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「国際的にも低いニッポンの課長の指導力」 管理職の恥ずかしい現実を政府報告書が暴露した狙いは?

「日本経済をもう一度元気にするのは、全国の課長さんに頑張ってもらわなくては!」

と訴える報告書を政府が発表した。

   報告書は、内閣府が2021年8月10日に公式サイトに公開した「プライム市場時代の新しい企業組織の創出に向けて ~生え抜き主義からダイバーシティ登用主義への変革~」というタイトル。

   新進気鋭の経営者ら6人がまとめた、かなりとんがった内容で、日本企業をどん底に落とした日本企業トップを糾弾した内容は、J-CASTニュース会社ウォッチ(2021年8月24日付)でも、「『生え抜き』『ジイサン』『ニッポン人』...日本企業トップの恥ずかしい現実を政府報告書が暴露した狙いは?」で紹介した。今回は、その報告書から「管理職」編を伝える。

  • 部下を育てるのが管理職の一番の仕事だが…(写真はイメージ)
    部下を育てるのが管理職の一番の仕事だが…(写真はイメージ)
  • 部下を育てるのが管理職の一番の仕事だが…(写真はイメージ)

「日本の中間管理職の指導力は国際的にも低い」

   研究会の報告書には、日本企業の管理職の実態について衝撃的な数字が記されている。「中間管理職の指導力が課題 主要31か国との比較」とタイトルの付いた図だ=図表1参照

(図表1)日本の管理職の指導力が国際的にも低い(内閣官房公式サイトより)
(図表1)日本の管理職の指導力が国際的にも低い(内閣官房公式サイトより)

   OECD(経済協力開発機構)加盟国を中心とした31か国の企業の管理職と、日本企業の管理職の「能力」を比べたデータだ。「自分の業務計画」「他人の業務計画」「自分の時間管理」「説得や感化」「交渉」「助言供与」「指導・研修・教育」の7つの分野で共通テストを行い、それぞれ0~1点で評価した。

   図1で31か国の平均点が黄色で、日本の点数が赤で表されている。これを見ると、日本の管理職は「交渉」「助言供与」で平均点並みだが、それ以外の分野ではすべて平均点以下だ。特に「他人の業務計画」、つまり部下の仕事がうまくいっているかどうかを掌握する能力の評価が極めて低い。次いで評価が低いのは「自分の業務計画」、つまり部下どころか、自分の仕事の進行もうまくつかんでいないということだ。

   さらに「説得や感化」の評価も低い。確かにこんなありさまでは、部下に影響力を駆使することなどできないだろう。だから、「指導・研修・教育」能力も各国の平均より低くなるのは当然の結果だろう。

(図表2)管理職登用がどんどん遅くなっている(内閣官房公式サイトより)
(図表2)管理職登用がどんどん遅くなっている(内閣官房公式サイトより)

   なぜ、こんなに日本の管理職のレベルが下がっているのか。理由の一つに挙げられるのが「管理職の高齢化」だ。

   図表2を見ると明らかだが、日本社会の高齢化に伴い、社員の平均年齢もどんどん高齢化し、課長・部長になる年齢が後ろ倒しになっている。このため、経済発展が著しい中国やインドなどでは課長や部長に昇進する年齢が、生きのいい20代なのに対し、日本ではすっかりトウが立った30代後半から40代半ばという状態だ。加えて、女性の管理職が少なく、「オッサン社会」と化して多様性に乏しい=図表3参照

(図表3)日本では管理職になる年齢が高い(内閣官房公式サイトより)
(図表3)日本では管理職になる年齢が高い(内閣官房公式サイトより)

若手を抜擢する米国、「平等主義」で横並びの日本

   日本の企業には、横並びの「水平思考」があり、米国企業のように能力のある若手を早く昇進させるダイナミズム(活力)に欠ける。誰にでも昇進の可能性があるという「平等主義」の期待を抱かせるために、あえて昇進時期を遅らせるメカニズムが働くのだ=図表4参照

