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日銀10年の金融緩和、評価のほどは?...平均65.8点!「良かったのは始めだけ」 企業が「植田日銀」に期待する1位は「金融緩和の縮小」

   日本銀行の黒田東彦総裁の後任に、元日本銀行審議委員で経済学者の植田和男氏が就任する見通しだ。植田氏は2023年2月24日と27日に、それぞれ衆参両院で所信を表明、同意を得らえれば内閣が任命する。

   そんななか、企業は10年におよぶ日本銀行の大規模な金融緩和をどう評価しているのか、帝国データバンクが2月16日、「特別企画:金融政策 10 年の評価と今後に関する企業アンケート」を発表した。

   それによると、黒田日銀への評価は「平均65.8点」だった。「最初は良かったが後半は...」と、数字以上に厳しい評価の意見が多かった。そして、企業が「植田日銀」に期待するものは何か。

  • 日本銀行本店(写真はイメージ)
    日本銀行本店(写真はイメージ)
  • 日本銀行本店(写真はイメージ)

小規模業者「借り換えタイミングで、黒田バズーカに助けられた」

   帝国データバンクの調査ではまず、黒田総裁のもとで約10年間行われた日本銀行の金融政策(大規模金融緩和や2%の物価目標など)について、100点満点で評価すれば何点になるかと聞くと、平均は65.8点となった。

   点数の分布を見ると、「80~89点」(22.2%)が最も高く、次いで「70~79点」(18.1%)、「90点以上」(14.5%)、「60~69点」(13.4%)、「50~59点」(13.3%)と続いた。「49点以下」の低評価も15.8%いる。【図表1】。

(図表1)10年にわたり金融政策への評価(帝国データバンクの作成)
(図表1)10年にわたり金融政策への評価(帝国データバンクの作成)

   高い評価を与えた企業からはこんな意見が聞かれた(カッコ内は評価点)。

「黒田総裁の金融緩和策がすべて良いとは思わないが、我々中小企業の事業が思ったよりも順調に推移した点はよかった」(ゴムベルト製造、90点)
「借り換えのタイミングで、黒田バズーカに助けられた。低金利により、苦しい状況をなんとかやりくりできているが、金利が上昇してくると経営が困難になる」(無床診療所、80点)
「当時の円高解消や株価の底上げに効果をあげたことは評価できるが、後半は過度の市場介入が市場や日銀財政をゆがめ、その割に効果が少なかった」(工業用ゴム製品製造、80点)
「金融政策に関して出だしはよかったが、その後は金融緩和政策に固守しすぎている」(工業用プラスチック製品製造、70点)

   このように、大規模な金融緩和が事業環境や為替・株価などに相応の効果をもたらしたと、政策スタート時はよかった。だが、その後も方向転換することなく、10年という長きにわたり一貫して緩和政策を続けたことへは厳しい意見が多く出た。

「2年で物価目標2%を達成できなかった時点で、政策変更すべきだった」

大量の紙幣を市場にあふれさせる異次元金融緩和(写真はイメージ)
大量の紙幣を市場にあふれさせる異次元金融緩和(写真はイメージ)

   低い評価を与えた企業では、こんな意見が代表的だ。

「金融緩和策は、当初はそれなりの効果があったと思うが、世界中が金融引き締めに向かう流れの中で、日本だけが取り残されている現状に危うさを感じる(造園工事、60点)
「どこかの時点で金融緩和の見直し方針を打ち出さなかったことで、円安が定着した。後半は失策と言わざるを得ない」(金属線製品製造、40点)
「金融緩和を長い間続けたことで国債が増えすぎ、身動きが取れない状況。一時的なカンフル剤としての金融緩和とするべきであった」(機械器具設置工事、35点)
「どんなバズーカ砲を打ったとしても、最初に言っていた通り、2年で物価目標2%を達成できていたら、批判は出なかった」(金属プレス製品製造、35点)
「当初の目標として、インフレ率2%の達成を2年で行うとしたが、結局10年たっても達成できなかった。途中で政策の変更はできたはず」(コネクター・スイッチ・リレー製造、20点)
「その場しのぎでなく、長期的展望を見据えた政策に努めてほしい」(電気機器卸売、10点)

   大規模金融緩和の副作用を指摘する声が多数あがっている。

「植田日銀」への期待、「金融緩和の縮小」がトップ

   では、日本銀行はどんな金融政策を打ち出せばよいのだろうか。

   今後(1年程度の間)の望ましい金融政策の方向性を聞くと、「金融緩和の縮小」(39.6%)で最も多くなり、「現状維持」(36.4%)を上回った。次いで、「金融緩和のさらなる拡大」(17.6%)、「金融引き締め」(6.4%)と続いた【図表2】。

(図表2)望ましい金融政策の方向性(帝国データバンクの作成)
(図表2)望ましい金融政策の方向性(帝国データバンクの作成)

