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「iPhone旋風」アップルは抜け目ない「ビジネスマン」

   2008年7月にソフトバンクモバイルが発売したアップル製のスマートフォン「iPhone 3G」。7月のソフトバンクの契約純増数は、前月比で約5万5000件増の21万5400件増となっており、iPhone効果のほどがうかがえる。

   iPhoneの販売台数をソフトバンクが公開していないため、今ひとつ実態が不明だが、発売してしばらくは「黒船」どころか火星人がケータイ界に襲来したような騒ぎだった。

進化の度合いや目新しさに乏しい「iPhone」

iPhoneの背面にも刻印されているアップルマーク。何に見える?
iPhoneの背面にも刻印されているアップルマーク。何に見える?

   ソフトバンクの孫正義社長自身、iPhoneのヘビーユーザーであり、「iPhoneを持っている人とそうでない人では人生の速度が変わる。別人種と言っていいくらいの違いが出てくるだろう」とまで絶賛している。

   その孫社長にとっても、iPhoneの出足は想像以上だったというが、以前のコラムに書いたとおりの冷めた見方をしていた筆者としても同じ思いである。意見が違うのは、製品についての評価だ。

   当時は不明だった具体的な料金プランや販売価格等の詳細が明らかになり、本物と身近に接する機会に恵まれたが、製品そのものに対する印象は変わらなかった。イケメンなルックスと、製品の醸し出すイメージとは裏腹に、進化の度合いや目新しさに乏しいというものだ。

テクノロジーよりパッケージデザインが際立つ

iPod classicの見た目は、2001年の初代からほとんど変わらない
iPod classicの見た目は、2001年の初代からほとんど変わらない

   こうした傾向は、ノートパソコンの「MacBook Air」や、iPhoneの先祖である2001年発売のiPodにも見られた。一般に、アップルに対する革新的なイメージはどんどん膨らんでいるようで、余計にそのギャップを感じる。今更ではあるが、今や携帯デジタル音楽映像プレーヤー(MP3プレーヤー)の定番となったiPodの例を振り返ってみよう。

   iPodが登場する前、すでにあまたのプレーヤーが有望と目される市場にひしめき合っていた。しかし、それらは機能的にも見た目にもデコラティブで、複雑でよくわからないモノとの印象を多くの人に持たれていた。そこに、機能を絞りこみ、ユーザーフレンドリーなイメージをスッキリとした衣装に包んだiPodがデビューすると、一気に市場を席巻した。

   ここでのアップルの仕事は、どこにでもある水を、綺麗で飲みやすそうな未来型のボトルに詰めて売り出したようなもの。テクノロジーよりは、パッケージデザインが際立っていたのである。

   iPhoneも同じような方法論ではないだろうか。スマートフォンは、アップルの発明でも独創でも何でもないし、スペック・機能(対価格)的に競合製品より優れていると思える部分も少ない。ただ、この分野には、音楽プレーヤーに乗り出したときよりは、先駆者的に取り組んだとは言えるが…。

最近は「アップルマーク」が「ビジネスマンの顔」に見える

   iPodはまるで手品か魔法のように売れ続け、人々の音楽の聞き方を変えた。アップルは機器を軸にアプリケーションソフト、コンテンツまで統合した、iPod+iTunes(管理ソフト)+Store(音楽データ販売)のビジネスモデルを完成させた。ビジネスとしては見事としか言いようがない。iPhoneも――最初の勢いが続けば、の話だが――日本のケータイの有り様を変える「黒船」(エイリアン)となるかもしれない。

   しかし、そのことと製品の評価の間には線引きが必要だろう。そして、ある製品の売れ行きと、それがいかに社会に普及し、生活に影響を及ぼしたかをもって評価とするならば、iPodやiPhoneの前にノーベル賞を授与すべきモノが山ほどある。Windowsなどはその筆頭だろうが、なぜかWindowsの「奇跡」に熱をあげる人は昔から少ない。

   それにしても、糸の切れたタコと揶揄されるWindowsロゴに比して、クリエイターの象徴であった愛らしい林檎マークも、近頃では銀縁のメガネをかけた抜け目のないビジネスマンの顔に見えてくるから不思議なものである。