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「物言う株主」と対立のセブン&アイHD、社長再任の「会社提案」で可決 だが、批判票は約3割...両社の駆け引きまだ続く?

   流通大手のセブン&アイ・ホールディングス(HD)の株主総会で、注目されていた会社側と米投資ファンドの攻防は、ひとまず会社側の勝利に終わった。とはいえ、経営陣への批判票はおおむね3割程度に達し、両者の駆け引きは今後も続きそうだ。

   流通大手のセブン&アイ・ホールディングス(HD)の株主総会で、注目されていた会社側と米投資ファンドの攻防は、ひとまず会社側の勝利に終わった。とはいえ、経営陣への批判票はおおむね3割程度に達し、両者の駆け引きは今後も続きそうだ。

  • セブン&アイHD、井坂社長らは続投に(写真はイメージ)
    セブン&アイHD、井坂社長らは続投に(写真はイメージ)
  • セブン&アイHD、井坂社長らは続投に(写真はイメージ)

バリューアクト、経営陣に事実上の退陣要求 結局、ファンド提案4人の候補者は否決

   2023年5月25日、東京都内の本店で開かれた株主総会の結果をまずみておこう。

   井阪隆一社長以下の経営陣は、井坂氏を含む取締役候補15人の選任を提案した。これに対し、経営方針をめぐる考え方の違いから、米投資ファンド、バリューアクト・キャピタルが、井阪氏らを外した14人の取締役選任案を提案した。つまり、井坂氏への事実上の退陣要求だ。

   それぞれの候補のうち、社外取締役を中心とする10人(既存の取締役)は共通しており、残る会社側5人、ファンド側4人の候補者の選任議案が最大の焦点になった。

   結果は、井坂氏ら再任2人、新任3人の会社提案の5人の選任を可決、ファンド提案の4人の選任は否決された。

   共通する10人は98%前後の賛成率で再任されたが、会社、ファンド提案の計9人の選任への賛成率は次の通りだった。

【会社提案】井坂氏=76.36%、後藤克弘氏=74.89%、米村敏朗氏=64.87%、和田真治氏=67.92%、八馬史尚氏=68.44%

【ファンド提案】名取勝也氏=34.13%、ディーン・ロジャーズ氏=33.53%、ロナルド・ギル氏=33.13%、ブリトニー・レビンソン氏=25.52%

好調なコンビニ事業に経営資源の集中求めるバリューアクト スーパー事業など売却の是非で「対立」

   会社側とファンドの対立点は、「コングロマリット(複合企業体)ディスカウント」を巡る考え方の違いだ。

   J-CAST 会社ウォッチが「セブン&アイHD、ヨーカドー店舗2割削減&『祖業』衣料品は『完全撤退』 だが、必ずしも『スーパー事業』の見切りではない理由」(2023年3月17日付)などで報じてきたように、具体的にはコンビニエンスストア事業に特化すべきか否か、つまりスーパー事業などの売却の是非だ。

   コングロマリットディスカウントとは、低収益の事業が足を引っ張り、会社全体の価値が低く評価される状態を指す。

   バリューアクト・キャピタルは、セブン&アイがスーパーや百貨店などの事業低迷で「コングロマリットディスカウントに陥っている、と指摘してきた。ヨーカ堂などを切り離し、好調なコンビニ、セブン―イレブンに経営資源を集中するよう求めてきた。

   これに対して会社側は、百貨店事業「そごう・西武」の売却を決定。

   スーパーについては、「イトーヨーカドー」の国内店舗を2026年2月末までに2割超削減するとともに、自社で紳士、婦人、子供服売り場を運営するのを止め、「祖業」である衣料品からは撤退するなどの改革は打ち出している。

   コンビニの稼ぎをスーパーが侵食する構図を打破する必要は、経営陣も十分に認識しているわけだ。

   ただ、PB商品「セブンプレミアム」の開発には、豊富な品ぞろえで消費者ニーズを把握するなど、幅広い顧客を持つスーパーのノウハウや購買力が欠かせない、と主張する。

   「セブンプレミアム」はコンビニの食品売上高の約4分の1を占め、他のコンビニに対し優位に立つ力の源泉だけに、スーパー事業の分離は拒否する姿勢を堅持している。

スーパー事業の収益力「回復」がカギに 33%を占める外国人株主を納得させられるか

   もっとも、井坂氏ら会社側取締役への賛成率70%前後という数字は、どうみるべきか。

   前年は軒並み90%を超えていたので、大きく落ち込んだのは確かだ。ちなみに、バリューアクト自体のセブン&アイ株式の保有比率は約2%(2月末時点)と決して高くないが、株主に占める外国人の比率は33%とほぼ3分に1を占める。

   米議決権行使助言会社インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)などは5月上旬、会社側の選任議案に反対することを推奨していた。

   外国人株主=バリューアクト支持という単純な構図ではないだろうが、井坂氏らへの「不信任」が外国人株主の比率に近いという結果だった。

   ひとまず、現在の経営方針が支持されたわけだが、スーパー事業の収益力を回復させ、「お荷物」を脱却できるかがカギになる。今後、期待通りの実績を上げられなければ、外国ファンド以外の株主も離反する可能性は否定できない。(ジャーナリスト 済田経夫)