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大手企業が取引したくなる「中小企業がやっていること」教えます!/岡俊明・元サッポロビール飲料社長インタビュー(下)

「ブランド力を高めるためにやるべきことに、大手企業も中小企業もありません」

   こう話すのは、元サッポロビール飲料(現ポッカサッポロフード&ビバレッジ)社長で、群馬大学などで教鞭を執る岡俊明氏。「ウィズコロナ」「アフターコロナ」の時代は生き残りをかけたサバイバル。中小企業にとって、販路拡大や売り上げアップだけを考えていては行く道を誤ることになる。

   では、大手企業が取引したくなる中小企業はどのようなことに取り組んでいるのだろうか――。岡氏に聞いた。

  • 岡俊明氏は「ブランドは、少しずつ変化させながら育てていく」と話す
    岡俊明氏は「ブランドは、少しずつ変化させながら育てていく」と話す
  • 岡俊明氏は「ブランドは、少しずつ変化させながら育てていく」と話す

マーケットに対応したブランド力をつけるためにすべきこと!

   <大手企業が一目置く中小企業の共通点を明かそう! 岡俊明・元サッポロビール飲料社長インタビュー(上)>の続きです。

――ブランド力を高めていくうえで、刻々と変化するマーケットへの対応が欠かせません。中小企業は、どのような取り組みが必要なのでしょう。

岡俊明氏「ブランド力は一朝一夕にはつきません。しかし、時間がかかるからといって、なんの手も打たないようでは、力がつくどころか劣化して、陳腐化してしまいます。そうならないよう、少しずつでいいので変えていく必要があります。
たとえば、テレビのコマーシャル。イメージキャラクターに起用しているタレントさんを変えたり、タイミングを見ながら、トレンドに合わせて訴求する内容を変えたりしていますよね。
もちろん、同じタレントさんを使い続けるケースもありますが、同じものを流しっぱなしにすることはありません。少しずつ『変化』をつけて、お客様を刺激しながら企業価値をしっかり語り続けていくのです。すると、お客様にもいい変化が生じます。そして、商品が売れるという好循環が生まれます。つまり、お客様が『これを買ってよかった』と思える満足度をどう高めていくかが、ブランド力につながるということだと思います」

――具体的に、ご経験を教えてください。

岡氏「私が(サッポロビールの)ビール営業本部で商品企画部長だったとき、『エビスビール』のラベルを毎年、少しずつ変えていました。色とかロゴの大きさとか。パッと見ただけではわからないかもしれないくらいの変化です。それでも、変えました。そういった『変化をつかむ』力がマーケティングです。マーケットの状況を知り、分析して、お客様が求めていることを理解したうえで変えていきます。
じつは、ビールのおいしさも変化しています。お客様の好みが変化するので、少しずつ時代に合った味わいにしているのです。なので、30年前のエビスビールと現在とでは、おいしさも違うんですよ。手にしたお客様が『おっ、ちょっと変わったね』、ひと口飲んで『おっ、おいしくなったな』と感じてもらえれば、それでいい。作り手としてはお客様に、いつも『もっとおいしいビールを提供したい』と、そう思って商品開発を重ねているのですから。
こうした経験から、商品には、その企業の経営姿勢、方針、社員一人ひとりの熱意と思いが現れていて、それがブランド力をつくっていく、という考えを深めたのです」

「変えていかなければならないこと」と「変えてはいけないこと」

――価格競争が激しさを増しています。それに打ち勝つためのブランド戦略はありますか。

岡氏「これからの時代はモノが売れなくなって、企業の経営はかなり厳しくなることが考えられます。人口の減少で購買力が落ちてきていることに加えて、多くの、さまざまなモノが充足してしまったため、その商品に価値がないと判断されると見向きもされなくなるからです。そうならないためにも、絶えずブラッシュアップしていくことが必要です。
もう一つは、やはり顧客ニーズです。お客様が本当にそれを求めているのかを考え続けることが重要ですね。
たとえば高いブランド力がある主力商品は売れ筋ですから、企業は売れれば売れるほど『もっと売りたい』と思うようになります。そうなると、どうしても生産性を高め、収益を重視して利益ばかりを追うようになってしまいます。
それ(利益の追求)は企業が成長するために大事なことですが、ただ、追求の仕方を間違うことがあります。たとえば、安売りです。高度経済成長の時代は、とにかくモノが売れたので利益がついてきましたが、時代はすでに『量より質』に転じています。ところが、つい目先の利益を上げることに躍起になってしまう。安売りは商品の信頼性を下げ、価値を下げます。価値が下がる商品を、お客様が買い続けてくれますか? ブランドのためにも、いいわけありませんよね。
だからこそ大事なのは、それがお客様のためになるのかどうかです。つまり、『強みは変えてはいけない』のです。変えなければならないこと、変えてはいけないこと。その見極めが重要です」
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岡俊明氏は「目先の利益のために『強み』を変えてはいけない」と言い切る

――中小企業が大手企業との取引を獲得するには、なにをすべきなのでしょうか。

岡氏「中小企業には『下請け』のイメージがありますが、それがもう時代遅れです。自社がもつ技術を生かして、新たな商品を開発、販売している中小企業は増えています。その中には若い人もいます。欧米ほどではありませんが、自身の斬新な発想やアイデア、着眼点で起業しようという優秀な若者が現れて、ヒット商品を生み出していく時代になってきました。
企業活動のグローバル化や競争の激化、技術力が日進月歩の向上していく中で、大手企業といえども、自社の技術力だけで生き残ることは難しくなってきています。大手だからといって、安穏としてはいられません。今後は大手企業のほうが、中小企業との取引を求めてくるようになるのです。
競争の時代は、共に創造する時代でもあります。パートナーシップ、業務提携などでお互いに技術開発しながら成長していく。新しいビジネスモデルを、共に創り上げていかないと、新しい革新的な商品は生まれません。つまり、一緒に伸びていかないと自分が危うくなるんですよ。だから、これからは共創こそが最も重要な時代になってきます。
それでは、選ばれる中小企業になるためには、なにをすればよいのか。
やるべきことは、企業として当たり前のことを続けていくだけです。それは独自性、『ここだけは負けたくない』という強みを磨くことです。大手企業を含む、取引先やお客様の満足度を高めるために、商品やサービスの品質の向上を図り、絶えずメンテナンスしてフォローアップに努める、常に新しい技術を身につけていく、変化していく。
そして、お客様、社員、株主、地域......と、すべてのステークホルダーの満足度を高めて、人や地球環境にやさしい経営、社会に貢献する経営を進めていくことができる中小企業が選ばれ、勝ち残るのだと思います」

――ありがとうございました。



【プロフィール】
岡 俊明(おか・としあき)


1967年サッポロビールに入社。ビール営業本部商品企画部長、京都支社長などを歴任して2000年に取締役。常務取締役、専務取締役ビール事業本部長を経て、03年にサッポロビール飲料(現:ポッカサッポロフード&ビバレッジ)代表取締役社長に就任。その後、09年に群馬大学客員教授、10年長岡大学経済学部教授、11年大妻学院理事。12年にハルナビバレッジ社外取締役。現在は、株式会社エスイー取締役、群馬大学講師、大妻学院・大妻マネジメントアカデミー講師、一般社団法人日本営業科学協会代表理事などに従事。商品開発やブランドマーケティングに強み。
2023年2月24日に、「元大手企業経営者から見た『大手企業攻略法』~大手企業に販路を拡大するために~」(主催:東京都中小企業振興公社)をテーマに、無料オンラインセミナーに登壇する。