   規模別に見ると、「金融緩和のさらなる拡大」は、低金利の恩恵を受ける傾向が強い「中小企業」(18.4%)と「小規模企業」(19.1%)が「大企業」(12.4%)を上回った。

   逆に、「金融緩和の縮小」では、経営力が大きく、グローバル市場で取引する企業が多い大企業(49.6%)が、「中小企業」(38.0%)や「小規模企業」(36.1%)よりも高くなっている【再び図表2】。

10年間で日経平均株価はほぼ2倍に上昇した東京証券取引所(写真はイメージ)
10年間で日経平均株価はほぼ2倍に上昇した東京証券取引所(写真はイメージ)

   企業の多くからは、大規模な金融緩和による副作用へ対処するために方向転換が必要だという意見が多く聞かれた。

「マイナス金利は経済成長にひずみが出るので、徐々に脱却を図ることを望む」(一般貨物自動車運送)
「日銀の役割は、経済の体調を整える医師(薬剤師)である。投薬を長く続けると弊害も出るので、正常化までのプロセスを策定し実行してほしい」(工業用プラスチック製品製造)
「国債や保有株式についての出口戦略を具体的に説明すべき」(貸事務所)
「ゼロゼロ融資の期限を迎え、業績回復が芳しくない中小・零細企業は、資金繰りに窮する場面が予想されるため、バランスを考慮した政策が望まれる」(ガラス工事)
「行き過ぎた量的緩和の弊害を取り除いてほしいが、借入金の比重が大きい中小企業にとって借入金利息の引き上げは避けたい」(自動車部分品・付属品卸売)

   ただし、政策修正の際には、「急激な変化が好ましくないことは明らか。新総裁はソフトランディングできるよう気を配ってもらいたい」(プラスチック部品卸売)、「アメリカのような急激な対策は取らず、金利を上げるなら、少し上げて様子をうかがうような慎重な対応を望む」(鉄筋工事)と、慎重に対応していくよう求める声が非常に多かった。

金融緩和10年の功罪...株価上昇、円安進行、景気低迷、実質賃金低下

   帝国データバンクでは、金融緩和策10年のもとでの主な経済指標の変化を紹介している【図表3】。これをみると、異次元金融緩和の功罪が一目瞭然だ。

(図表3)金融緩和政策10年の主な経済指標の変化(帝国データバンクの作成)
(図表3)金融緩和政策10年の主な経済指標の変化(帝国データバンクの作成)

   まず、帝国データバンクが定期的に行なっている企業の景気動向調査(TDB景気DI)では、金融緩和政策導入時(2013年4月)は42.4だったが、導入5年後(2018年4月)には49.8に向上。しかし、新型コロナ前(2019年4月)には46.8に失速。現在(2023年1月)は42.1と、導入以前より低迷している。

   倒産件数は、導入時は年間1万332件だったが、徐々に減少し、2022年には約6割の6376件にまで減った。日経平均株価(月平均終値)は、導入時が1万3224円だったが、現在(2023年1月)は2万6606円と、倍増している。

   一方、ドル円相場(月中平均)をみると、導入時は1ドル=97円71銭の円高だったが、徐々に円安に下振れ、現在(2023年1月)は1ドル=130円37銭の円安だ。

   そして、実質賃金指数(2020年を100)をみると、導入時は106.2だったが、どんどん下がり続け、現在(2022年11月)は98.1になった。ということは、この10年間で財布の中身が8.1ポイント、約8%軽くなったわけだ。

10年間の大幅金融緩和で経済はよくなったか?(写真はイメージ)
10年間の大幅金融緩和で経済はよくなったか?(写真はイメージ)

   これらのことをどう評価すればよいのか。帝国データバンクではこうコメントしている。

「黒田東彦総裁のもとで約10年にわたり行われた金融政策への評価は、平均65.8点となった。日銀による大規模な金融緩和が日本経済に一定の効果をもたらしたと政策スタート時の効果を相応に評価する一方で、その後は柔軟に方向性を転換せず、大規模緩和が長期化したことによる副作用を指摘する声も多数あがった。
今後1年程度の間の望ましい金融政策の方向性については、『金融緩和の縮小』が39.6%で最も高く、『現状維持』の36.4%が続いた。これまで堅持してきた異次元緩和の路線を修正し、金 融政策運営を正常化させることが望ましいが、一方で急激な軌道修正が引き起こすリスクを不安視し、様子を見ながらゆるやかに修正していくよう求める声が多かった。
4月に就任する予定の次期総裁は、金融政策の正常化に向けてソフトランディングできるよう徐々に緩和縮小や引き締めに方向を転換するのか、現状を維持していくのかなど、刻々と変化する世界および国内情勢を注視しながら柔軟な舵取りが求められる」

   調査は、2023年2月10日~14日にインターネットでアンケートを行ない、全国の1008社から有効回答を得た。そのうち大企業は143社(14.2%)、中小企業は865社(85.8%)だった。(福田和郎)