領選挙前年は株高のアノマリーは、2023年も当てはまるのか?【2023年のマーケット展望 後編】(児山将)

   世界的な高インフレにともない、世界各国ではインフレ退治の金融引き締めがおこなわれた2022年。年が明けて、2023年の株式市場の動向はどうなっていくのか?

   メディアディレクター、フリーランス投資家として活躍する児山将さんが、2023年のマーケット展望を解説。今回の寄稿記事【後編】では、米国大統領選挙の前年は「株高」になるという説(アノマリー)。そして、4月に任期満了を迎える日本銀行・黒田東彦総裁の後任人事をテーマに取り上げる。

バイデン政権が景気の下支え策を投入し、株価を押し上げる?

   <インフレは収まり、景気後退は回避できるのか?【2023年のマーケット展望 前編】(児山将)>の続きです。

   【前編】のおさらいをすると、物価動向では明るい見通しの米国経済も、住宅などの個人消費動向を見ると、厳しいように見えます。

   そんな米国ですが、2023年の株高を示唆する「大統領選挙前年は最大のパフォーマンスとなる」という力強いアノマリー(論理的な根拠はないけれど、予測が当たりやすい経験則)があります。

   1980年~2021年の42年間で米国株(S&P500)の年間騰落率をみると、平均プラス10.7%となっています。しかし、大統領選挙の前年の平均騰落率は15.7%と、平均値を大きく上回っています。

   また、上昇・下落の勝敗でも、2007年のサブプライム・ショックを除き、すべて勝ち越しています。つまり、1年スパンで見ると、2023年は株式投資家にとっては最高の一年といえそうです。

   ちなみに、ほぼ同期間の1981年以降(ロナルド・レーガン~)の政党別の騰落率では、共和党が50.2%に対して、民主党が193.15%と圧勝でした。ただ、この期間に2回のみの民主党は2回とも2期連続であったことや、選挙年に共和党に代わる際に大きく上昇したなどの要因もあります。

   いずれにせよ、選挙前年ということもあり、これまで何度も経済対策を行ってきた実績のあるバイデン政権が景気の下支え策を投入し、株価を押し上げる可能性がありそうです。少なくともインフレが落ち着いてきていることもあり、2022年よりも実行し易いでしょう。

日銀の金融政策引き締めは続くのか?

   12月の日銀金融政策決定会合は、大きなサプライズとなりました。イールドカーブコントロール(長短金利操作)のバンド幅をプラスマイナス0.25%からプラスマイナス0.5%へと拡大したのです。

   事実上の金融引き締め策ということもあって、日本株は急落。為替は円高方向へ走りました。

   これがこのまま継続するとなると、日本株には大きな打撃となります。

   最も相場で早い指標のオーバーナイト・インデックス・スワップから見た日銀の金融政策見通しでは、すでに年内4回ほどの利上げを織り込んでおり、12月には0.372%程度の金利水準を予想しています。にわかに信じられない市場参加者の織り込み具合ですが、ほぼあり得ないと思っていたサプライズがあっただけに、可能性は考えておかねばなりません。

   この政策決定には、政府および財務省の意見が大きく反映されていた、という報道があります。思えば、会見時の黒田東彦総裁の表情や話し方を見ても、どこか納得がいかないような雰囲気が否めませんでした。

   しかし驚きだったことは、日銀政策委員のなかで、誰一人として反対していなかったことです。サプライズ政策変更のため、票がバラつくのは当然のはずです。しかし、そうでないのであれば、以前から12月に照準を定めていたのか、政府からの強い要請があった可能性があります。

   その政府も、正常化の岸田政権と、アベノミクスを続けたいであろう安倍派、そして金利上昇を望まない財務省と分かれており、どこに着地するのか見えづらいといえます。

黒田総裁の後任、2人の有力候補者とは?

   そうなると、岸田首相が4月に就任する新総裁を誰に選ぶか、市場は固唾をのんで見守ることとなります。

   現時点の有力候補は、次のふたりです。

・中曽宏
東京大学経済学部卒業後、日本銀行に入行
2013年~2018年まで日銀副総裁
現大和総研理事長

・雨宮正佳
東京大学経済学部卒業後、日本銀行に入行
金融市場局金融市場課長などを経て2010年に日銀理事
2018年に日銀副総裁に就任

   しかし、雨宮副総裁は、総裁への就任を断っているという一部報道もあります。そうなると、最有力候補は中曽氏となります。同氏は、イエレン米財務長官、ブレイナードFRB副議長など、海外当局関係者とも近く、2008年の金融危機対応等で実績を積んだ危機管理専門家です。そのため、大規模な金融緩和の出口の舵取り役としては適任にも見えます。

   ちなみに、可能性は低いものの、リーマン・ショック時には麻生太郎首相の秘書官を務めた浅川雅嗣氏(現・アジア開発銀行総裁)がいます。同氏は、2015年から過去最長となる4年間財務官を務め、円高や米トランプ政権発足などに対応し、日本の通貨外交の最前線に立っていました。

   為替介入時に米国債を売却するなどの難しい交渉を成功させてきた財務省事務方と連携を深めて、金融市場を混乱させることなく、政策を正常化へ向かわせる必要があるポジションでの経歴、経験は十分に見えます。

   いずれにせよ、岸田政権の打ち出す政策では、NISA枠の拡大以外は投資家から支持されていません。そうなると、米国経済か、日銀金融政策が日本株の大きな変動要因となります。

   米国では、インフレが落ち着き、消費活動が拡大するのか。そして、大統領選挙の前年あのアノマリー通りに株高に動くのか――。

   日本側では、次回の日銀会合で今後も引き締め策が行われるような動きとなるのか。また、次期総裁は誰になり、どのような動きを取ってくるのか――。

   このあたりが、2023年の日本株を左右するポイントとなりそうです。(児山将)



【プロフィール】
児山 将(こやま・しょう)


2009年の大学4年時にFXをはじめ、一度は飲食店の店長として働くも相場に関りたく金融メディア大手に就職。記事執筆とサイトのディレクションを行う。FX以外にも、株、指数、オプション、商品、仮想通貨など多岐に渡る商品を取引。現在はフリーランスとしてサイト制作やコンテンツ制作を行いながら個人投資家として活動する。
・Twitter:児山 将 @goahead5055
・初心者でもできる、ビットコイン・イーサリアム投資情報サイト:https://btc-eth.jp/