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石炭火力発電「地球温暖化の元凶」とヤリ玉 政府、戦略見直しも道険し

   石炭火力発電所への風当たりが一段と強まっている。地球温暖化の元凶とヤリ玉にあがり、2021年6月11~13日に英国で開かれた主要7か国首脳会議(G7サミット)では、新たな輸出支援の年内停止で合意した。

   日本政府は石炭火力発電を国内の電源としても、インフラ輸出の目玉としても重視してきただけに、戦略見直しは不可避だが、展望は容易に開けそうもない。

  • 石炭火力発電に頼る日本はどうなる……
    石炭火力発電に頼る日本はどうなる……
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G7、石炭火力発電を締め出し 日本の「言い分」は通じず?

   今回のG7は、気候変動対策が主要テーマに位置づけられた。欧州連合(EU)からの離脱を果たし、外交の自由度が高まった議長国・英国のジョンソン首相は11月の国連気候変動枠組み条約 第26回締約国会議(COP26)でも議長国を務めることから、国民へのアピールも狙い、温暖化対策でのリーダーシップ発揮に力を入れたとされる。

   G7では初めて、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガス排出量を2030年までに10年比でほぼ半減させることで一致。中国、インド、ロシアなどの主要排出国を念頭に、G7以外にも排出削減目標の引き上げを求めた。

   そのうえでCO2排出量の多い石炭火力発電について、国外事業への公的支援停止に向けて年内に具体的な措置を取ることで合意した。ただし、支援停止の対象には「排出削減対策が講じられていない場合」との条件がついた。

   これについては、ちょっと説明が必要だ。

   この「ただし書き」は、排出量が比較的少ない高効率の石炭火力設備なら、輸出支援は問題ないとしてきた日本の主張を反映したものだ。だが、具体的な条件の定義は曖昧で、英国はCO2を回収・利用・貯留する「CCS」などの技術を備えたものを例示し、限定的に解釈する。

   これに対し日本は、2020年に、高効率に限定して輸出支援を認めるなど要件を厳格化したから、輸出支援を継続する方針に影響はないとの立場とされる。

   ただ、国際的に日本の主張が通るかは別だ。高効率な石炭火力でもCO2排出量は液化天然ガス(LNG)火力の2倍程度になる。「金がない途上国は安価な石炭に頼らざるを得ず、効率の悪い旧式の石炭火力を高効率の石炭火力に更新するだけでCO2は大きく減る」(経済産業省筋)という現実論も、「日本が輸出しなければ中国の石炭火力に取って代わられるだけ」(大手紙経済部デスク)という対中警戒論も、再生可能エネルギーなどに大きく転換しろという欧州を中心とした国際的な世論の中で、分は悪い。

国内でも割れる、環境省vs経産省

   国内でも、この点は論争のタネだった。高効率石炭火力の継続を主張する経産省に対し、環境省は石炭火力に消極的。今回のG7を受け、小泉進次郎環境相は「(高効率でも今後は)輸出支援の対象に含まれない」と語った。

   これに対し、梶山弘志経産相は「(合意の)言葉どおりに取ればそうなる」と述べ、高効率も含めた石炭火力の輸出支援禁止へ戦略の見直しを検討する考えを示した。

   政府は6月17日、インフラ輸出の司令塔である経協インフラ戦略会議(議長=加藤勝信官房長官)を開き、新たな「取組方針」を決めたが、これまで、経済性などを理由に石炭火力を選ばざるを得ない国から要請があった場合に、環境性能がトップクラスの石炭火力などであれば輸出支援できるとしていた記述を削除し、「排出削減対策が講じられていない石炭火力発電への政府による新規の国際的な直接支援を2021年末までに終了する」と、G7の宣言に合わせた。

   現在、政府系の国際協力銀行(JBIC)などが関わる既存の計画はベトナムやインドネシアなどで3件あり、いずれも支援を続ける方針だが、「これ以降の新たな案件は難しいだろう」(経産省筋)という。G7合意に沿って、輸出を控えるのはやむを得ないというのが政府内のコンセンサスになりつつあるというわけだ。

   では、それなのに、なぜ日本政府は石炭火力発電に固執するように「ファイティングポーズ」をとり続けるのか――。

   理由の一つは、国内での石炭への依存度の高さだ。国内の2019年度の総発電量に占める石炭火力の割合は32%とG7で最高。古くて低効率な石炭火力は30年までに更新・廃止すると決めた。しかし、43%以上の設備は30年以降も使い続ける方針で、策定中の新しいエネルギー基本計画でも、原発の見通しが不透明なこともあって、石炭火力は引き続き「ベースロード電源」と位置づけられ、30年度で2割程度の構成比を見込んでいる。このため、石炭火力をできるだけ維持できるよう、国際的な風圧を少しでも弱めたいというわけだ。

追い込まれる日本

   もう一つ、石炭以外の化石燃料への議論の拡大を抑えたい、遅らせたいという思惑も指摘される。世界では石炭に限らず、化石燃料全体をいかに削減していくかの議論が進み、今回のG7でも、海外の化石燃料関連事業への公的支援について、期限こそ示さなかったが、可能な限り早期に段階的に廃止することで合意している。

   日本は石炭だけでなく石油、LNGを含む化石燃料への依存が高く、公的支援額はG7の中で突出している。このため、「ガスや石油に焦点が当たらないよう、石炭についての議論を長引かせる必要があり、石炭火力の輸出支援で抵抗する必要があった」(大手紙経済部デスク)というわけだ。

   菅義偉首相は20年10月、温室効果ガスの排出量を「50年までに実質ゼロにする」と宣言、21年4月に温室効果ガス排出量を「30年度までに13年度比46%削減」とする新たな政府の中間目標も決定した。

   原発の扱いについて、J-CAST会社ウォッチでも「2030年『CO2 46%削減』目標 原発に縛られる政府、再生可能エネルギーは大丈夫か?」(5月4日付)で解説したが、石炭火力を含め、電源構成の見直し、それを裏付ける原発政策の明確化や再生エネルギー拡大の具体策など、対応が後手後手に回り、国際的にも追い込まれているといえるだろう。(ジャーナリスト 岸井雄作)