2024年 5月 1日 (水)

遺伝子資源を活用ルール定めた名古屋議定書 日本は批准が遅れ、ビジネス上マイナスに

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   動植物や微生物の遺伝子資源を活用して開発された医薬品などの利益配分に関する国際ルールを定めたで「名古屋議定書」が2014年10月、発効した。53カ国と欧州連合(EU)が批准し、発効に必要な50カ国以上に達したためだ。

   ただ、議定書採択を主導した日本は、制度整備などの検討が遅れて批准できていない。このため、企業の研究開発などに影響が出ると懸念する声も出ている。

遺伝子資源へのアクセスと利益配分の詳しい手続きを定める

   医薬品や食品などの研究開発や製造に役立つ動植物や微生物を「遺伝子資源」と呼ばれる。かつては企業の研究者らが世界各地の生物を自由に新薬開発などに利用していたが、1993年に生物多様性条約が発効し、「遺伝子資源の主権的権利は提供国にある」と明文化された。企業や大学などの利用者は提供国の同意の上で取得し、開発を通じて得た利益を配分することがルールになったのだ。その利益で生物多様性を守るという趣旨だ。

   2010年に名古屋市で開催された同条約の第10回締約国会議(COP10)で採択されたのが「名古屋議定書」で、遺伝子資源へのアクセスと利益配分の詳しい手続きを定めている。具体的には、(1)遺伝資源を利用する企業は提供国から事前の同意を得て、医薬品開発などで得られた利益を配分(2)利用国は、遺伝資源を不正に入手していないか、監視機関を設けてチェックする(3)各国が情報を共有できるよう、条約事務局に情報集約機関(クリアリングハウス)を設置する――などを盛り込んでいる。

バイオ関連の業界などに批准慎重論

   14年7月14日にウルグアイが批准して必要国数50カ国に達し、90日後の10月12日に正式に発効した。

   日本が批准に至っていないのは、バイオ関連の業界などに慎重論があるからだ。問題の一つが、資源国から過去に遡って利益配分を求められないかという心配だ。COP10では、途上国が遡及を求めたのに対し、日本などの反対が通って遡及条項は議定書に盛り込まれなかったが、あいまいな記述があり、懸念が完全には払しょくできないという。また、議定書に基づいて遺伝子資源利用のために手続きが増えることで、コストが増えることなども、学術界を含めて懸念が根強いという。

   ただ、批准しないと国際的に孤立し、遺伝子資源の利用に支障が出る可能性も指摘される。

   例えばマレーシアは、利益配分に関する国内制度が整っていることを、自国資源を利用する「条件」にすることを検討していると伝えられるなど、批准していないことがビジネスのマイナスになる可能性も否定できない。

「合成生物学」の扱いが議論になる

   また、議定書発効に合わせて韓国・平昌で開かれた同条約の第12回締約国会議(COP12)と名古屋議定書の第1回議定書締約国会合では、DNAやたんぱく質といった生物の構成要素を人工的につくり出し、新たな生物や生命機能をつくり出す「合成生物学」の扱いが議論になった。新薬の開発などへの応用が期待されている分野だが、これで生み出された生物などが、生物多様性や人の健康などにどう影響するかといった点はまだよくわかっておらず、どのようなルールを設けるかが、次の国際的な課題とされる。先進国間、また先進国と途上国の間で見解が分かれるテーマだが、日本は議定書を批准しない限り議定書締約国としての議決権はなく、発言権も限られ、「周回遅れ」になりかねない。

   政府は今のところ、2015年までに批准に向けた国内体制を整備すると決めている。具体的には環境省が関係業界や学術界と調整して運用ルールを定めることになるが、一刻も早い批准が求められているのは間違いない。

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