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「働きがいを感じられない!」と、相次ぐ若手社員の離職...どう防ぐ?【上司力を鍛えるケーススタディ CASE23(後編)】(前川孝雄)

   「前川孝雄の『上司力(R)』トレーニング~ケーススタディで考える現場マネジメントのコツ」では、現場で起こるさまざまなケースを取り上げながら、「上司力を鍛える」テクニック、スキルについて解説していきます。

   今回の「CASE23」では、「働きがいを感じられない!」と、相次いで若手社員が離職する職場のケースを取り上げます。

仕事への「思い」を大切にする

   <「働きがいを感じられない!」と、相次ぐ若手社員の離職...どう防ぐ?【上司力を鍛えるケーススタディ CASE23(前編)】(前川孝雄)>の続きです。

   上司が若手社員に働きがいについて説き、共有していく際には、仕事を進めるうえでの「思い」と「思いやり」に留意し、大切にしようと呼びかけることをお奨めします。どういうことか、順に説明しましょう。

   ここで言う「思い」とは、その仕事を通して顧客や社会に対しどのような価値や満足を提供していきたいかという、仕事への「思い」です。

   働くことを考える際には、どれだけ収入が得られるか、福利厚生や労働条件はどうかなど、経済的要素への関心が前に出ます。それ自体は大事なことです。

   けれども「働く喜び」の面から仕事をとらえると、自分の仕事がいかに人や社会のために役立ち、他者に喜びや満足を提供できているかがとても重要です。これは、前編で示した「動機づけ・衛生理論」でもみた通りです。

   働いて得られる報酬・対価とは、平易に言えば相手(お客様)からの「ありがとう」(感謝)です。給料とは、本来、仕事が人の喜びや助けになっているからこそ、その結果として得られるものです。

   ビジネスは対面サービスだけではありませんから、必ずしも感謝と同時に報酬を受け取る場面ばかりではありません。けれども、あるべき仕事を考えるうえでも、顔の見える関係での「ありがとう」が働く喜びの源泉であるとのとらえ方が大切です。

   たとえお客さまの顔が直接見えない仕事であっても、また総務や経理などの管理部門の業務であっても、よい仕事を行うことで、その何工程か先でのお客様や社会への貢献=「ありがとう」をしっかり支え、増やしていくことができるのです。

   そこで、若手社員には、会社の目的も、お客様から頂ける「ありがとう」であり、社員一人ひとりの働きがいもそこから生まれること。それを創ろうとする、各自の「思い」が大切であることを伝えましょう。

互いに「思いやり」を持って働くこと

   ここで言う「思いやり」とは、同じ仕事の目的(思い)を協力して達成するチームや組織・会社の仲間を大切に思い、気遣う「思いやり」です。働きがいを得るためのもう一つの大切な要素は、会社・組織に所属し、チームメンバーと承認し合うことです。

   チームで協力して働くなかで、上司・先輩・同僚との信頼関係が生まれます。そして、仕事への取り組み姿勢や、仕事の結果・成果に対し、チーム内での承認や称賛を得られた時に、働きがいを感じることができるのです。

   アメリカの心理学者A.マズローの欲求5段階説をご存知の方は、多いかもしれません。下記の図はこれをもとに、私が作成したものです。

   人が生きるうえで、生理欲求や安全欲求の充足は不可欠です。また、自分らしく創造的に生きたいとする自己実現欲求も大切です。その前提のうえで、社会的存在としての人にとって社会(帰属)欲求と承認欲求の充足はとても切実なものです。人は孤立無援な状態では生きてはいけないからです。

   特に、私たちが社会のなかで意欲を持って働き続けるためには、一定の職場に所属して、上司や同僚との良好な人間関係と協力体制を得ることが不可欠です。そして働きがいを感じながら前向きに意欲を持って仕事に取り組むためには、この2つの欲求が充足されることがとても大事な要素です。

   働くとは「人のために動くこと」「傍を楽にすること」とも言いかえることができます。働きがいとは人と人との関係性のなかで得られるものなのです。

   そこで、若手社員に対しては「お互いに思いやりを持って働くことで、共に働いがいを得ていこう」と伝えましょう。

   近年は、人的資本経営への注目が集まっています。人をコストではなく投資すべき大切な資本としてみていこう、とする考え方は重要です。その際、働き手の内発的な動機づけを喚起し、自律的で前向きな働き方を引き出し、生産性を向上させていくには、一人ひとりの働きがいを高めることが大きな鍵となります。若手の離職防止と職場への定着、エンゲージメントを強化していくためにも不可欠な視点です。

   働きがいの醸成は、現場の上司の腕前―上司力にかかっていると言えるでしょう。

※「上司力」マネジメントの考え方と実践手法についてより詳しく知りたい方は、拙著『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)をご参照ください。
※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。


【プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお)
株式会社FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授

人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業FeelWorksを創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人 企業研究会 研究協力委員、一般社団法人 ウーマンエンパワー協会 理事なども兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版)、『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)、『50歳からの人生が変わる 痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所)等30冊以上。最新刊は『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)。