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地方創生、5つの視点で洗いなおす

   ■『町の未来をこの手でつくる~紫波町オガールプロジェクト』(猪谷千香著、幻冬舎)

   ■『地方創生大全』(木下斉著、東洋経済新報社)

   政府が、「地方創生元年」とうたったのが、2015年。本年は、3年目だ。猪谷千香著「町の未来をこの手でつくる~紫波町オガールプロジェクト」(幻冬舎 2016年9月)は、「地方創生」に取り組む日本全国の自治体が熱く注目する岩手県紫波町の「公民連携事業」を生き生きと紹介している注目の1冊である。

   その中で「学生時代から各地で地域の再生を手がけ、公共事業の現場での実践経験を積みながら酸いも甘いも噛み分けてきた人」(15ページ)と紹介されているのが、一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス(2009年設立)代表理事木下斉氏である。

言いにくいことを小気味よく指摘

   その彼が2014年12月から東洋経済オンラインで連載している「地方創生のリアル」から生まれた1冊が「地方創生大全」(2016年10月 東洋経済新報社)である。本書の帯には、「日本一過激な請負人が書いた日本一まっとうなガイドブック」、「東京人『でも』必読」とあり、扉の裏書には「まちを救いたいなら、動き出そう。動かない人は無視しよう。」とある。本書では、地方創生を進める上で、地方の構造問題を、政府の施策についても、極めて率直に異論・問題点を指摘しながら、5つの視点(以下の5章)で整理する。

   第1章「ネタの選び方」(「何に取り組むか」を正しく決める)では、「ゆるキャラ」について「大の大人が税金でやることか?」、「特産品」について「なぜ『食えたもんじゃない』ものがつくられるのか?」、「地域ブランド」について「凡庸な地域と商材で挑む無謀」などと、「いいだしにくいこと」をはっきり指摘して、小気味がよい。

   第2章「モノの使い方」(使い倒して「儲け」を生み出す)では、「人口減少社会では『真面目』が大失敗につながる」といい、前述の「オガールプロジェクト」は、「常識やぶり」、「新しい時代の真面目」の好事例として紹介される。

   第3章「ヒトのとらえ方」(「量」を補うより「効率」で勝負する)では、「人口増加策より自治体経営を見直そう」、観光について、「観光客数ではなく、観光消費を重視しよう」などの指摘がぐっさり胸に刺さる。

残酷なまでのリアルにこだわる

   第4章「カネの流れの見方」(官民合わせた「地域全体」を黒字化する)では、補助金を「衰退の無限ループを生む諸悪の根源」と指弾し、「『残酷なまでのリアル』に徹底的にこだわろう」という。

   第5章「組織の活かし方」(「個の力」を最大限に高める)では、きちんと「中止・撤退」も想定することが絶対必要といい、「コンサルタント」を「地方を喰いものにするひとたち」とし、丸投げを戒める。また、「定量的な議論と柔軟性」が、ありがちな馴れ合いによる失敗を防ぐために重要であることを強調する。「地方創生のリアル」は、「絶対的な成功などはなく、成功と失敗を繰り返しながら、それでも決定的な失敗はせずに、どうにか上昇気流をつくり出していく日々の取り組み」だ(8ページ)という冷徹な洞察にはうならされた。

木下斉氏の著書。『まちで闘う方法論~自己成長なくして、地域再生なし』(学芸出版社)と『稼ぐまちが地方を変える~誰も言わなかった10の鉄則』(NHK出版新書)
木下斉氏の著書。『まちで闘う方法論~自己成長なくして、地域再生なし』(学芸出版社)と『稼ぐまちが地方を変える~誰も言わなかった10の鉄則』(NHK出版新書)

    木下氏には、他にも、18年前の自分(16歳 1982年生)に伝える本という「まちで闘う方法論~自己成長なくして、地域再生なし」(2016年5月 学芸出版社)、利益なくして再生なしと説く「稼ぐまちが地方を変える~誰も言わなかった10の鉄則」(2015年5月 NHK出版新書)、現場主義を徹底した「まちづくり:デッドライン~生きる場所を守り抜くための教科書」(広瀬郁と共著 2013年4月 日経BP社)などがあり、「クールヘッド・ウォームハート」で、リアルな地域の活性化を進めるには避けて通れないラインナップだ。

経済官庁 AK

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。