J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

「尾身の乱」に菅政権が大バッシング 「良心の叫び」のはずが「ご乱心」で鎮圧される!(2)

「尾身の乱!」

   そんな言葉も飛んだ。

   政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長の爆弾発言が波紋を広げている。

「なぜ今、東京五輪を開かなければいけないのか。菅義偉首相は国民が納得できるように説明すべきだ」

と、国会で訴えたことが、政府や大会組織委員会の怒りと反発を招いた。尾身氏の反乱は鎮圧されるのか――。

  • 「ご都合主義」で専門家を利用してきた菅義偉首相
    「ご都合主義」で専門家を利用してきた菅義偉首相
  • 「ご都合主義」で専門家を利用してきた菅義偉首相

ブレーン竹中平蔵氏「ひどい越権行為だ」

   こんななか、尾身氏のバッシングが始まった。火ぶたを切ったのは菅義偉首相のブレーンの一人で、菅政権で新たに設置された成長戦略会議のメンバーでもある竹中平蔵・パソナグループ会長だ。

   スポーツニッポン(6月7日付)「竹中平蔵氏が〈尾身批判〉『分科会は明らかに越権』オリパラ提言にクギ」が、こう伝える。

「尾身茂会長が、東京五輪・パラリンピックについて独自の提言を公表する考えを示したことに対し、竹中平蔵氏が6月6日、大阪・読売テレビの番組『そこまで言って委員会』に出演、『こないだの座長の発言なんかひどいじゃないですか。だって分科会がオリンピックのことを決めるわけじゃないのに、明らかに越権でね』と批判した。『だって、オリンピックっていうのは世界のイベントでね。日本の国内事情で〈やめます〉というのはあってはいけない。世界に対し〈やる〉と言った限りはやるべき責任がある』と強調した」

   出演者の一人が、「世論の6~7割が中止を望んでいる。世論が間違っているってこと?」と聞くと、竹中氏は「世論は間違ってますよ。世論はしょっちゅう間違ってますから!」と、キッパリ言い切ったのだった。

   月刊誌も「尾身氏総攻撃」に参陣した。「月刊Hanada」の最新号(2021年7月号、5月26日発売)は、巻頭に「独占インタビュー:安倍晋三前総理『歯を食いしばって菅政権を支えよう』」という記事を掲げ、菅首相応援団の姿勢を打ち出している。それなのになぜか、菅首相の助言者である尾身氏をバッシングする特集記事を2本も掲載した。

「小川榮太郎:『尾身茂亡国論』科学性ゼロの専門家集団」
「堤尭×久保紘之:蒟蒻(こんにゃく)問答『尾身茂こそ褌を締め直せ!』」

である。

   どうやら、緊急事態宣言による極端な社会制限、私権制限が「戦時中でもなければあり得ない最大級の人権侵害であり、生存権の侵害」であるが、その責任は政府分科会会長の尾身氏にあるというのが理由らしい。

「政府は尾身氏のスキャンダルを血眼で探っている」

   こうしたバッシングに対して、尾身氏の身を案じる人がいる。前宮崎県知事でタレントの東国原英夫氏だ。6月5日、自身のツイッターを更新。「尾身会長は覚悟したな。もう御用学者とは言わせない覚悟」と解説しつつ、こう投稿した。

「政府は、今、尾身会長の何かスキャンダルを血眼になって探っているのではないか。あそこの世界はそういう世界である」

と、自らの政治体験でも同様のことがあったのか、尾身会長への影響を心配したのだった=写真参照。

「尾身氏のスキャンダル探し」を心配する東国原英夫氏のツイート
「尾身氏のスキャンダル探し」を心配する東国原英夫氏のツイート

   もっとも、尾身氏の今回の発言については、称賛と共感の声が多い。特に同じ感染症の専門家はなおさらだ。6月7日放送のテレビ朝日系情報番組「羽鳥慎一モーニングショー」の取材に応じた北村義浩・日本医科大学教授は、こう語った。

「ひと言で言うと、非常にもっともなこと、私どもが言いたいことを全部きれいにまとめてくださっているなと思います。オリンピックで海外から選手、関係者が来日する。世界中がパンデミックの真っ最中。少し峠を越えて、ようやくひと息ついたというところですが、これで世界中から人が集まって、ウイルスの交換をし合って、また自国に戻る懸念がある。尾身先生は、日本人の健康だけではなく、世界の健康安全も配慮しています」

数百万円のホテル代を組織委に払わせる五輪貴族

「五輪貴族」の頂点、バッハIOC会長
「五輪貴族」の頂点、バッハIOC会長

   尾身氏は東京五輪では、特に世界中から来日する報道陣やIOC関係者の行動をコントロールできるかどうかが、非常に難しいと指摘していた。その中でも一番制御が難しいのが「特権貴族」と化した「IOCファミリー」だ。

   毎日新聞(6月7日付)のコラム「風知草:開催へ、もう一つの条件」で、山田孝男・特別編集委員が「ファミリー」の実態をこう明かしている。

「東京オリ・パラは時間切れ突入の流れで、『感染症対策をもっと厳格に』の声しきりだ。だが開催なら、クリアすべき条件がもう一つある。オリンピック・ファミリーと呼ばれる特権階級の入国制限だ。国民がガマンし、選手も不自由だというのに、ファミリーは五つ星ホテルでVIP待遇という大会契約が放置されている。いびつな契約をきっぱり正し、国民を納得させてもらいたい」
「オリ・パラで計5000人というファミリーの削減はあいまいなままだ。ファミリーの中核はIOC委員115人と通訳など随員、元委員、コンサルタント、国際競技団体と各国五輪委の幹部など、『運営に不可欠な人材』というタテマエだが、IOCが『ゲスト』と認定する知名士も含まれる」

   そのファミリーが信じられないほど傲慢極まりない人々なのだ。

「IOCの面々を『五輪貴族』と名付け、1980年代から追ってきた英国のジャーナリスト、アンドリュー・ジェニングスによれば、ファミリーは五倫貴族とその遊び仲間である国家元首、ヨーロッパの王族、各国の外交官、政府高官、スポンサー企業の重役...などである」
「開催都市契約の大会運営要件によれば、大会組織員会は、ファミリーに五つ星または四つ星ホテルのスイートルーム(1泊数十万円か数百万円)を含む1400室を提供しなくてならない。IOCの予算上限は1泊400ドル(現在のレートで4・4万円)。差額は組織委が支払う。あらゆる差別を認めないはずの、オリンピック憲章と相いれない異様な不平等として注目を集めている」

   なんと、数十、数百万円もする豪華ホテルの宿泊費のほとんどを東京五輪組織委が支払う契約だというのだ。こういう人たちが厳格な感染防止ルールを守ることなどあり得ないだろう。

   山田孝男記者は尾身氏への共感と、政府への怒りを込めて、こう結んでいる。

「尾身茂会長は強行するなら『何のためにやるのか』と根源的な問いを投げかけた。尾身氏の問いにどう考えるのか。丸川珠代五輪担当相は『我々はスポーツの持つ力を信じてやってきた』と応じ、つまり返答に窮した。丸川氏はこう答えるべきでなかったか。『感染症流行でも開く意義は、行き過ぎた商業化を改め、オリンピックの原点に立ち返るところにある。この決意を内外に示すため、オリンピック・ファミリーの特権を大胆に見直す。放置すれば、国と国、人と人の間の格差、不平等が広がる』」
(福田和郎)