ゲキ×シネ「朧の森に棲む鬼」劇場で見るより迫力ある「芝居」だ!

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   「ゲキ×シネ」とは初めて聞く。劇場の芝居をシネマにして映画館で上映するのだそうだ。今までもNHKやWOWOWで舞台中継をやっていた。映画館でも歌舞伎の舞台を映画にした玉三郎の「鷺娘(さぎむすめ)」や「日高川入相花王(ひだかがわいりあいざくら)」や野田秀樹の「鼠小僧」などの先駆がある。しかし舞台を重んじるあまりクローズアップは少なく、殆どが「引き」の画面。芝居を見る人の視点で捉えている訳だ。だからカメラも引きのメインが一台と上手と下手にあれば済むかも知れない。


   この「ゲキ×シネ」は違う。15台のデジタルHDカメラを前後左右上下に配置、舞台の上や花道から、そして客席レベル以下のローアングル、天井を越すほどの俯瞰から、あらゆる角度や遠近で押さえてある。画質はデジタルHDだから鮮明で、音も5.1チャネルのサラウンディング・サウンドの大迫力。だから引きの絵なんてごく一部、俳優の顔を前後左右から接近してクローズアップ。市川染五郎の額からしたたる汗が手で掬ってやりたいほどの至近距離で映し出される。だから芝居を実際に劇場で見るよりも、良く鑑賞でき理解できる。

   04年から始まったゲキ×シネは既に5本が完成している。「髑髏城の七人~アオドクロ」(04)や「SHIROH」(05)など、この「朧の森に棲む鬼」(07)で5本目だ。舞台は今年1月、新橋演舞場で上演された。舞台だから当然長い。この映画はネットで2時間57分、ほぼ3時間でおまけに幕間で15分のインターミッションが入る。

   この演目は伝統的な歌舞伎と全く違う。セリフにスピード感があり、歌と踊りが入るミュージカル仕立て。そのくせ市川染五郎に代表される伝統の芝居も要素に入っている。劇団☆新感線の主宰者、いのうえひでのりの新感覚の演出の"いのうえ歌舞伎"。ホンは座付き作家の中島かずきで毎回公演を行う。

   幕が開くと死体累々の山に一人の男ライ(市川)と弟分キンタ(阿部サダヲ)。乱世をライの「口先」とキンタの腕っ節で渡って来た。森の中から魔物たち「オボロ」が現れる。ライの望みはこの国の「王」になること、その代償はライの命。オボロからライは一本の剣を与えられる。「お前の舌が動くように、その剣は動く」「お前は自分で殺さない限り死なない」

   シェイクスピアのリチャード3世とマクベスを下敷きにしている。ライは舌先三寸で国王にのし上がるが、やがてオボロたちの予言通りになって行く。市川染五郎の熱演で感動的であり重厚であり、共演者の歌と踊りで楽しませ、軽口のジョークで笑わせる。芝居だということもいつしか忘れて映画として楽しむ自分を発見する。

   しかし「生」舞台を中継する訳だから、出トチや間合いの失敗、セリフのトチリなどは許されない真剣勝負だ。それも画面に伝わる。10月6日より新宿バルト9を始め18スクリーンで公開される。オススメ度★★★★★のゲキ×シネである。

恵介
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