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メンタルが不調な時、すべてのタスクに100%フルパワー込めるのやめよう【尾藤克之のオススメ】

   うつ病9年目、再発5回。本書は、著者・デラさんが「村人A」として生き直したら、少しずつ元気になったストーリーをしたためた内容です。リアリティがあり、この本から、こころの病になったときの注意点や対処法を読み解くことができます。

「うつ病で20代全部詰んでたボクが回復するまでにやったこと」(デラさん著)サンクチュアリ出版

仕事で大切なことは何かを考える

   精神科医や、メンタル系の発信者がよく提唱するのが、朝散歩のススメです。「太陽を浴びてセロトニンの分泌を増やすと、心が安定し、うつ病から回復できる」という話は、聞いたことがあると思います。仕事や勉強なども、朝の方がはるかにはかどる、とはよく言われることです。調査研究も多く、それなりにエビデンスに基づいているとも言えます。

   たしかに朝日を浴びるのは気持ちがいいですが、うつ病の人は朝が苦手なようです。著者は次のように言います。

「うつ病の人が1日に得られる活動エネルギーが100だとすると、消費エネルギーは1万にもなるイメージです。朝散歩をして活動エネルギーを仮に2倍に増やしたところで、焼け石に水。精神科医の言うとおり、セロトニンは大事なんだと思います。でも、うつ病のボクらは、まず消費エネルギーを減らすほうに力を注ぐべきなのです」(デラさん)
「とりくむべきミッションは、『休みの日に回復する量を多くする』ということですね。可能であれば、働く日数を減らして、休む日数を増やすのがオススメです。回復にあてられる時間が多くなればなるほど、回復の勝率は上がっていくからです。そしてもうひとつ、仕事へのとりくみ方を変えていく必要があります」(同)

   「仕事で成果を出す」ことは考えるべきではありません。むしろ大切なことは「優先順位」です。たとえば、「ゴミを捨てる」というタスクがあれば、120%の力を出すのではなく、30%の力でやることを遂行すればいいのです。「ゴミを捨てる」というのは、誰がやっても大差がなく、緊急でもなく、お金を生まない仕事だからです。

   このような仕事にフルパワーをぶち込んでも、もったいないとデラさんは言います。

「うつ病になってしまう多くの人は、こうした場面でも気を張ってがんばってしまいがちです。どうでもいい局面でも100%、120%の力を出してしまうから、疲れが蓄積されていくのです。これでは、週末の休息だけでは回復が追いつきません」(デラさん)

うつ病と向き合うには?

   いまでこそ、うつ病は多くの人に知られるようになりました。ところで、私はかつての職場で、こんな出来事に遭遇しました。もちろん、昔の話です。「2年以内に組織を組成して会社を設立する」という目標を掲げて、事業に邁進した時期がありました。会社から与えられた期間は2年です。2年で会社が納得する成果を上げられなければ、ジエンドです。経験豊富な5名がアサインされました。

   1年目決算は最終利益ゼロのトントンの成果を上げることができました。単体では十分な経常利益を上げていました。会社内の按分負担で、法外なコーポレート費や管理費を負担しての最終利益ゼロですから、この調子でいけば、勝算はあると考えていました。しかし、活動はハードで、夜23時ころからミーティング、睡眠時間2時間など当たり前でした。

   勝負の2年目、すぐに1人がうつ病で脱落、春過ぎにも1名がうつ病で脱落しました。朝方がつらいようで、出社ができませんから、毎日「直行」扱いしました。会社の上層部にバレたらプロジェクトがつぶされると思いましたし、メンバーのこれまでの取り組みを思って、かん口令をひきましたが(もちろん今ならこの対応も変わりますが、繰り返しますが昔の話です)、秋頃には隠すことができなくなりました。メンバー全員でプロジェクト管掌の上長に説明しました。すると...。

「うつ病? いま流行りのヤツか。でもさ、明日会社来なかったら、死ぬってことだったら来るだろう?」「じゃーそれって、クセみたいなものだよなぁー」

   このように、まったく理解は得られませんでした。プロジェクトは2年を待たずに解散となりました。今の時代、社内からのリークがあったら、ニュースになると思います。

   時代は変わり、当時から比べれば、こころの病に対する理解度も高まりました。それでも、うつ病に苦しむ人は減りません。本書が興味深いのは、著者が、うつの「底」から抜けるためにやったすべてのことを紹介している点です。うつ病は難しい病気ですが、自分を受け入れ、それでもうまいことやるにはどうすべきか。

   また、社会復帰するのはとても険しい道のりになります。その最大の要因は「回復が追い付かないこと」だと思います。本書は、うつに悩む人のほか、予備軍の人、周りの人にも役立つ内容です。(尾藤克之)