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欧州から「世界金融危機」の火の手? 総資産がスイスGDPの7割超クレディ・スイスが経営危機...エコノミストが指摘「大きすぎて潰せないのがやっかい」

   世界金融危機の火の手は米国から上がると思ったら、意外にも欧州から?

   2023年3月15日、欧州最大級の金融コングロマリット「クレディ・スイス・グループ」が経営不安に陥り、世界株安の事態となった。クレディ・スイスは3連続破綻した米地銀と違い、本拠地スイスのGDP(国内総生産)の7割以上の資産を持つ、超巨大銀行だ。

   仮に破綻したら、欧州発の激震が世界を揺るがすことになる。どうなる世界経済? エコノミストの分析を読み解くと――。

  • スイス国旗とレマン湖
    スイス国旗とレマン湖
  • スイス国旗とレマン湖

とかく「悪評」が絶えない巨大銀行、最近も1兆8000億円の「取り付け騒ぎ」

   報道をまとめると、パニックのきっかけは3月15日。業績不振が続いていた「クレディ・スイス・グループ」に対し、筆頭株主であるサウジアラビア最大の銀行「サウジ・ナショナル・バンク」のアンマル・フダリ会長が、「断じて追加投資をしない」と表明したことだった。理由は「クレディ・スイスは大きすぎて、助けられない」というもの。

   同日の欧州株式市場では、下降傾向だったクレディ・スイス株が前日比で、一時31%も下落。欧州の主要600社で構成される株価指数ストックス600は前日比3%安となり、特に銀行株の下げが大きかった。たとえば、オランダのINGグループが10%安、ドイツ銀行やイタリアのウニクレディトが9%安といったありさまだ。米国S&P500種株価指数の下げも2%を超えた。

   スイス国立銀行(中央銀行)は15日、「必要に応じてクレディ・スイスに流動性を供給する」と表明。これを受けてクレディ・スイスが16日、「スイス国立銀行から最大500億スイスフラン(約7兆1000億円)を調達する用意がある」と発表したが、国境を越えて飛び火した世界株安は収まらなかった。16日の東京市場では日経平均が2万7000円を割り込み、一時500円以上値下りした。

   また、米3銀行の破綻に続き、米銀の経営不振情報が広がった。16日付ブルームバーグによると、サンフランシスコを本拠とするファースト・リパブリック・バンクが売却を検討しており、同銀行に対して複数の格付会社が格付を「ジャンク級(投資不適格)」に引き下げたという。

スイスのオフィス街
スイスのオフィス街

   それにしても、クレディ・スイスとはどんな金融機関なのか。

   クレディ・スイスは、スイス・チューリッヒに本社を置き、証券・投資業務を中心に、特に富裕層向けの資産管理と運用を行うことで知られる。50年以上にわたり、中東と密接に取引関係を結び、1人のプリンス(王族)に1人の担当者が張り付くケースも珍しくないという。

   しかし、近年はトラブルが絶えなかった。昨年(2022年)2月、スイスの調査報道メディアが顧客情報をもとに、「汚職官僚や犯罪者がクレディ・スイスに80億ドル(約9200億円)を預金している」と報道、スイス国会で問題になった。

   また、10月には米検察が詐欺罪で摘発した米投資会社アルケゴス・キャピタル・マネジメントの「高リスク投資」に顧客を紹介したとして集団訴訟を起こされ、巨額の損失を出している。

   さらに昨年10月に発表した決算報告書の中で、「不正確な噂に基づき、メディアとネットに情報が流れた結果、取り付け騒動が起こり、129億スイスフラン(1兆8900億円)の損失があった」と自ら明らかにした。

   それやこれやで、2022年12月期まで2期連続の最終赤字が続いた。そして、パニックに襲われる前日の3月14日、クレディ・スイスは、「過去の財務報告に重大な弱点があった」と発表した矢先だったのだ。

欧州に危機の火種あり、疑心暗鬼が市場に広がると...

