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「日銀サプライズなし!」緩和策修正見送りに安堵、株高、円安に浮かれた市場...エコノミストが警告「株価の先行きは暗い」「4月会合に注目せよ」

   日本銀行は、2023年1月17~18日に開いた金融政策決定会合で、大規模な金融緩和策の維持を決めた。市場が注目していた緩和策の修正は見送り、長期金利の変動幅も「プラスマイナス0.5%程度」と、前回12月の会合で修正した内容を維持した。

   これを受けて、日米金利差拡大が意識され、円相場は1ドル=128円台から一時131円台まで一気に3円近く円安にふれた。さらに円安を歓迎、18日の日経平均株価は輸出関連株を中心に前日終値比652円超と大幅に上昇した。

   ただし今回、見送られたが、市場の関心は次にいつ緩和策の修正が行われるかに移っている。日本経済はどうなるのか。エコノミストの分析を読み解くと――。

  • どうなる日本経済?(写真はイメージ)
    どうなる日本経済?(写真はイメージ)
  • どうなる日本経済?(写真はイメージ)

投機筋の「国債売り」仕掛けに、孤軍奮闘の日銀が繰り出した新手?

   今回、緩和策の修正こそなかったが、いずれ緩和修正が行われるとの観測を背景に、国債市場では日本銀行が長期金利の上限に設定した0.5%を上回る取引が連日発生している。日本銀行が大量の国債買い入れを行ない、金利抑制を図っているが、金利を抑え込む「副作用」が解消できていない。

   「副作用」とは、大量の国債買い入れによる日本銀行のバランスシート急拡大や、企業の社債起債に悪影響が出ている国債市場の機能低下といった弊害だ。

   このため金融政策決定会合では、副作用の点検を踏まえ、国債買い入れに伴う対応の見直しも発表した。一定の担保のもとで、銀行などの金融機関に資金を貸し出す「共通担保資金供給オペ」(公開市場操作)の貸付利率を柔軟化すると決めた。日本銀行が一定の金利で長期の資金を貸し出し、国債に投資してもらうことで、国債利回りの低下(債券価格の上昇)を促す狙いがある。

   投機筋の「日本国債売り」の仕掛けに、孤軍奮闘中の日本銀行は、4営業日で約12兆円という過去最大の国債買入れを強いられている。このままでは追加修正に追い込まれるため、他の銀行も巻き込んで対抗しようというわけだが、うまくいくだろうか。

大幅な金融緩和策の継続を決めた日本銀行
大幅な金融緩和策の継続を決めた日本銀行

   また、「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)では物価見通しの変更も発表した。原材料高や円安による輸入物価の上昇に伴う幅広い商品の値上がりを反映した。具体的には、2022年度は昨年10月時点の見通しプラス2.9%から3.0%に、2023年度はプラス1.6%を据え置いた。2024年度はプラス1.6%からプラス1.8%に引き上げた。

   黒田東彦(はるひこ)総裁は同日午後に記者会見し、YCC(イールドカーブコントロール)といわれる、今の金融緩和策の枠組みが持続可能なのかと問われると、

「機動的な市場調整運営を行うことで今後、市場機能は改善していくと考えている。そういった意味でYCCは十分持続可能だ」

と述べ、今後も大幅な金融緩和策を続けることを強調した。

株価急上昇に浮かれるのは危険、先行きは決して楽観視できない

円安に沸き立った東京証券取引所
円安に沸き立った東京証券取引所

   今回の結果をエコノミストはどう見ているのか。

   まず、株高については、ヤフーニュースコメント欄で三菱UFJリサーチ&コンサルティング主席研究員の小林真一郎氏が、

「本日の株高は、日本銀行が金融政策の追加修正を見送ったことで、円安進行を受けた自動車など輸出関連株や、金利上昇が利益のマイナスに効きやすい不動産業などで買戻しが入ったことによるものです。また、金利上昇による景気下振れ懸念がいったん収まったことも買い材料とされました。一方、金利上昇が業績改善につながる銀行など金融株は売られています」

と解説。そのうえで、

「今日の株高は一時的な動きと考えられ、相場の流れが変わった訳でありません。また、今回の金融政策決定会合では政策変更は見送られましたが、現在の国債買い支えによる低金利政策の維持が困難になってきていることは明らかであり、今後も金融政策決定会合の都度、政策変更の有無が焦点となり、金融市場をかく乱することが予想されます。株価の大きな流れを決めるのは、やはり内外景気や企業業績です。その点からも不安材料が多く、株価の先行きは決して楽観視できる状況にはありません」

と、楽観論を戒めた。

4月の政策会合が最大の焦点、実際のマイナス解除は2024年半ば以降か

日銀の動向を注視していた米ウォール街
日銀の動向を注視していた米ウォール街

   日本銀行の次回の金融政策決定会合は3月だが、そこで再び政策修正が焦点になるのか。「いや、4月の金融政策決定会合に注目すべきだ」とみるのは、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。

   木内氏はリポート「4月の金融政策決定会合が最大の焦点に」(1月18日付)のなかで、その理由をこう挙げる。

   (1)3月は年度末であり、追加修正による国債利回り上昇は民間銀行の決算に悪影響を与えるため、日本銀行としては避けたいところ。

   (2)黒田東彦総裁は自身の任期中(4月上旬まで)は金融緩和の枠組みは残したいと強く考えている。

   (3)YCC(イールドカーブコントロール、長短金利差操作)の修正は、少なくとも4月からの新総裁体制下がメインシナリオとなる。

円高から一気に円安に振れたドル円相場(写真はイメージ)
円高から一気に円安に振れたドル円相場(写真はイメージ)

   ただ、実際のマイナス金利解除など正常化までは多くの段階があり、2024年後半になるという見通しを示した。

「金融市場の安定に十分配慮する日本銀行の伝統的な姿勢に照らせば、2%の物価目標の実現が見えてきたと主張して、4月に一気呵成にマイナス金利解除にまで日本銀行が動く可能性は低いだろう。
正常化に向けた政策姿勢の転換は明示する一方、具体的な政策手段の修正であるマイナス金利解除などを実施する前には、それなりに時間をかけて、金融市場にその可能性を織り込ませていくだろう」
ただしそのように市場との対話に時間をかけているうちに、内外経済は厳しさを増し、為替市場では円高傾向が強まり、そしてFRB(米連邦準備制度理事会)の緩和観測が強まっていくとみておきたい。その場合、急速な円高など金融市場の混乱につながりかねないマイナス金利解除などの政策修正、正常化策の実施は後ずれし、2024年半ば以降になると予想される」

   米国景気の減速といった世界経済悪化のうねりのなかで、日本銀行もまたFRB同様に難しい舵取りを迫られるわけだ。(福田和郎)