2024年 5月 6日 (月)

高橋洋一の自民党ウォッチ
出世競争から脱落しても「高給窓際」 「左遷不満訴訟」は役人の甘ったれ

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   ドラマ「半沢直樹」の最終回の平均視聴率が42.2%(関東地区)と、平成の民放ドラマでは歴代1位という驚異的な数字だった。このドラマの見所は多くあるが、銀行マンの出世競争の中で、「出向」が「左遷」を意味することは多くの人が知ったであろう。

   官僚の世界では、出世競争からの脱落はこれまで「天下り」だった。ラインから外れるという意味で「左遷」なのだが、その待遇が外から見ればおいしい。銀行の「出向」も官僚の「天下り」も、世間から見れば、失職しないだけ儲けものだ。世間ではリストラや首切りが簡単に行われる時代に、退職させられるわけでなく職場転換にすぎない。そんな大げさに騒ぐなと一言言いたいくらいだ。

「現役出向」という名の「偽装天下り」

   いずれにしても、官僚の「天下り」は目に余るので、従来の公務員改革では「天下り撲滅」がいわれてきた。これに対して、天下り斡旋禁止という抜本的な解を出したのが、2007年の第一次安倍政権の時に成立した改正国家公務員法だ。実は筆者、この法律の立案者の一人だ。ただ、天下り問題だけを解決しても、公務員制度全体としては未完だ。そこで、福田政権の時、当時の渡辺喜美行革担当相が奔走し、国家公務員改革基本法を与野党の壁を乗り越えて成立させた。

   ところが、その後、同法に基づく実定法は国会で成立せず、公務員制度改革は進まなかった。その中で、実定法改正がないまま、2010年4月、民主党鳩山政権の時、小手先の改革もどきを行った。

   ある年齢になると、幹部へ昇格か天下りという従来のコースを直し、(1)幹部への昇格、(2)現役出向(偽装天下り)、(3)専門スタッフ(ライン外し)にしたわけだ。(2)「現役出向」は酷かった。事実上役所外組織への天下りであるが、まだ籍が役所にあるという形式理由で、天下りでないと言い張った。それに比べると、「(3)専門スタッフ」は、役所内組織に留め置くので、第三者から見ればまだ筋がいい。ところが、「(2)現役出向」は、独立行政法人など役所の植民地だが役所外勤務なので、当人の左遷の屈辱感はまだ少ないが、「(3)専門スタッフ」は役所内勤務で、当人の不満は高まるようだ。

カットされたといっても年収800~1000万円程度

   そこで、やはりというか、抜本的な法改正なしのツケが出てきた。その一例が、9月25日付(2013年)の朝日新聞で報じられていた、農水省のキャリア官僚が専門スタッフへの異動を不服として起こしたという訴訟だ。

   冒頭述べたように、退職させられるわけではないので、甘えた話だ。給料のカットといっても2割程度で、民間から比べればたいしたことない。そもそも、キャリア官僚の給料は民間が低下してきたので相対的に高いので、カットされたといっても年収800~1000万円程度。専門スタッフを作るときには、高給窓際官僚を大量生産すると揶揄されたものだから、そんなに大騒ぎすることもないだろう。

   ただし、その程度の人事であっても、これまでの前例もなく、国家公務員法に基づく諸規則でそうした人事を可能にするような規程も不備なのは事実だ。だから、このキャリア官僚は勝てると踏んで訴訟を起こしたのだろう。

   こうした訴訟を通じて、官僚の雇用実態が明らかになるのはいいことだ。そして、官民で不公平のないような裁判結果になることを期待したい。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2005年から総務大臣補佐官、06年からは内閣参事官(総理補佐官補)も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「財投改革の経済学」(東洋経済新報社)、「さらば財務省!」(講談社)など。


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