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定年後も「フルタイム」で働くワケ!? 足りない老後資金...30代、40代も他人事ではない!「会社ライフ」設計図が必要 調査研究員に聞く

   定年を迎える直前の人々が考える定年後の働き方の予定と、実際に定年を迎えた直後の人々の働き方にはどのような違いがあるだろうのか――。

   ニッセイ基礎研究所が57~61歳の公務員(元公務員)と正社員(元正社員)を対象に実施した調査のうち、60歳で定年を迎える・迎えた人(有効回答数2555人)の回答を分析したところ、定年後の人(60歳定年後と61歳)のほうが、定年前の人(57歳、58歳、59歳、60歳定年前)に比べて、「再雇用で同じ企業・団体で、フルタイムで働く」ことを選んだ人が多いことがわかった。

  • 「定年後の働き方―定年前の予定とのギャップ」とは(写真はイメージ)
    「定年後の働き方―定年前の予定とのギャップ」とは(写真はイメージ)
  • 「定年後の働き方―定年前の予定とのギャップ」とは(写真はイメージ)

結果的に「会社から離れなれない」人多い

   まとめたのは、ニッセイ基礎研究所 保険研究部の准主任研究員、岩﨑敬子氏。定年直前の回答者の定年後の働き方の予定と、定年直後の回答者の実際の働き方の違いを確認するために、「定年後の働き方―定年前の予定とのギャップ」を調べた。2022年12月7日の発表。以下、ポイントを見ていこう。

   (1)回答時に60歳で定年前の会社員に、定年後に「再雇用でフルタイム」で働くことを予定する人の割合を聞いたところ、55%の会社員が「再雇用でフルタイム」で働くと答えた。それが実際に、定年後に同じ会社で「再雇用でフルタイム」で勤務する人は、68%だった。

   (2)公務員の場合、回答時60歳で定年前の人に、定年後に「再雇用でフルタイム」で勤める予定の人は55%。それが実際に、定年後「再雇用でフルタイム」で勤めている人は62%となった。

   (3)回答時60歳で定年前の会社員に、定年後に「再雇用でパート勤務」を予定する人は5%。それが定年後、実際に「再雇用でパート勤務」している会社員は1%だった。

   (4)公務員では、回答時60歳で定年前の人に、定年後「再雇用でパート勤務」を予定する人は10%。定年後に「再雇用でパート勤務」する人は11%だった。【図1 年齢別の「定年後の働き方」参照】

図表1:定年後の働き方(ニッセイ基礎研究所が作成)
図表1:定年後の働き方(ニッセイ基礎研究所が作成)

   調査からは、定年後の人(60歳定年後と61歳)のほうが、定年前の人(57歳、58歳、59歳、60歳定年前)に比べて、「再雇用で同じ企業や団体で、フルタイムで働く」人が多いことがわかった。

   一方で、「働いていない、働かない」という人は少ないことが確認できた。

   調査した岩﨑敬子氏は、

「定年後の回答者が、現在の定年前の回答者と同じような定年後の予定であったと仮定した場合、同じ企業や団体でフルタイムで働くつもりがなかった人も、実際に定年を迎えると、フルタイムで働いている可能性が示唆されます」

と指摘する。

働き続ける理由「老後資金の充足だけではない」

   次に、定年後も働き続ける理由を聞いた。

   それによると、会社員でも公務員でも、61歳の人では、その他の年齢の人に比べて、老後資金と働くことへのやりがいなどの老後資金以外の目的の両方を、定年後も働き続ける理由としている人が多い。【図2「定年後働き続ける理由」参照】

   ただ、「老後資金の充足のみ」を目的とした人との合算では、その他の年齢の人と大きく異ならない。

   定年後の回答者が、現在の定年前の回答者と同じような定年後の予定であったと仮定した場合、定年後の回答者のほうが定年前の回答者が予定するよりも、「再雇用で同じ企業や団体で、フルタイムで働く」人が少なくない。

   このことから、定年後には老後資金の目的を持つ人と、働くことのやりがいなどの老後資金以外の目的を持つ人が増えること(特に、その両方をもつ人が増えること)が、「再雇用で同じ企業や団体で、フルタイムで働く」人の増加につながっている可能性を示唆したかっこうだ。

図表2:定年後も働き続ける理由(ニッセイ基礎研究所の作成)
図表2:定年後も働き続ける理由(ニッセイ基礎研究所の作成)

   レポートによると、現在、定年直後の人が数年前に考えていた定年後の働き方の予定は、定年直前の人と同じだったとは限らない。さらに、コロナ禍が働き方に影響を与えた可能性も考えられることから、日本全体の分布とは異なる可能性があると前置きしながら、

「老後資金を充実させる目的の強まりと、働くことへのやりがいなどの老後資金以外の理由の強まりの両方によって、定年前の予定よりも多くの人がフルタイムで勤務を継続している可能性が示唆される」

としている。

   老後に働き続ける理由について、岩﨑氏は

「多くの人が老後資金の理由とその他のやりがいなどの理由の両方を挙げているということからは、フルタイムに限らず、やはり老後資金のためというのは重要な理由なのかもしれません。そこに、実際に定年を迎えると、働くことへのやりがいなどの理由が加わる人も多いというイメージでしょうか」

と話す。

   ただ、その半面、「働き続けることで幸せになっているのかというと、別レポートで示した結果からは、定年後も働き続けることによって幸福度が高まるという示唆は得られませんでした」と言う。

   給料カットや、必ずしも仕事の内容が満足感につながらない現実から、誰もが進んで定年後に働いているわけではないのかもしれない。

30代、40代から「老後の計画を立てることの重要性が高まっている」

図3:年前後のこころの健康(基礎研レポート「定年後の働き方と幸福度の関係」2022年10月27日付から。ニッセイ基礎研究所が作成)
図3:年前後のこころの健康(基礎研レポート「定年後の働き方と幸福度の関係」2022年10月27日付から。ニッセイ基礎研究所が作成)

   このように、定年を迎えた人の多くが、勤めていた会社でそのまま「フルタイム」で働くことを選んでいるものの、それが必ずしも満足度や幸福度につながっていない傾向がわかった。

   それでは、30代、40代の現役世代は、この結果をどう受けとめればよいのだろうか。岩﨑氏は、こうアドバイスしてくれた。

「私たちの調査【下記の参考リンク参照】では、定年を迎えることは、幸福度を高めたり、こころの健康状態を良好にしたりする可能性が示唆されています。ですが、今の現役世代が実際に定年を迎える際には、今よりも多くの会社で定年年齢が伸びていたり、撤廃されていたりすることが予想されます。
調査によると、必ずしも定年が伸びたり、撤廃されたために働き続けたりすることが、現在の環境では幸福度を高めるわけではない可能性が示唆されている。このことを考えると、どのように定年年齢に関わらず何歳まで働きたいのか、ということも意識しつつ、個人個人で老後準備の計画を立てることの重要性が高まっているといえるかもしれません」

◆参考リンク
基礎研レポート「定年後の働き方と幸福度の関係」2022年10月27日付 ニッセイ基礎研究所 保険研究部准主任研究員 岩﨑敬子)

基礎研レポート「定年後の働き方とこころの健康の関係」(2022年11月4日付 ニッセイ基礎研究所 保険研究部准主任研究員 岩﨑 敬子)