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ドイツの最新の児童手当の金額は? 子ども一人当たり3万5000円相当、最長25歳まで、所得制限なし!【海外通信@ドイツのいま】(高橋萌)

   【海外通信@ドイツのいま】コロナ危機が落ち着いたと思ったら、終わりの見えないロシアによるウクライナ侵攻、それに伴うエネルギー危機と物価の急上昇。

   子育て世帯の財布の紐が緩まることがない日々の中、2023年に入って、ドイツでは一つ嬉しいニュースがありました。

   それが、児童手当「Kindergeld」の増額です!

   今回は、子どもに対する支援の中でも、一番長くお付き合いすることになる児童手当を中心に、ドイツの最新情報をお伝えします。

  • 最新(2021年)のドイツの出生率は1.58、出生数は79万5492人。先日、発表された2022年の日本の出生数79万9728に迫る数字
    最新(2021年)のドイツの出生率は1.58、出生数は79万5492人。先日、発表された2022年の日本の出生数79万9728に迫る数字
  • 最新(2021年)のドイツの出生率は1.58、出生数は79万5492人。先日、発表された2022年の日本の出生数79万9728に迫る数字

児童手当の支給額が増額! 物価高騰が続くドイツで政府から救いの手

   昨年までは、第一子と第二子が219ユーロ(約3万1000円)、第三子が225ユーロ(約3万2000円)、第四子以降が250ユーロ(約3万5000円) と、子どもの数によって毎月の支給額に差がありました。

   それが、今年からは第一子から一律250ユーロ/月となったのです。

【画像の説明】ドイツの児童手当を受給できるのは、18歳未満。無職の場合は21歳、学業や職業訓練中の場合は25歳まで延長可(出典:www.bmfsfj.de/bmfsfj/themen/familie/das-kindergeld-106892)

   我が家には子どもが二人いるので、昨年比62ユーロ(約8900円)の増額となり、500ユーロ(約7万円相当)が毎月支給されています。喫緊の課題としてドイツのインフレ率が10%前後で推移していることから、増額分は子育て世帯へのインフレ手当だとも受け取れます。

   とはいえ、子どもが学業を終え、経済的に自立するまで続く、息の長い支援であることに変わりはありません。

   子ども一人当たり年間3000ユーロ(約43万円)の非課税収入になるので、単純計算で、2023年に生まれた子どもが18歳になるまで5万4000ユーロ(約770万円)、25歳まで受け取ったら7万5000ユーロ(約1000万円)を国から受け取ることになります。

   しかも、受給に際して「所得制限」はありません。

   ドイツの児童手当の歴史を振り返ってみても、親の所得について制限があったことは一度もありませんでした。

   もっとも、2012年に撤廃されるまで、子ども自身の所得についての制限はありました。たとえば、2011年までは年間8004ユーロ(約115万円)以上の収入がある子どもは、児童手当の受給資格を喪失。いわゆる「扶養から外れる」という状況ですね。

   親の所得が意味を持つのは、この「児童手当」とセットになっているドイツ版の年少者扶養控除「Kinderfreibetrag」との関係においてです。

   ドイツではまず、親の所得制限なしに全ての対象児童に、児童手当が支給され、毎年の確定申告を行った際に、受給済みの児童手当と年少者扶養控除のどちらが納税者にとってメリットがあるのかが査定されます。そして、年少者扶養控除の方が有利と判断され、適応を受けたら、すでに受け取った児童手当の分は相殺されます。

生活費や教育費が足りない! そんな時は「追加児童手当」...所得格差を行政がカバー

   前述の通り、ドイツの高所得者世帯には児童手当ではなく、年少者扶養控除が適応されることになっています。

   そして、低所得者世帯には「追加児童手当(Kinderzuschlag)」という追加支援が用意されています。

   「追加児童手当」を受給する資格があるのは、親が自分たちの分の生活費はまかなえていて、生活保護を受給するほどは困窮していないが、子どもの生活と教育のための費用が足りない層です。

   この追加児童手当は1ユーロから受給でき、その上限額も今年から子ども一人当たり250ユーロにアップしました。

   1ユーロでも受給が認められると、保育料や給食費が免除されたり、遠足や修学旅行、習い事の費用の補助を受けられたりする「教育及び参加パッケージ」を申請できます。

   このように、一つひとつの支援に申請が必要なためか、まだまだ利用する家庭は多くないそうです。追加児童手当の受給資格がある世帯のうち、実際に申請している世帯は約35%にとどまっているとドイツ政府は推計しています。

   「貧困は社会の問題」という認識が子育て支援においても出発点にあり、児童手当はドイツに暮らす子どもと行政をつなぐ、支援の窓口になっています。

   たとえば、コロナ禍においては、2020年に子ども一人当たり300ユーロ、2021年に150ユーロの一時金。2022年にはエネルギーコストに対するボーナスとして、子ども一人当たり100ユーロが児童手当の枠組みを通して支払われました。

子どものいる家庭への支援をもっと簡単に、迅速に! 新たに「子ども基礎保証」を計画中

2月下旬にはカーニバルを祝ったドイツ。子どものためのカーニバルのパレードの日には、地元の学校に通う生徒たちが仮装して練り歩いた
2月下旬にはカーニバルを祝ったドイツ。子どものためのカーニバルのパレードの日には、地元の学校に通う生徒たちが仮装して練り歩いた

   このように、充実しているように見えるドイツの子育て支援ですが、まだまだ課題はあります。

   不安定な社会情勢や経済的な危機を受け、ベルテルスマン財団の最新の報告によると、ドイツに暮らす子どもの5人に1人が貧困のリスクにさらされているそうです。

   貧困は、学力やその後のキャリアの格差につながり、貧困の連鎖を生んでしまうということは日本でも周知の事実です。

   親の貧困が子どもや若者の貧困につながるという構造的な問題を解決するため、ドイツ連邦政府は、「子ども基礎保証(Kindergrundsicherung)」新設に向けて議論を進めています。

   児童手当や追加児童手当、住居手当など、ドイツでは生活保護の手前にさまざまな支援がありますが、議論が進む「子ども基礎保証」では今までバラバラだった子育て世帯向けの給付金や支援を一本化し、手続きの簡易化を図ろうとしています。その中には、デジタルプラットフォームを通じて、貧困のリスクのある家庭に自動的に給付できるようにするというアイデアも含まれています。

   税法をはじめ多くの法改正が必要になるため、「子ども基礎保証」の導入は早くても2025年になるようですが、問題はやはり財源。

   「子ども基礎保証」の重要性と緊急性を訴えているリザ・パウス家庭相に対し、クリスチャン・リントナー財務相は難色を示しています。世論は、パウス家庭相を後押ししているようですが、この議論がどのように進展していくのか、ドイツで子どもを育てる一人として目が離せません。

   コロナ危機や、陸続きの場所で続いている戦争を経て、親が安心して子どもを育てられる社会だと信じられることが、今を生きる家族にとってはもちろん、社会全体にとっても大事なことだと実感します。(高橋萌)



【プロフィール】
高橋 萌(たかはし・めぐみ)

ドイツ在住ライター

2007年ドイツへ渡り、ドイツ国際平和村で1年間の住み込みボランティア。その後、現地発行の日本語フリーペーパー「ドイツニュースダイジェスト」に勤めた。元編集長。ドイツ大使館ブログでは「ドイツ・ワークスタイル研究室」を担当。サッカー・ブンデスリーガ大好き。日本人夫とバイリンガル育児に奮闘中。
Twitter: @imim5636