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「ホントに期待していい?」賃上げ企業、過去最高! 1万7000社調査で判明...「社員の生活支えたい」「人材、去られると困る」 でも、中小の厳しさ浮き彫り

   歴史的な物価高を受けて、連合が5%の賃上げを求めるなど、今年の賃上げ動向が注目されている。

   そんななか、現時点で賃上げを見込む企業が約57%にのぼることが、帝国データバンクが2023年2月15日に発表した「特別企画:2023年度の賃金動向に関する企業の意識調査」でわかった。

   同社の18回にわたる調査では、過去最高水準だった。実際に賃上げする企業はさらに1~2割以上増えそうだという。今年の賃上げ、期待していいのか?

  • 今年の春闘は盛り上がるか?(写真はイメージ)
    今年の春闘は盛り上がるか?(写真はイメージ)
  • 今年の春闘は盛り上がるか?(写真はイメージ)

実際に賃上げする企業は6割~7割以上になりそう

   帝国データバンクの調査は全国約1万7000社が対象だ。企業に今年の賃金動向を聞くと、正社員の賃上げ(ベースアップや賞与、一時金の引上げ)が「ある」と見込む企業は56.5%と2年連続で増加だった。2018年度見込み(2018年1月調査)と並び、2006年の調査開始以降で最高水準となった。一方、「ない」と答えた企業は17.3%と、こちらも調査開始以降で最も低い水準だった【図表1】。

(図表1)2023年度に賃上げの見込み(帝国データバンクの作成)
(図表1)2023年度に賃上げの見込み(帝国データバンクの作成)

   ただし、実際に賃上げが行われたかどうかを1年後に調べる「実績調査」の結果を見ると、過去のケースでは「見込み調査」より約10~20%ほど賃上げ率が向上する。2022年度では、「賃上げする見込み」とした企業は54.6%だったが、実績調査では約1割増えて、64.1%が賃上げを実施していた。今回も6~7割以上の企業が賃上げするとみられる。

   企業規模別にみると、「大企業」「中小企業」「小規模企業」の3規模すべてで、前回調査(2022年度見込み)から「賃上げする」と答えた企業の割合が上昇した。しかし、賃上げしない割合は「5人以下の企業」(33.1%)が突出して高く、従業員が少ない企業ほど賃上げ環境が厳しい様子がうかがえる。

   「賃上げする」と答えた企業にその理由を聞くと(複数回答可)、「人手不足などによる労働力の定着・確保」(71.9%)が最も多く、「従業員の生活を支えるため」(70.1%)がトップに迫る水準となった。さらに、「電気・ガス代や生活用品などの値上げが続く物価動向」(57.5%)が、前回・前々回より大きく増加したことが目立つ【図表2】。

(図表2)賃上げする理由(帝国データバンクの作成)
(図表2)賃上げする理由(帝国データバンクの作成)

「わずかでも社員の生活補填をしたい」「賃金に回す余裕がない」

大幅な賃上げを期待したいが...?(写真はイメージ)
大幅な賃上げを期待したいが...?(写真はイメージ)

   賃上げする企業からはこんな意見が聞かれた。

「社員のモチベ-ションアップのため」(金属製品製造・熊本県)
「このご時世に賃上げしないと人財が流出してしまう。赤字になっても賃上げするしかない」(ソフト受託開発・東京都)
「自己研鑽費用に充ててもらいたい」(貸事務所・神奈川県)
「大幅な賃上げは難しく、わずかではあるが、従業員の生活補填をしたい」(料理品小売・長野県)
「臨時手当も考えたが、人員確保には目に見えるベースアップが重要」(コンクリート工事)

   一方、「賃上げしない」と答えた企業にその理由を聞くと(複数回答可)、「自社の業績低迷」(62.2%)が圧倒的に多く、2位に「物価動向」(20.2%)が入った。物価の値上げは「賃上げする」「賃上げしない」双方の理由の上位にあげられた【図表3】。物価上昇が逆に賃金改善を行えない状況をもたらしている現実もうかがえる。

(図表3)賃上げしない理由(帝国データバンクの作成)
(図表3)賃上げしない理由(帝国データバンクの作成)

   賃上げしない企業からはこんな意見が聞かれた。

「昨年、賃上げを行った」(野菜作農・福島県)
「賃金に回す余裕がない」(電気配線工事・宮城県)
「自社も業界全体も採算性が低いため、賃金を上げにくい」(花・植木小売・茨城県)
「すでに能率改善などはやり尽くしており、生産量が飛躍的に増えるか、受注単価が飛躍的に高くならない限り、賃上げは無理な資金繰り」(電子計算機等製造・長野県)

非正社員でも、企業の4社に1社が賃上げを見込む

働きに見合ったお金がほしい(写真はイメージ)
働きに見合ったお金がほしい(写真はイメージ)

   帝国データバンクではこうコメントしている。

「原材料価格の高止まりや電気料金などエネルギー価格の増加などによる影響が多くの企業で続いているほか、価格転嫁率が39.9%にとどまるなど、コスト負担の多くを企業が負担する状況となっている。政府は価格交渉促進を図るなど、政労使をあげて賃上げに向けた環境を整え、企業をバックアップする姿勢を打ち出している」
「2023年度は賃金改善に上向きの傾向がみられるが、賃金改善が『ある』と見込む理由では、依然として『労働力の定着・確保』が最も多く、『従業員の生活を支えるため』に行うという企業も7割にのぼる。さらに、非正社員でも企業の25.9%で賃金改善が『ある』と見込んでいた」
「企業の人手不足感が新型コロナ禍以前の水準まで高まり、物価高が進行するなか、賃金改善の動向は今後の経済を見通すうえでより重要な要素となってきている。生活者の実質購買力を高めるため、企業が生産性向上を図るとともに、政府には適正な価格転嫁を行える環境を整える 政策を実行していくことが必要となろう」

   なお、調査2023年1月18日~1月31日、全国2万7362社にアンケートを送り、1万1719社から有効回答を得た(回答率42.8%)。そのうち大企業は1791社(15.3%)、中小企業は9928社(84.7%)だった。(福田和郎)