「日中偶発軍事衝突」は起こるのか(4)
「中国尖閣侵攻」でも米軍は即出動するわけではない 議会が承認しない場合は見送りの可能性強い
早大客員教授・春名幹男氏に聞く

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   「尖閣諸島は日米安全保障条約の適用対象になる」。2014年4月24日、オバマ米大統領は安倍晋三首相との会談でこう表明した。米大統領としては初の「明言」だとして、国内主要メディアは大きく報じた。

   だが、仮に中国が尖閣諸島を攻撃したら米軍が出動するのなら、なぜオバマ大統領は「尖閣有事の際には米軍が日本を守る」と断言しないのか。安全保障や日米関係が専門の春名幹男さんが、安保条約に書かれた「真意」を読み解く。

グレーゾーンの場合は安保適用外ということはあり得る

「米軍は本当に出動するのか」との疑問に答える春名氏
「米軍は本当に出動するのか」との疑問に答える春名氏

――日中関係が冷え込んだまま一向に改善の兆しがありません。このまま事態打開が進まなければ、中国軍が尖閣諸島を攻撃してくる恐れはあるでしょうか。

春名 現状を考えると、確率は低いのではないでしょうか。まず島の形状から隠れる場所が見つからず、長期的に占領するのが難しい。こうしたことから、戦略的に意味がない島だと指摘する専門家もいます。
   ただし、こんなシナリオは十分考えられます。例えば漁民に偽装した中国の特殊部隊が尖閣に上陸する。これに対処するのは海上保安庁と沖縄県警察になりますが、具体的な対応方針は日本政府の中で明確にまとまっていません。いわゆる「グレーゾーン」の問題です。
   安保条約第5条には、日本の施政下における領域が「武力攻撃」を受けた場合「共通の危険に対処する」と定めています。この場合「武力攻撃」の解釈は、組織的な軍隊による攻撃とされており、偽装した漁民による上陸は含まれない可能性があります。オバマ大統領はわざわざ「第5条」に言及していますから、グレーゾーンの場合は適用外ということはあり得るでしょう。確かに米大統領が、「尖閣が安保条約の適用範囲」と発言したのは一歩前進かもしれませんが、これだけではグレーゾーン問題が解決しておらず、日本側にとっては物足りなかったと言わざるをえません。

議会承認の見通しが立たずシリア派兵を見送り

――中国軍による尖閣への「武力攻撃」であれば安保条約が適用されるようですが、条文には「自国の憲法上の規定及び手続きに従って」とも書かれています。米国憲法の規定や手続きによっては、米軍が出動しない可能性もありますか。

春名 あり得ます。米国の「戦争権限法」では、武力行使については議会の承認を得なければならないと定められています。例えばイラク戦争の前には議会が武力行使容認決議を可決しました。2008年の大統領選に出馬したヒラリー・クリントン氏はこの決議に賛成したことを批判され、自身は「後悔していない」と発言しましたが、批判されました。一方、2013年にオバマ大統領はシリアへの軍事介入を目指しましたが、議会承認の見通しが立たなかったこともあり、シリア攻撃を断念しています。
   安保条約第5条が「自動介入」の条文となっていない以上、米国内法を無視してでも必ず米軍が尖閣防衛のために出動するとは言い切れません。確かに一部では、米大統領は必ずしも議会承認を得なくてもいいという解釈もあります。しかし、尖閣を「ちっぽけな島」と考える米議員もいるなか、議会手続きを省いて反対を押し切ってでも軍事行動を決断するのは疑問です。半面、中国軍が白昼堂々と尖閣を占領するような事態となれば、看過できないとして介入するかもしれません。いずれにしろ米政府は非常に難しい判断を迫られることになり、国内外の情勢によっては軍の派遣見送りという選択肢も考えられます。

「中国が尖閣を攻めたら進んで介入する」とは積極的に言わない

――現状の日米関係から見て、「尖閣有事」の際に米国はどのような動きを見せると推測できるでしょうか。

春名 実はオバマ大統領の対日姿勢には微妙なものがあります。米政府の尖閣諸島政策はブッシュ前政権時に、(1)尖閣諸島は日本の施政権下にある、(2)日本の施政権下にある領域は日米安保条約第5条が適用される、(3)したがって尖閣諸島は安保条約の適用対象となる、という三段論法で示されました。ところが2009年1月にオバマ大統領が就任すると、これが「微修正」されます。すなわち(1)と(2)はそのまま受け継ぐが、(3)だけは「質問されたらイエスと答える」との立場に変更し、米政府としては公言しなくなったのです。共同通信が2010年8月16日、これをスクープし、国務省報道官もその政策変更を事実上認めました。
   これはどういうことか。米政府が中国を刺激しないために、(3)については聞かれない限り答えないスタンスをとるようになったのだと推測します。「中国が尖閣を攻めたら米側が介入する」とは積極的に言わない、というわけです。その後、2010年10月に当時の前原誠司外相とヒラリー・クリントン米国務長官が会談し、長官が(3)についても自ら公言して以前の形に戻りました。ただ、オバマ大統領の中国に対する配慮の姿勢が見え隠れする一例ではありました。
   懸念材料はほかにもあります。オバマ大統領と安倍首相との個人的な信頼関係が確立していません。4月の来日時でも短時間の会談に終わっています。緊急事態が発生したときに「ホットライン」で首脳同士が意思疎通し米側に支援を求める態勢が取れるかと言えば、なかなか難しいでしょう。
   日本の防衛の基本は日米同盟であり、同盟関係の再構築は最優先課題です。現状、米国内ではイラク戦争やアフガニスタン介入の結果厭戦気分が高まっている一方、中国経済の存在感は増しています。複雑な要素が絡み合うなか、日米の政府レベルで「ずれ」が見られる今日は、少々な心配な状況と言わざるをえません。


春名幹男さん プロフィール
はるな・みきお 早稲田大学客員教授。専門は日米関係、米国政治・安全保障、インテリジェンス。大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業後、共同通信社入社。大阪社会部、ニューヨーク支局などを経て1993~96年ワシントン支局長。1995年ボーン・上田記念国際記者賞、2004年日本記者クラブ賞を受賞。名古屋大学大学院国際言語文化研究科教授を退官後、現職。著書に「米中冷戦と日本」(PHP研究所)、「秘密のファイル―CIAの対日工作」(共同通信社)ほか多数。

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