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ニトリ、ツルハ、セイコーマート...北海道発の小売業が強い理由

   最近、北海道発の小売業の躍進が著しい。家具・インテリアのニトリホールディングス、ドラッグストアのツルハホールディングス、調剤薬局のアインホールディングス、ホームセンターのDCMホールディングスなどだ。

   本書「不況に強いビジネスは北海道の『小売』に学べ」(プレジデント社)は、その秘訣を探った本である。

「不況に強いビジネスは北海道の『小売』に学べ」白鳥和生プレジデント社

   著者の白鳥和生さんは、日本経済新聞社編集総合編集センター調査グループ調査担当部長。小売、外食、卸などを長く担当、北海道支社に勤務したこともある。北海道の企業経営者との人脈が本書に生かされている。

売上高50位以内に入る北海道発企業は5社

   日本経済新聞社が「日経MJ(流通新聞)」紙上でまとめている「日本の小売業調査」によると、2021年度で売上高50位以内に入る北海道本社、もしくは北海道を源流とする企業は5社(ツルハHD、ニトリHD、DCMHD、アークス、コープさっぽろ)ある。

   人口は約500万人。総生産が19兆6528億円で、日本全体の名目GDPの3.47%しか占めない北海道経済の位置からすると、奮闘ぶりがわかる。20年前には1社も50位以内に入らなかったというから、バブル崩壊後のデフレ経済下での躍進が目立つのだ。

   最初に、経済環境が厳しい中で、なぜ北海道発の小売業が強いのか、総論を述べた上で、個別企業の特徴を紹介したい。

   白鳥さんは、理由の1つとして、厳しい自然や経済環境で鍛えられてきたことを挙げる。広大で希薄な人口、長い冬が「標準」となり、北海道に比べれば環境は穏やかで人口も多い本州は戦いやすい土俵だという。

   さらに、開拓者精神を持って北海道に渡った先祖のように、「アンビシャス」を持った企業経営者が多い。たとえば、「5店のときに100店を目指した」ツルハHDのように、夢を実現する強い意志があることを挙げる。

「小売ビジネスの『売ること』とは『運ぶということ』に等しい」

   では、詳しく見ていこう。まず、北海道にとどまりシェアを拡大することで道民にとって「なくてはならない存在」になった企業に触れたい。

   コンビニエンスストア「セイコーマート」を展開するセコマは、北海道の全179市町村のうち4つを除く175市町村に1083店舗を持つ。セブンイレブンよりも多いらしい。となりの店まで37キロも離れた店もある希薄な商圏に出店できるのは、店舗を起点とした物流効率化のなせる技だという。店舗配送とグループの製造工場を抱き合わせた配送ルートになっている。

   トラックの積載率は大手が5~5割といわれるのに対し、セコマは9割を誇る。積載効率を高める努力として、商店や飲食店、ホテルなど外部顧客から配送を受託している。

   効率につながる合理性がセコマの特徴のようだ。「小売ビジネスの『売ること』とは『運ぶということ』に等しい。原材料の調達にも運ぶということが関わってくる」という丸谷智保会長の言葉を紹介している。

   生活協同組合コープさっぽろは、スーパーマーケットと宅配サービスを展開。宅配事業の利用世帯は道内の15%強だ。95台の移動販売車を運行、生鮮食品や雑貨など約1000商品をそろえるほか、配食事業も行っている。

   「カフェを作ってほしい」「小中学校に弁当を届けてほしい」などの地域の要望もビジネスとして手掛けている。

   スーパーマーケットのアークスは、北海道でイオングループ、コープさっぽろと三つ巴の戦いを展開している。

   札幌地盤のスーパーにすぎなかった大丸スーパー(のちのラルズ)が、帯広、旭川地盤のスーパーと経営統合し、アークスとなった。シェア16%を超えれば、地域シェアを押さえられるという理論のもと、地域スーパーの統合を進め、青森県、岩手県のスーパーも統合、本州にも進出した。

戦略は大胆に、財務は堅実に

   1兆円の年商規模に迫っているのが、ニトリとツルハだ。

   ニトリは、商品企画から製造、販売を自社で手掛けるビジネスモデルで成長してきた。2020年末にホームセンターの島忠がグループ入りしたのは新たな事業戦略だ、と指摘している。

   既存店でもプライベートブランドの家電が徐々に増え、衣と食の分野にも意欲的だという。似鳥昭雄会長は、2032年3000店舗、売上高3兆円を掲げ、海外展開も進めている。

   ツルハは旭川市の薬局がスタート。M&Aをテコとして拡大してきた。国内2500店を超える店舗数を持つ。自らの屋号やビジネス上の手法を押しつけない代わりに、商品調達や管理業務など、あらゆる統合作業の段取りをまとめたツールが強みだという。

   本書によると、中期目標は2025年に2750店舗、売上高1兆600億円だが、札幌市の本部内に貼り出されているのは「目標世界2万店、売上高6兆円」というから、驚きだ。

   「アイン薬局」を展開するアインHDは、2022年5月、約100店舗を持つファーマシィホールディングス(広島県福山市)を子会社化した。薬局数は約1200店となり、業界2位の日本調剤にダブルスコアをつける形になった。

   コロナ感染に対応したオンライン服薬指導にも一早く対応した。「かかりつけ薬局」として支持されることを目標に、2026年の売上高5000億円を目指している。

   釧路市を発祥とするホーマックが合流したホームセンターのDCMホールディングス。小型ホームセンターとコンビニの機能を持ち合わせた「ホームコンビニ」というコンセプトで展開している。店舗名は「DCMニコット」。人口5000人未満のスーパーのない地域に、食品の品ぞろえを増やした小型店の出店を進めている。

   本書は単に北海道企業の歩みを書いたものではない。人口減少、高齢化などさまざまな社会課題への取り組みにも触れている。

   白鳥さんは、北海道発の小売企業を「ノーザンリテーラー」と呼び、成功の秘訣として、「戦略は大胆に、財務は堅実に」「デジタルを磨き、流通を自らコントロール」などと並び、「経営者はロマンとビジョンを語れ」と書いている。

   M&Aをテコに拡大してきた企業が多いが、厳しい環境で育ったからこそ、強くなったのだろう。カラー写真も多く、この本を片手に北海道へ「ビジネス見学旅行」に行くのもいいだろう。(渡辺淳悦)

「不況に強いビジネスは北海道の『小売』に学べ」
白鳥和生著
プレジデント社
1760円(税込)