(図表4)若手を昇進させる米国、横並びの日本(内閣官房公式サイトより)
(図表4)若手を昇進させる米国、横並びの日本(内閣官房公式サイトより)

   その背景には、経験者ほど優遇する日本社会の悪しき文化があると、報告書は指摘する=図表5参照。本来、管理職は職場のリーダーだ。誰が管理職になるかは、その下で働く部下たちのとって重要な問題だ。しかし、実際は「長年職場で下積みの苦労をしてきた」といった「経験」が優遇され、多くは上長や会社の重鎮たちが密室人事で決めてしまう。報告書では、誰が管理職にふさわしいか、誰がどんなスキルを持っているのか、もっと情報を開示して職場の誰もが納得できる方法で選ぶべきだと主張する。

(図表5)経験者を優遇する悪しき日本社会(内閣官房公式サイトより)
(図表5)経験者を優遇する悪しき日本社会(内閣官房公式サイトより)

   経験者を優遇し、能力ある若手を抜擢して活躍の場を与えない日本文化は、政治の政界でも顕著だという。米国では大統領になるまでの政治家の経験年数の平均は11.5年だ。中にはトランプ氏のように0年、ジョージ・ブッシュ氏(父)のように4年、ジョージ・ブッシュ氏(息子)のように5.9年という例もある。英国でも首相になるまでの平均は16.6年だ。日本では首相になるまでに平均23.6年もかかるのだ=図表6参照

(図表6)政治の世界でも経験者優遇の日本(内閣官房公式サイトより)
(図表6)政治の世界でも経験者優遇の日本(内閣官房公式サイトより)

   こうした日本社会の弊害によって、日本企業の管理職は多くの課題を抱えている。

・AI(人口知能) が社会に浸透していくと、管理職はこれまでの形式的・定型的な管理業務がなくなり、ミドルマネージャー(中間経営者)として機敏な意思決定をすることが仕事となっていくのに、それができるのか。

・意思決定のスピード感が求められている中で、管理職の階層が多く、それぞれの責任範囲も不明瞭だ。欧米の企業のように、管理職のジョブディスクリプション(編集部注:ポストに就くときに渡される職務内容を明確に記述した書類)がない企業が多く、意思決定が遅くなっている。

・物事の意思決定が企業内の密室で行われ、経験者優遇傾向となっているため、経験者でポジションが埋まり、若者が経験を積むことができない。

・管理職の多様性がない。女性が少ないうえ、若者の登用率はむしろ低下している。遅い昇進が若者の成長を阻んでいる。

優秀な管理職に早くから「経営者」トレーニングを

日本企業には「女性」と「若手」の管理職が少なすぎる(写真はイメージ)
日本企業には「女性」と「若手」の管理職が少なすぎる(写真はイメージ)

   こうした管理職を阻んでいる壁をどう突き破っていけばよいのか――。報告書はこう提言をしている。

(1)部下の業務管理にあたっては、マネジメントの基本である「ジョブディスプリクション」(仕事内容の明確化)を行う必要がある。また、管理職の一番の仕事は部下を育てること。管理職の人事評価では部下の育成を最も重視すべきだ。また、部下の成果評価・能力評価は直属の管理職が行うべきだ。

(2)管理職が「中間経営者」として成長するには、経営のトレーニングを受け始めるのが遅くなっている。経営者候補者を早い段階で特定して、社内に情報を開示する。計画的に経営経験を積ませるため、期間限定で経営に参画させたり、他社に派遣して見識を広めさせたりするべきだ。

(3)経験者優遇に基づく平社員・管理職・執行役員・経営者と順番に上がっていく人事慣行では、グローバル社会ではやっていけない。新卒一括採用・年功序列で40年間あまり考え方が変わらない人材ばかりの企業は通用しない。中途採用をどれだけ増やすかが、これからの日本の勝負だ。

(福田和郎)