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上司が管理職から「支援職」へ変われば、部下全員が活躍する!

   4月を前に、人事異動の季節を迎えようとしている。昇進によって、新たに部下を持つ立場になる人も多いだろう。そんな人に勧めたいのが、本書「部下全員が活躍する上司力」(FeelWorks)である。「管理職から支援職に変われば、奇跡が起きる」とうたっている。いったいどういうことだろうか。

「部下全員が活躍する上司力」(前川孝雄著)FeelWorks

   著者の前川孝雄さんは、人材育成の専門家集団、FeelWorks代表取締役。リクルートで「就職ジャーナル」「リクナビ」などの編集長を経て起業。青山学院大学兼任講師を務める。著書に「一生働きたい職場のつくり方」「人を活かす経営の新常識」などがある。

部下が離れてしまう「5つの落とし穴」にご注意!

   コロナ禍で浮き彫りになったのは、リモートワークの導入により、部下の仕事ぶりが見えず、サボってはいないかと疑心暗鬼に陥り、人事評価に悩む上司の姿だった。

   ハーバード・ビジネススクールでリーダーシップを教えるリンダ・ヒル教授が、新任管理職にありがちな問題行動を分析して、明らかにした「5つの落とし穴」を紹介している。

1 隘路に入り込む-周囲が見えなくなり、自分で全てを解決しようとする
2 批判を否定的に受け止める-部下の異なる意見を自分への批判と受け止め、聞き入れられなくなる
3 威圧的である-管理職の自分に権限があるからと、一方的に命令や叱責を行う
4 拙速に結論を出す-部下の意見や状況を顧みず早く解決しようと、決めつけて判断する
5 マイクロ・マネジメントに走る-部下を自分の操り人形のように微に入り細に入り指示し、動かそうとする

   こうなると、部下の心は離れてしまい、マネジメントは空回りし始める。リモートワークの急速な普及により、こうした傾向は強くなったという。

   マネジメントに変革が求められる時代背景について、前川さんは次のように説明している。

   1つ目は、「メンバーシップ型」雇用から「ジョブ型」雇用へシフトする動きがあることだ。そのため上司には、一人ひとりの社員の仕事の目的や目標をより明確に言語化し、共有する力。そして、仕事の進捗と成果をできるだけ正確に把握し、的確に評価する力が求められる。

   2つ目は、職場のダイバーシティ(多様性)の進展だ。多様な部下一人ひとりを丁寧に理解し、キャリアに寄り添い、日々の仕事を支援する。それとともに、チームとして束ね成果を出していくという、難しい舵取りが求められる。

   そこで必要なのは、管理職から支援職への転換だ。

   上司の本来の役割は、部下に指示命令をして従わせることではなく、部下が自立的に働ける環境を整え、一人ひとりが働きがいを感じながら成長・活躍する伴走者だと心得ることだ、と指摘する。

支援型マネジメントの5つのステップとは?

   本書では、上司が身につけ実行すべき、支援型マネジメントの5つのステップを解説している。

   ステップ1では「相互理解」を深める。

   部下との相互理解を深め信頼関係を築くためには、1対1の面談が効果的だという。その際に使う「メンバー育成計画シート」を掲載しているので、参考になるだろう。

   このシートをもとに、部下のキャリアを概観したうえで、会社や仕事への思いを聴く。次に、本人の「強み」と「弱み」について話題を進める。本人が感じているこれまでに成果が上がったと思う仕事や、やりがいを感じた仕事は何か。また、苦手なことは何か、といった話題から始めるのだ。

   大切なのは、部下本人が自覚している強みと弱みは何か、自己開示を促すことだ。最後に、部下にどのように成長し、活躍をしてほしいか、将来への希望と期待をすり合わせる。

   ステップ2では「動機形成」を図る。

   部下と「働く目的」を共有し、仕事へのモチベーションを高めることだ。その際に役立つのが、「任用面談シート」。上司は、今期6カ月間に部下に取り組んでほしいミッションを記入し、面談で本人の役割・仕事を再確認し動機づける。

   その際大切なのは、部下を「内発的」に動機づけることだ。また、部下の自己効力感を育てるため、着実な成功体験を積ませる。また、ロールモデルを定めて、見習い学習をさせるなども有効だという。

   ステップ3では「協働意識」を醸成させる。

   部下一人ひとりの役割と組織目的を結びつけることだ。その際、上意下達の「ピラミッド型組織」からフラットな「サークル型組織」に変わることが重要だ、と説いている。

   上司は偉いのではなく、あくまでチームの円滑な運営のための一つの役割と心得よう。非公式なコミュニケーションも役に立つという。実際に、前川さんの会社では、ミーティング冒頭の本題に入る前に、「この週末の出来事は?」「マイブームは?」などのテーマで近況報告をしているそうだ。チームの相互理解に役立てている。

評価面談の際は「アドバイスより傾聴」を

   つづいて、ステップ4では「切磋琢磨」を促す。

   部下の自律性を高め、自ら仕事を工夫・改善できる環境をつくることだ。「少し背伸びが必要な仕事」を任せることも有効だという。

   最後のステップ5では「評価納得」を得る。

   節目ごとの評価に納得を得て、次なる成長をサポートすることだ。前川さんは、「評価は仕事やキャリアの一時の断面図」に過ぎない、と書いている。評価面談の際も「アドバイスより傾聴」を心がけることだ、と強調している。

   最後に、職場における上司の役割は、PTA会長やマンション管理組合の理事長と同じになってきている、と指摘する。上司と部下は人間としては対等。ただ、組織でよりよい仕事を進めるために、互いに役割分担をしている――そう理解すればいいという。

   「人的資本経営」が注目され、マネジメントも管理から人の成長を通した価値創造の手法に転換することが求められている。

   管理職から支援職への転換は時代の要請かもしれない。「この上司の下で働いた経験は、自分のキャリア形成にとって貴重だった」と部下に思われるようになりたいものだ。(渡辺淳悦)

「部下全員が活躍する上司力」
前川孝雄著
FeelWorks
1254円(税込)