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育休中のリスキリングを支援って、どういうこと? 育児自体が貴重な「学び直し」の機会なのに【vol.22】(川上敬太郎)

   世の中では、DXだAIだと新しい技術習得にシャカリキになっています。政府はリスキリングに5年で1兆円の予算を投じるのだとか。たしかに、時代の変化についていくために、学び直しは必要なことだと思います。

   国会では、育休取得者にリスキリングの支援をしてはどうか、というやりとりが話題になりました。しかし、そのやりとりに対して向けられたのは、「育児で手一杯なのに、学び直しなんてしてるヒマはない!」という怒りの声。そう、育児は大変なのです。

  • 赤ちゃんや子どもから教わることは多いものです(写真はイメージ)
    赤ちゃんや子どもから教わることは多いものです(写真はイメージ)
  • 赤ちゃんや子どもから教わることは多いものです(写真はイメージ)

赤ちゃんの世話で磨かれる「段取り力」「瞬発力」「実行力」「責任感」、そして「感動体験」。

   いまや育休は、男性も取得するよう、促される時代となりました。なかには、すでに男性の育休取得率が100%に到達している会社もあるのだとか。しかし、育休を取得した男性の約7割は2週間未満なのに対し、女性は10か月以上が約7割。まだまだ育児のメインは女性なのが実情です。

   さらには、育休と言いながら育児もせず、ゲームなどをしながらゴロゴロしている夫もいるとか。そんな、名ばかり育休の最中であればリスキリングすることも可能なのでしょう。しかし、一所懸命育児に取り組んでいる人たちはそれどころではありません。

   ただ、国会答弁のやりとりをよく聞くと、決して育休の間はヒマだからリスキリングに時間を当ててもらおうという意図ではなかったようです。やり玉に挙がった岸田首相もその後、「希望した人がリスキリングに取り組める環境整備の強化が重要という主旨」だったと説明しています。

   しかしながら、そんなことより、もっと根本的な疑問があります。

「そもそも育児自体が、学び直しの機会なんじゃないですか?」

   育児って、本当に大変です。泣くことしかできない赤ちゃんと一日中向き合いながら、いろんなことに対処しなければなりません。オムツを替えたりミルクをあげたり。ときに、何をしても泣き止まない困ったな、と途方に暮れてしまうこともあります。そして、額に手を当ててみると「すごい熱だ...」と病気だったことに気づいた時などは冷や汗ものです。

   いい加減な対処をしてしまうと、命に関わる。それが育児です。

   そんな緊張感あふれる日々の中で、時折赤ちゃんがご機嫌に笑っている姿を見たり、スヤスヤと気持ちよさそうに眠っている様子を見たりすると、何とも言えない気持ちになって癒されます。

   しかし油断していると、次の瞬間突然目を覚まし、狂ったように泣き始めてオロオロしてしまう、なんてこともあります。そうなると、赤ちゃんにかかりきりにならざるを得ず、食事の用意や洗濯物の取り込みなど、それまで考えていた予定を急遽組み替えなければなりません。そんなふうに振り回される日々を過ごしているうちに、「段取り力」がガンガン鍛えられていきます。

   ようやく泣き止み眠りについた赤ちゃんをそ~ぉっと寝かせた後、他の用事を一気に済ませる時に磨かれるのは、「瞬発力」や「実行力」、「責任感」などです。そして、ヘトヘトになりながら様子を見に戻ってみると、先ほどの狂ったような鳴き声から一転して、ご機嫌な笑顔。それまでの大変さがウソのように吹き飛んでしまったりします。

   そんな感動体験も、職場では得られない学びです。

育児や家事を理解していないと、マネジメントがしづらくなります。

   さらに、離乳食を作るようになったり、成長に伴って服を買いに行くようになったり、習い事を始めるようになったり、兄弟姉妹が出来たりすると、また新たな学びの機会がどんどん得られます。真剣に取り組めば取り組むほど、育児はいろんなことを教えてくれるのです。

   一方、これからの職場は育児や家事を理解していないと、マネジメントがしづらくなります。

   冒頭で触れたように、育休を取得するのは女性だけとは限らなくなりました。また、育児も家事も夫婦が一緒に取り組むことがもっと当たり前になり、性別に関係なく誰もが家庭とのバランスをとって働く時代になっていきます。そうなると、職場の事情だけでなく、家庭内の事情も理解していないと適切なマネジメントがしづらくなります。

   そんな時代を迎えつつある中、育児自体が大切な学び直しの機会だと思うんですけど。

   それでも、「育児したけど、仕事に比べれば、たいしたことはない」という人もいるかもしれません。感じ方は人それぞれなので、それもまた実感なのでしょう。ただ、育児と仕事のどちらが大変かは横に置いたとして、もし育児から何も学びが得られなかった、というのであれば疑問があります。

   それってつまり、学びが得られるほど真剣に育児しなかったって、ことなんじゃないですか?(川上敬太郎)