チューリッヒの街並み
チューリッヒの街並み

   こうした事態をエコノミストはどうみているのか。

   日本経済新聞オンライン版(3月15日付)「クレディ・スイス株が急落 中銀に支援要請、FT報道」という記事に付くThink欄の「ひと口解説コーナー」では、日本経済新聞社上級論説委員・編集委員の菅野幹雄記者が、

「クレディoスイスの経営不安説はいまに始まった話ではないですが、欧州の当局者はその都度、金融システムは盤石だと、噂をはねのけてきました。SVB(シリコンバレー・バンク)の破綻で再び脆弱とみられる銀行への風当たりが強くなるなか、よりによって筆頭株主がいま、後ろ向きの発言をするとは」

と驚きを隠さなかった。そして、

「情報開示に対する疑念を払拭するのは、かなり難易度の高い話です。欧州中央銀行(ECB)は明日(日本時間3月16日夜)、金融政策を決める理事会を開きます。もちろんユーロ圏の外にあるスイスの大手銀行の話ですが、市場の不安に対してクリアな説明ができなければ、疑心暗鬼は域内にも広がります。インフレより金融不安への対応が問われる局面かもしれません」

と、指摘した。

   欧州中央銀行は、すでに0.5%の追加利上げを示唆しているが、市場には0.25%の利上げ、あるいは利上げ見送りの観測も出始めた。

   日本経済新聞オンライン版(3月16日付)「欧米株が下落、クレディ・スイス24%安 信用不安懸念」という記事に付くThink欄の「ひと口解説コーナー」では、みずほ証券チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏が、

「金融面の不安心理がグローバルに増大中。証券化商品経由で危機が『伝染』した2007~08年頃の金融危機と異なり、破綻した2つの米銀の問題は大西洋を越えはしないだろうと筆者(注:上野泰也氏)はみていた。だが、欧州にも危機の火種ありと、市場はみるようになっている」

と、こちらもビックリの様子。そして、

「金融システムにまつわる不安心理には、いつどの程度まで拡大するかを事前に見通すことができない怖さがある。マネーは経済の血液で、金融システムは経済の循環器系。循環器系に不安が生じている時に身体への負荷をさらに重くするのは、正しい対処法ではない。その意味で、金融市場からFRBやECBは『この状況で本当に利上げができるのか』という声が出るのは、きわめて自然なことである」

と、欧米の2つの中央銀行の利上げ姿勢に疑問を投げかけた。

総資産がスイスGDPの7割超、スイス国立銀行には重荷すぎる

欧州中央銀行(ECB)の本部(手前はユーロのマーク)
欧州中央銀行(ECB)の本部(手前はユーロのマーク)

   同欄では、東洋大学国際学部の野崎浩成教授(金融、ファイナンス専攻)が、スイスの金融事情を説明した。

「クレディ・スイス社は金融安定理事会が指定するG-SIB(Global Systemically Important Bank, グローバルなシステム上重要な銀行、最新リストで30社)です。G-SIBは通常より高い自己資本比率が求められ、SVBなどと比較ができない財務基盤を有しています」

と指摘。つづけて、

「しかし、(日本の)長銀等のケースからも、市場が危機を深刻化させる力を有していることも確か。単独で生き残るか、再編に向かうか予断は持てませんが、最悪の事態でも国が救済しにくい点は認識すべきです。大銀行は救済されるというモラルハザード排除のため、G-SIBはRRP(再生破綻処理計画)策定を求められています。相場の重石になる懸念は続きます」

と、スイス国立銀行の救済姿勢に疑問を示した。

   また、同欄では日本経済新聞社特任編集委員の滝田洋一記者も、けた外れに巨大なクレディ・スイス社の救済の難しさを解説し、

「1スイスフラン(約143円)台の最安値。この株価水準がすべてを物語っています。必要なら流動性を供与する、とスイス中銀は緊急声明を発表しましたが、クレディ・スイスへの市場の疑心暗鬼はいまや極限に。流動性を供与するといっても、市場は資本が大丈夫なのかと懸念しているのですから、預金流出が止まらず、焼け石に水となりかねません」

