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【BuzzBiz 2020】視覚障がい者の「目」になる進化したメガネ 「dynaglass」の開発秘話

新しい年を迎えた。2020年は、何と言っても東京五輪・パラリンピックが開催される。多くの外国人旅行者が訪れ、「日本の今」にふれていく。TOKYOをはじめ、地域が昨年以上に活性化することだろう。
同様に、ビジネス界にも新しい商品やサービスが続々と登場している。2020年に流行りそうな、近い将来に必需品となりそうな、そんな「BuzzBiz!」を紹介していく。

   視覚障がい者の移動のサポートとして、AIが周囲の情景を自動解析し、言語化してくれる機器「dynaglass(ダイナグラス)」の販売が、2019年11月から始まった。

   視覚障がい者にとって、大変だった街中での信号待ちや危険物の検知などの場面で、幅広く活躍しそうだ。今回、この商品の開発者であり、株式会社デジタルアテンダントの金子和夫代表に、開発にまつわる秘話や今後の取り組みについて話を聞いた。

  • 金子社長は「シニアや障がい者の方はIT化に取り残されていました」と話す。
    金子社長は「シニアや障がい者の方はIT化に取り残されていました」と話す。
  • 金子社長は「シニアや障がい者の方はIT化に取り残されていました」と話す。

「マイノリティーのためにIT、AIを提供したい」

―― 前職は、大手電機メーカーでパソコンの商品開発をされていたそうですね。

金子和夫社長「長年、某電気メーカーで、ノート型パソコンの商品企画に携わってきました。商品企画というのは、お客様の声を開発側に伝える、つまり、お客様が困っているところに、ちゃんと対応した商品を提供することが仕事です。ノート型パソコンの先駆けと言われた商品を世に出し、その後も『皆が便利に自由に使えて』、『THIN&LIGHTな(薄くて軽い)』パソコンを一貫して追求し続けてきました。10年ほど海外赴任していたので、国内外でのビジネスも経験することができました」

―― パソコンから一転。「ダイナグラス」を開発するきっかけは何だったのでしょうか。

金子社長「駅のホームや路上で困っている視覚障がい者の方を見て、『私はITの業界にいるので、ITやAIを使ってなんとかできないものだろうか』と思ったのが始まりです。前職を辞める時、『ノート型パソコンの開発で、どこまで皆が幸せになったのだろうか』と考えました。健常者や若い人たちにとっては、本当に便利で良い商品だったといえるでしょう。でも、シニアや障がいを持っている人たちは、取り残されてしまっていました。
世の中、若い人や楽しいことに開発が向いており、逆にマイノリティーの方のための、AIやITは供給されていないというのが現状です。目の見えない方は一番苦労されているので、そこにソリューションを供給したいと思いました。次のキャリアでは、そういった人たちに光を当てようと決めたのです。
ビジネスの観点からも、視覚障がい者向けの商品は、競合他社がいないブルーオーシャン戦略という意味で、当社のような零細企業にとって正しい方向性だと思っています。ダイナグラスのような商品は世界のどこを見渡してもありませんから」

―― 「ダイナグラス」には、どのような機能がありますか。

金子社長「首からかけた小型カメラに映った画像を、クラウドにつなげてAI処理し、音声に変換するという機能があります。主には情景認識、人物認識、文字認識ができます。
人物認識とは、目の前にいる人の性別や年齢、身体的な特徴や服装などを『茶色』『スーツ』『40代の男性』『中肉中背』などのように短いキーワードで教えてくれる機能です。さらに、たとえば肌や髪の色 など、知りたい情報があれば、あとでAIに学ばせて新しいカテゴリーを追加することもできます。
視覚障がい者の方へのヒアリングで多く聞かれたのが、『信号の色がわからない』という悩みでした。横断歩道まで行けても、『信号が変わったことがわからない』、『青信号のタイミングでうまく渡れない』という問題を抱えていました。そこで、カメラが信号機を探知して信号の色や距離も教えてくれる機能を持たせることにしたのです。また、信号については画像処理の時間を短縮できるよう、エッジコンピューターで処理できるようにしています。これまでの、白杖や盲導犬を補う形で使っていただきたいと思っています」

メガネ型から試行錯誤の末、ペンダント型に

―― 開発で苦労したところはどこでしょうか。

金子社長「ダイナグラスの形状は、何度か試行錯誤し、現在の首から下げるペンダント型に落ち着きました。最初は、専用メガネを一から作ろうと思いましたが、コストがかかりすぎるという点で断念しました。次に、市販のスマートグラスを応用することを考えましたが、メガネが重く負担になってしまう点や、顔周りが目立ってしまうことを嫌がる方も多かったので今の形になりました。ペンダントの金具部分は、鯖江のメガネのフレームを作る技術を利用しており、この形は意匠デザインの特許を取得しています」
当初は「メガネ型」で開発を進めていた。(左が、1号試作機)
当初は「メガネ型」で開発を進めていた。(左が、1号試作機)
現在の「ペンダント型」の「ダイナグラス」
現在の「ペンダント型」の「ダイナグラス」

ゴールは「障がい者が社会参加できる社会を創ること」

金子社長は「障がい者がダイナグラスを持って歩くことが新たな価値を生み出す」と言う。
金子社長は「障がい者がダイナグラスを持って歩くことが新たな価値を生み出す」と言う。

―― 今後、どのような取り組みを予定されていますか。

金子社長「2020年1月に、ラスベガスで開催される世界最大の電子機器の見本市、CESに出展することになりました。このショーには、世界各国から4500社の企業が出展し、18万人が参加しますから、ゆくゆくは各国にディストリビューター(代理店)を置きたいと考えている当社にとって、良い取引につながることを期待しています。
また、当社の技術と他社の技術を組み合わせが、新しい商品のアイデアにつながる場合もありますので、自社の売り込みだけでなく、他社ブースも積極的に回りたいと思います」

―― 「ダイナグラス」には、どのような将来性があると見ていますか。

金子社長「皆さんから、現在のダイナグラス1台の費用が高いと言われています。価格を抑えたいと思っていますが、そのために、企業にCSR(社会貢献)活動としてスポンサーになってもらい、その資金で障害者にダイナグラスを配布する。そして、たとえば港区や渋谷区のような自治体とタイアップして、視覚障害者に優しいエリアを作り、その輪を広げていくことも考えています。また、今は情報がお金になる時代です。ダイナグラスを付けて街を歩き、危険なスポットを地図に反映できるシステムを作れば、情報が欲しい企業がでてくるかもしれません。ダイナグラスを持って歩くことが価値を生み出し、価格に還元できるかもしれないのです。
理想は、視覚障がい者の方が、積極的に外に出て社会参加できる社会を創ること。ダイナグラスでそれを実現することが、私にとってのゴールです」

(聞き手 戸川明美)