輸入が安定していれば食糧危機とは無縁? 中国モンサント社長「持続可能な農業はアジアにこそ必要」

    2017年6月23日、米国で種子や農薬などの開発を行っているモンサント・カンパニーの中国法人、モンサント中国のヨン・ガオ社長が来日し都内でセミナーが開催された。

   アジアにおける農業の現状に精通するガオ氏は、中国の農業政策を交えながらアジアで高まる穀物需要に対しモンサントがどのような方法で貢献しようとしているか、さまざまなデータを交えながら詳細に解説した。

モンサント中国のヨン・ガオ社長
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人口は多いが耕作地は少ないアジア

   世界の食糧需要は年々増加し続けており、2050年には現在の2倍になると言われている。一方で農地は減少しており食糧の安定供給に陰りが見えているのも事実だ。

   モンサントは以前から遺伝子組換え作物に代表される植物バイオテクノロジーや、データサイエンスを駆使した精密農業などを用いて「持続可能な食料生産」を実現し、食糧生産を強化することを訴えているが、正直なところ今の日本で「食糧が危機的な状況」だと実感することは災害時などを除くとあまりない。

   アフリカなどの限られた地域の問題ではないかと考えてしまうが、ガオ氏は日本や中国を含めたアジアこそ、食糧供給・自給に大きな課題がある地域だと指摘する。

   例えば東南アジアや中東も含めた広い意味でのアジア圏の人口は約41億4000万人。世界人口の61%をアジアが抱えているのだ。しかし、欧米に比べると1人あたりの耕作面積は圧倒的に小さい。カナダの1.34ヘクタール、米国の0.53ヘクタールなどと比較すると、日本はわずか0.03ヘクタール、中国も0.08ヘクタール、韓国も0.03ヘクタールとなっており、いずれも食糧需要を自国だけでは満たせず、輸入が不可欠となっている。

「需要に対する自給の不均衡は人口が多い国だけの問題ではなく、中国や日本が持つ食糧生産の問題や課題は似ていると言えるでしょう」

   安定的に輸入ができれば自給量が乏しくても問題はないのではないか、と考えることもできなくないが、実は輸入も揺らぎつつある。代表的な輸入品目に大豆とトウモロコシがある。そのまま加工して食べるだけでなく、肉となる家畜の飼料にも利用される重要な穀物だ。

   主な輸出国である米国農務省のデータでは、中国の大豆輸入量は2011年時点で約5923万トン。対する日本は約276万トンだ。2022年には中国の輸入量が1億トンを超えるとの試算も発表されているが、日本は横ばいの予測だ。トウモロコシではメキシコの約1392万トンに次ぐ2位が日本の約1194万トン。3位は韓国の約483万トンと続く。大豆に比べれば安全なようだが、ガオ氏はアジアでのトウモロコシ重要は拡大していると話す。

「ベトナム、タイ、インドネシアなどでは急速に輸入量が増加しており、10年前の8倍にも達します。アジアだけでも日本は相当数の国とトウモロコシ輸入が競合することになります」

   仮に他国の輸入量が増加し続けているのに輸出国の生産量が変わらない、あるいは減少するようなことがあれば、危機的な状況に陥る可能性は十分にある。

技術導入による自給量増を目指す中国

   では中国ではどのような農業政策がとられているのか。ガオ氏は現在の中国における年間穀物輸入量は1億トンに達する一方、生産量も6億2000トンとなっており、「自給を軸とし、そのサポートに輸入する」ことを食糧安全保障戦略としていると話す。

   国の政策指針書でも国内生産を重視し、積極的な科学技術の導入によって生産能力を確保するよう明記されており、将来的には米や小麦など主要な穀物の完全自給を目指しているという。

   とはいえ中国の自給には課題もある。人口は世界の20%を占めているが水や耕作地は世界の6~8%に過ぎず、その上耕作地の19.4%は農業ができないほどに汚染が進んでいる。肥料と農薬への依存も進んでおり、「農業での食糧自給を満たすには技術的なイノベーションが不可欠」だとガオ氏は指摘する。

   モンサントの事業に関係するからそう主張するのではないかという声もあるかもしれないが、米国の調査では過去30年間で技術導入によってトウモロコシの生産量は64%増加。さらに、土壌侵食や温室効果ガスなど環境負荷は低減し、農業用水やエネルギー、土地利用などの資源利用の効率化も進んでおり、その効果はデータで確認されている。

農業分野の投資規模は小さい

   ところで、中国では遺伝子組換えはどのように受け止められているのだろうか。ガオ氏によると、インターネットを介してネガティブな情報を得て信じてしまう人もいる一方で、綿やパパイヤなどはすでに遺伝子組換え作物が栽培されており、遺伝子組換えトウモロコシや米も検証が始まっているという。

「遺伝子組換え技術自体は農業だけでなく、医薬や洗剤の酵素などにも活用されていますが、農業における遺伝子組換えのみが批判対象となっています」

   一方で遺伝子組換え作物の作付面積は年々増加し続けており、2016年には世界で1億8510ヘクタールに達している。

「もし問題があるなら世界中で面積が拡大することがありません。客観的なデータからも収量や収益が上がることが確認されており生産者のベネフィットはもちろん、食糧自給やコストの面で国や消費者、さらには環境へのベネフィットも大きい技術が遺伝子組換えなのです」

   同時にガオ氏は「モンサントはひとつの技術だけでのイノベーションは求めていない」とし、

「遺伝子組換えやデータサイエンスだけでなく、従来育種(品種改良)や農薬・肥料、土の中の微生物を利用する農業用生物製剤など、複数の技術を組み合わせて、生産効率と持続可能性を最大限に高める農業ソリューションを提案します」

   と語る。しかし、農業分野の研究開発への投資額は医薬品や自動車、ITなどに比べると非常に小さい。例えばネスレやモンサント、シンジェンタなど代表的な農業分野の企業5社の研究開発費の合計ですらトヨタ一社の研究開発よりも少ないのだ。

   ガオ氏はイノベーションを進め、技術によるより大きなベネフィットを得るためにも、モンサントとバイエルのような企業の合併によって研究開発への投資を拡大する必要があるだろうと指摘しセミナーを終えた。

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