と、公費が無駄になると指摘した。

「ならば公的資本の注入による国有化で打開できるかというと、規模の問題が大きな障害になります。クレディ・スイスは経営規模を圧縮中とはいえ、2022年末の総資産は約5700億ドル。名目GDP(国内総生産)が約8000億ドルのスイスという国家にとって、丸ごと救済するには荷が重すぎる存在なのです」

   GDPの7割以上を占める超巨大企業を、国民の痛みなしでどうやって救済するのか、というわけだ。

シリコンバレーの中心地サンノゼの建物
シリコンバレーの中心地サンノゼの建物

   一方、ヤフーニュースコメント欄では、日本総合研究所上席主任研究員の石川智久氏が、

「ひとまず、今回のスイス中銀の支援で一息つけますが、単なる資金流出ではなく、本業が苦しい状況では、リストラを急がないと再び経営危機が起きるリスクがあります。さらに、当面、第2、第3のクレディ・スイスを物色する動きが市場に出てくるとみられ、国際金融市場は不透明感が強い状況が続くとみられます」

と指摘。そのうえで、

「リーマンショックの反省から、金融危機を発生させないような規制や枠組みはできており、過度な警戒は不要であるものの、市場の不安の早期解消のためには、こうした枠組みの高度化を加速する必要がありますし、各国の政府・中銀が協力する姿勢を示すことも重要です」

と国際協力を求めた。

「大きすぎて潰せない」悩ましさ、欧州発「銀行危機」の始まり...

世界金融危機のリスク
世界金融危機のリスク

   実は、経営上の問題は米国の銀行より欧州の銀行のほうが大きいと指摘するのは野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミスト木内登英氏だ。

   木内氏はリポート「スイス中銀がクレディ・スイスに流動性供給の準備と表明:米国から欧州に飛び火する銀行不安:本丸は欧州か」(3月16日付)のなかで、クレディ・スイスの経営不安は個社の問題ではないと強調する。

「欧州の銀行は、リーマンショック後の不振がなお続いている、とも言えるのではないか。実際、収益性、金融市場からの評価などの点で、米国の大手銀行に大きく劣後している」
「また、ユニバーサル・バンキング制度の下、このような商業銀行部門の不振と、金融市場の動揺による引き受け業務の低迷など投資銀行部門の不振とが、同時に起こりやすい環境となっている点も見逃せない」
「リスクフリーである国債についても、金利上昇で含み損が膨らんだ後に、経営不振観測から顧客性預金が流出すれば、含み損が生じた国債を途中売却し、実現損を出さざるを得なくなる。これは、破綻した米国のSVBと同じ構図である」
株価が下落したニューヨーク証券取引所
株価が下落したニューヨーク証券取引所

   ただし、クレディ・スイスの経営不安が、他の欧州大手銀行に一気に波及することにはならないだろう、と木内氏は指摘する。

   なぜならば、「クレディ・スイスなど大手金融機関は『TBTF(Too big to fail、大きすぎて潰せない)』であり、中央銀行の流動性供給や政府の資本注入を通じて破綻は回避される可能性が高い」からだ。しかし、こう結んでいる。

「今後注目したいのは欧州景気動向である。欧州中央銀行(ECB)による利上げの影響に、足元での銀行不安、金融市場の影響が加われば、この先、欧州経済は減速傾向を強めていくのではないか。その場合には、債券損失、利鞘縮小に加えて、貸出資産の劣化といういわば『三重苦』が生じ、欧州銀行の経営不安はさらに高まるだろう。
その際には、複数の欧州大手銀行に対して、中央銀行や政府による救済策が講じられていき、『銀行危機』の様相を強めていくことも考えられる」

(福田和郎)